家康饗応で出た森蘭丸の台詞の意味

いやがらせのような信長の態度に怒りが爆発寸前の光秀(演・長谷川博己)。

A:ところで、今週は安土城での家康饗応が描かれました。『麒麟がくる』の家康といえば、信長によって父広忠(演・浅利陽介)を殺害され、長じてからは妻と嫡男までもが信長に命じられて殺害されたわけです。その心中やいかばかりかと思うのですが、劇中では、忍耐の男を貫いています。

I:まさに、〈鳴くまで待とうホトトギス〉ですね。ところで、家康と光秀が仲良くしているところを見て信長が嫉妬しているような気がしました。信長が光秀に蹴りを入れる場面は、2002年の『利家のまつ』で萩原健一さん演じる光秀が反町隆史さん演じる信長に殴打されるシーンがありましたが、そのはるか上をいく凄絶なシーンでした。

A:それはまあ、その通りなのですが、初めて光秀が主人公になった大河ドラマで「信長の非道を強調する古典的描写」である饗応の場面がでてきたことはちょっと残念でした。俳優陣の熱演が心に響いて来るだけになおさらそう思います。そういう中で、特筆すべきシーンがありました。このやり取りの中で、信長近習の森蘭丸が光秀に対して激しい口調で〈上様に粗相をなさったな。無礼であろう!〉と迫ったシーンです。

I:はい。ちょっとびっくりなシーンでした。

A:例によって三重大の藤田達生教授の『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』の受け売りなのですが、当時、信長は一門や若手側近衆を取り立てることに熱心で、そのあおりで光秀や柴田勝家、秀吉らの宿老層の間で危機感が生まれていたといいます。同書にはこうあります。〈従来のように、宿老層を使って重要政策を執行するのか、若い一門・近習を中心とする専制的かつ集権的な国家創出か、政権を分裂させかねないような対立があり、天下統一を目前に控えた時期、信長は専制化と政権中枢の世代交代を進めるべく、後者に大きく舵を切ろうとしていた〉――。

I:なるほど。信長近習の力が増していたということを踏まえると、森蘭丸のいささか「どっちが無礼だ」とも受け取れるシーンも得心できますね。

A:そうした状況の中で、宿老の光秀の中で抑えがたい感情が成長していくわけです。もちろん秀吉や柴田勝家らも同じように追い込まれていたはずです。それが、信長が月を目指してよじ登っている木を、光秀が切り倒そうとしているという夢となって光秀を苦しめる。実にドラマティックな描写でした。

I:信長が目指していた月が三日月というのが印象的でした。信長の安土城のモチーフが満月で、光秀の坂本城のモチーフが三日月ですから。やっぱり、光秀麒麟説ですかね!?

秀吉(演・佐々木蔵之介)と細川藤孝(演・眞島秀和)の動きも気になる!

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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