マツダの車たちは常に、「心ときめくドライビング体験」を提供することを目指して開発されてきました。その姿勢は、先進技術開発の場でも変わりません。たとえば、近未来のカーライフを支えてくれる「自動運転」技術開発についても、コアにあるのは人間中心の開発手法です。人に寄り添い、人に優しくありたいと願いつづけてきたマツダ流モノづくりの哲学……高齢化、コロナ禍といったさまざまな変化が起こる時代に、その取り組みがどんな実りをもたらしてくれるのか、検証してみたいと思います。
「人間にとって気持ちいい工学」に満ちる心配り
2019年、公益社団法人 計測自動制御学会が発行する学会誌「計測と制御」に、「マツダの目指す自動車の未来像」と題した寄稿文が掲載されました。著者は、マツダの商品戦略本部に所属する栃岡孝宏さん。自動運転など安全運転支援にまつわる最先端の技術開発、製品開発の中心として長年活動されています。
寄稿文の中で栃岡さんは、マツダの自動運転技術が「人間中心の開発哲学に基づいて、人が運転することを前提に先進技術を活用していきたい」と明言しています。どれほど技術が進歩したとしても車まかせにしたままでは、マツダが追求し続けている「運転する楽しさ」など感じられるはずもありません。
ですからマツダが開発している自動運転技術の根本には、「普段、運転するのはあくまで人間。自動車は、必要な時だけ適切にサポートすればいい」というロジックが息づいています。
自動運転を含めた先進技術の呼称「マツダ コ・パイロット コンセプト」という名称は、まさにそんな考え方を端的に表現している、と言えるでしょう。「コ・パイロット」とは航空業界で使われる用語で「副操縦士」を意味しています。つまりあくまでも、機長(ドライバー)の安全な操縦(運転)をサポートする役割が与えられている技術なのです。
もっとも、ひとくちにサポートと言っても、本当に必要な時だけ適切な塩梅で介入させるのはなかなか難しいもの。そこで栃岡さんら研究開発に携わる面々は、人間の身体の動きや脳の働きなどを研究し、運転している時の精神状態や身体の状態をしっかり把握するところから取り組みを始めました。「人を知ること」で、アシストが必要なタイミングやフォローの程度を推し量ろうと考えたのでした。
そうした取り組みは、自動運転が実用化される前からすでに、さまざまな魅力をマツダ車にプラスしています。たとえば「コントロールするのがより自由自在なアクセルペダル」も、そのひとつ。ヨーロッパの高級車ブランドが採用する「オルガン式」ペダルを採用して、疲れにくく操作しやすい運転感覚を実現しています。
ほかにもシート構造、インターフェイスの配置、視界性能といった運転環境のクオリティを向上させる要素について、徹底した検証と研究が進められてきました。
自動車作りの現場ではよく「人間工学に基づいて」という表現が使われますが、マツダの場合は「人間にとって気持ちいい工学」と言い換えたほうが合っているかもしれません。そこでつきつめられた「気持ちよさ」こそが、マツダ車全体に共通する優しさの大きなエッセンスのひとつなのです。
高齢者ドライバーの「安全運転寿命」を延ばす術
マツダの「人を知る」取り組みは、高齢者ドライバーの問題に関しても大きな影響を与えようとしています。世間一般では危険で迷惑……と、とかくネガティブに捉えられがち。けれど実は「自動車の運転」には、認知症予防などのポジティブな一面もあることが、次第に明らかになっているのです。
前述した「マツダの目指す自動車の未来像」において栃岡さんは、運転することが心身の活性化につながるという具体的な研究成果を紹介しています。自動車を運転する前と後、それぞれの脳内の血の流れを計測してみたところ、とくに物の形や配置、会話などに関連する記憶をつかさどる部位の機能が活性化していることがわかったのです。
そうした結果を見る限り、運転にはボケ防止の効果が期待できるようだ、と言っていいでしょう。
同時に実施された「音声病態分析」という手法による検証では、運転することで心の活動が活性化し、元気になっていくこともわかったそうです。
一方で、そうした「運転効果」を高めるためには、ドライバーに適度な緊張感を与えるとよいことが指摘されています。つまり自動車になんらかの運転支援技術を盛り込む場合にも、完全に車任せのストレスフリーではなく、ちょうどいい程度のサポートが必要になるというわけです。
ですからマツダのテクノロジーは、ただ優しいだけではありません。とりもなおさず「運転するのはあくまで人間」というブレない目線から、最適なサポートの実現を目指しているのです。
人生をよりよく生き続けることにつながる先端技術たち
とはいえ本格的な自動運転の実現には、まだ少し時間がかかりそうです。一方で「ポスト自動運転」と呼びたくなる先進安全運転技術が、市販されるモデルにも急速に普及し始めています。かつては高級車でなければ装備できないような高度な支援システムが、ベーシックカーのようなとても身近なジャンルにまでしっかり浸透しているのは、驚くべきことです。
マツダではそうした先進技術群を総称して、「i-ACTIVSENSE(アイ・アクティブセンス)」と呼んでいます。
すでにほとんどのマツダ車に採用されている技術は、枚挙にいとまがありません。日常的に一般道を走っている時の衝突回避や被害軽減、バックする時に接近してくる車や障害物を検知、衝突被害を軽減、ペダルの踏み間違いによる急加速などの危険回避をサポート。ヘッドライトの照射範囲や明るさを自動的に変化させる先進のライティングシステムをはじめ、夜間の視認性向上にも、さまざまな工夫が盛り込まれています。
さらに運転中のストレスを軽減するための装備も充実。車線に沿って安定した走行をアシストしてくれたり、交通標識を認識、表示したり、渋滞時まで前を走る車に追従して加減速をコントロールしてくれる最新のレーダークルーズコントロールまで備えています。
マツダがこうした先進技術を積極的に展開する背景には、2017年に公表された技術開発の長期ビジョン「サスティナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」があります。ここで謳われているサスティナブルとは、環境に優しいという意味での自動車文化の「持続可能性」を意味すると同時に、人生をよりよく生き続けるという「ウェルビーイング」にもつながっているように思えます。
それを実現するための理想的運転環境と先進的な安全運転支援技術を統合する安全思想を、マツダは「MAZDA PROACTIVE SAFETY」と呼びます。
自動車の運転はさまざまな意味で、生きる歓びに満ち溢れた時間を満喫させてくれるもの。マツダは車作りを通して、近未来に訪れるかもしれない理想のカーライフに向けた道しるべを、提案し続けているのです。
文/神原 久
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