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モダン・ジャズ時代のジャズは、現在では(LPレコードをもとにした)「アルバム」が鑑賞の基本単位になっています。作り手も聴き手も、このアルバムという「作品集」の形をはっきりと認識したのは、1940年代末にLPレコードという「新しいメディア」が生まれたときからですが(いきさつは第41回から4回にわたって説明しています)、このときもうひとつの新しいメディアが誕生しました。それは7インチの「シングル盤」。それらの登場以前、レコードは10インチ78回転のいわゆるSPレコード(英語では「78s」と書かれます)でした。SPレコードは「片面1曲しか入らない10インチのレコード」なのですが、大きさはそのままで長時間(=多数の曲)収録できるようにしたのが33回転LPレコードで、曲数そのままでサイズを小さくしたのが45回転シングル盤(同「45s」)でした。当初のシングル盤は、1曲を売る、いわゆる「シングル」としてリリースするもののほか、3、4枚をセットにした「アルバム」でLPに対抗するものもありました。今の感覚でみれば、LPアルバムのほうが鑑賞には便利に思われますが、発売当時のリスナーはそれまでのSPレコードの「片面1曲」という聴き方に慣れており、また「シングル」で買えば値段が安いこともあってLPよりもシングル盤のほうが評判がよかったという話も伝えられています。ともあれ、出発点は同じ「SPレコードの発展形代替メディア」でしたが、次第にLPとシングルは違う目的をもつようになっていきました。

LPは冒頭に書いたように「鑑賞用」、ミュージシャンにとっては「作品」として発表するためのメディアになり、そして一方のシングルは娯楽としてのメディア、といっていいのかわかりませんが、いわゆる「ポップス」のためのメディアとなりました。大きくて壊れやすいというSPレコードの欠点を克服したシングル盤は、ジュークボックスの機能を進化させ、音楽産業の新しいチャンネルをも作ったのでした。そして、ジャズのレコード会社はこぞってシングル盤市場に参戦しました。


ルー・ドナルドソン『アリゲーター・ブーガルー』(ブルーノート/シングル盤)
演奏:ルー・ドナルドソン(アルト・サックス)、メルヴィン・ラスティ(コルネット)、ロニー・スミス(オルガン)、ジョージ・ベンソン(ギター)、レオ・モリス(ドラムス)
録音:1967年4月7日
アルバム『アリゲーター・ブーガルー』からのシングル・カットだが、アルバム・ヴァージョンが6分45秒あるのに対し、こちらは2分52秒。アルバム・ヴァージョンにあるコルネットのソロをまるごとカットするなどの編集がなされている。聴きやすいと考えるか、物足りないと聴くか。

ジャズのシングル?と意外に思う方も多いと思いますが、いちばん固そうな、というか商売っ気がなさそうなブルーノート・レコードのシングル盤を見てみましょう。ブルノートのLP(10インチ)の初リリースは1951年ですが、初シングル盤は1955年(頃)リリースのアート・ブレイキーの『メッセージ・フロム・ケニア/ナッシング・バット・ザ・ソウル』でした。シングルの世界では後発だったのですが、ここからの勢いがすごいのです。1965年までの10年間でなんと約300枚もリリースしているのです。そして、なにかとブルーノートと比較される同時代のライバル、プレスティッジ・レコードはどうでしょう。ブルーノートよりずっと早い1950年に最初のシングル盤をリリースし、65年ころまでにはなんと500枚以上もリリースしているのです。

シングル盤のリリースはアルバムのプロモーションとしても重要だったとは思いますが、いちばんの理由は「売れるから」「商売になるから」だったはず。売れなければこんなに出しませんよね。また、ブルーノートでは「アルバムのシングル・カット」だけでなく、「シングル盤のためのセッション」を行ない、「シングル盤だけの音源」がたくさんあったことも、それを裏付けていると思います。

しかし、ヒットの熱が冷めるとまったく見向きもされなくなるというポップス(としての扱い)ゆえの宿命か、レコードのブツは残らず(どこにある?)、当然CDにもならずに(つまりほとんど当時の人しか耳にすることなく)多くの音源が消えたり、埋もれたままになってしまっているのです。次回は、この「ジャズのシングル盤」をもう少し詳しく見ていきます。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ「絶対名曲」』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究 3』、『村井康司著/ページをめくるとジャズが聞こえる』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

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