光秀(左/演・長谷川博己)は、急な上洛を果たした織田信長(演・染谷将太)を暗殺計画から救う。

光秀(写真右/演・長谷川博己)は、急な上洛を果たした織田信長(演・染谷将太)を暗殺計画から救う。

信長の突然の上洛、斎藤義龍による暗殺計画、そして信長による弟殺し。光秀が越前で雌伏の時を過ごす中、戦国乱世は大きな転換点を迎えつつある。

* * *

ライターI(以下I):越前編も2週目を迎えました。光秀が称念寺(福井県坂井市)の住職の世話で子供たちに学問を教えていました。

編集者A(以下A):『論語』を素読していましたね。称念寺は、朝倉氏の本拠のある一乗谷からは約20㎞。そこそこ離れていますが、光秀が称念寺の世話になっていたのは史実のようです。三重大学の藤田達生教授の著書『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』にはこんな記述があります。

〈近年においては、朝倉氏に仕える時期に越前丸岡の長崎称念寺(福井県坂井市)に夫婦で寄寓していたことが注目されている。同寺の住職の計らいで連歌会を朝倉氏家臣と開き、それが契機となって朝倉氏に仕官できたとするのである〉

I:捨てる神あれば拾う神あり。縁とは不思議なものだと強く感じますが、縁を手繰り寄せるのも才覚のうちですからね。

A:さて、この回では、信長(演・染谷将太)や斎藤高政改め義龍(演・伊藤英明)の上洛が描かれました。ほぼ同時期に越後の上杉謙信も2度目の上洛を果たしています。

I:斎藤義龍が、信長を暗殺する動きがありました。時が経って義龍は孤独な権力者になって、相談できる相手もおらず苦悩している様子でした。「後悔している」といって、うっすら目に涙を浮かべていましたね。今回で最後の登場です。

A:義龍による信長暗殺計画のくだりは『信長公記』にも詳細が記録されています。それによると、永禄2年(1559)2月、信長は唐突に上洛すると言い出して80人の供回りで上洛。京の都、奈良、堺を見物したのちに、将軍足利義輝(演・向井理)に謁見したようです。

I:信長は、奈良や堺も見物していたのですね。それで松永久秀(演・吉田鋼太郎)に尾張と摂津を交換したいなんて要求したんですね。それは興味深いですねえ。でも、上杉謙信、斎藤義龍、織田信長とほぼ同時期に謁見する将軍義輝、来るものは拒まずということなんでしょうが、節操がない感じがします(笑)。

A:当時の将軍家はもう背に腹はかえられないのですよ。それだけひっ迫していたということでしょう。力を失った将軍の様子を向井理さんが憂いを漂わせて好演していました。さて、この信長初上洛ですが、『麒麟がくる』でも〈上洛する信長殿を刺客が狙っている〉と説明されましたが、斎藤義龍による信長暗殺計画が浮上します。『信長公記』では、丹羽兵蔵という家臣が先乗りした際に怪しげな美濃衆と出会って、信長暗殺の計画があることを掴むというストーリーになっています。

I:丹羽兵蔵? 丹羽長秀の一族かなんかですか?

A:いや、それがよくわからんのですよ。丹羽兵蔵の出自が。普通に考えたら丹羽長秀の一族かとも思われますが、その後の動静もよくわからず、もしかしたら『麒麟がくる』の菊丸(演・岡村隆史)みたいな間者だったのかなあ、なんて妄想したくなる描写です。『信長公記』の描き方は、並の時代小説を超えて臨場感があって面白いですよ。

上洛中の信長の暗殺を企てていた斎藤義龍(演・伊藤英明)。ドラマでは今回で最後の登場となる。

上洛中の信長の暗殺を企てていた斎藤義龍(演・伊藤英明)。ドラマでは今回で最後の登場となる。

久方ぶりに登場の松永久秀は京都を牛耳っていた

I:さて、今回は久方ぶりに松永久秀が登場しました。

A:このころ将軍義輝は、京を離れて朽木谷に滞在することが多く、実際に京を牛耳っていたのは三好長慶(演・山路和弘)、松永久秀です。後奈良天皇が禁裏の修繕を依頼したのも将軍ではなく、三好・松永だったそうです。その権勢は幕府を凌駕していた。ちょうどこの時は、三好・松永らと和睦して将軍義輝が、京に戻っていたタイミングで信長に会ったということになります。しかし、信長暗殺を阻止するために、光秀が松永久秀を利用するとは予想外でした(笑)。

I:朝倉義景が光秀に託して将軍に鷹を献上して「様子見」をするという話題も出てきました。

A:鷹は当時の一大産業の側面もあります。後に信長の権勢が増すと各地の大名はこぞって信長に鷹を献上したといいますし、信長と五摂家の近衛前久(演・本郷奏多)とを結びつけたのも鷹だったといわれるくらいです。

I:鷹って戦国のキーアイテムなのですね。いずれにしても『麒麟がくる』で、道三親子の争いや尾張の織田家統一の動きが描かれている間に、都の政局も大きく動いていたことになります。それにしても三好長慶や松永久秀が大河ドラマに登場するだけで、喜んでいましたが、もっともっと登場してほしいという欲が出てきますね。

A:いずれ、三好や松永、あるいは近衛前久などがメインで登場する大河が採用されることを気長に待ちましょう(笑)。

I: さて、今週は光秀、煕子(演・木村文乃)夫妻に〈ややこができた〉みたいです。これは後の誰になるのでしょうか。

A:光秀の子女というと細川忠興に嫁した玉子(後の細川ガラシャ)や長男・光慶などが知られていますが、このときできた〈ややこ〉はそのいずれでもありません。前半生が謎に包まれた光秀はその子女についても謎が多いのです。

I:最後になりますが、第19話では、〈幼き時より遠ざけられました。母上を喜ばそうとすればするほど遠ざけられました〉という信長の慟哭が印象に残りました。母違いならいざ知らず、信長と信勝は同腹です。実の母・土田御前(演・壇れい)が弟の信勝びいきだったことが信長にどれだけの傷を与えていたのか、と考えると涙が出てきます。

A:その心の傷を埋めたのが、帰蝶(演・川口春奈)なのではないかと。おそらく今後も帰蝶は信長を支え続けていくのだと思います。そこがどう描かれるのかも注目ですね。

妻煕子(演・木村文乃)の懐妊を喜ぶ光秀。

妻煕子(演・木村文乃)の懐妊を喜ぶ光秀。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。

●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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