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取材・文/坂口鈴香

himawariinさんによる写真ACからの写真

【1】【2】では、コロナ禍において高齢の親を支える子世代の声を紹介するとともに、新型コロナウイルスがもたらした孤独について考えた。

【3】では、孤独を乗り越える方法を考えてみたい。親世代である五木寛之氏の『孤独のすすめ』からそのヒントを探るとともに、なかなか会えない高齢の親に対して子世代はどうコミュニケーションをはかればよいのか、公認心理師・臨床心理士の高橋幸市氏にお話を伺った。

【2】はこちら

「前向きでなくてよい。シフトダウンして、孤独を楽しむ」

五木寛之氏は、『孤独のすすめ』で、我が国の人びとはみな「漠たる不安」に苛まれていると指摘する。今は新型コロナウイルスという明確な、そして先の見えない不安に満ちている。

さらに、老いによって孤独は加速する。

“体が思うように動かず、外出もままならない。訪ねてくる人もおらず、何もすることがなく、無聊をかこつ日々。世の中からなんとなく取り残されてしまったようで、寂しいし、不安だし、人によっては鬱状態におちいりかねない。”(『孤独のすすめ』(中公新書)p6)

そんな孤独のなかにあっても、“歳を重ねるごとに孤独に強くなり、孤独のすばらしさを知る。孤立を恐れず、孤独を楽しむのは、人生後半期のすごく充実した生き方のひとつ”(同p7)とも言い切る。

歳を重ねても「回想する力」は残っている

「孤独を楽しむ」ために必要なのは、歳を重ねても残っている力を使うこと。それが、「回想する力」だ。

“たとえ視力がおとろえて、本を読む力が失われたとしても、回想する力は残っているはずです”(同p7)

五木氏は、回想の方法をこう書いている。

“何もないところで回想の抽斗を開けるのは、そうそう簡単ではありません。しかしモノがあることで、そこから記憶が引き出される。モノはいわば、回想の憑代(よりしろ)といってもいい、だからどんなモノでも、捨てずにとっておくことには大きな意味があります。
例えば古いマッチ。(中略)そんな古いマッチを手にとると、喫茶店の風景が蘇り、友人や恋人との会話も思い出す。コーヒーでも飲みながらあれこれ思い出していたら、あっという間に半日くらいたつはずです。そして過ぎ去った日々を思う感傷とともに、なにやらあたたかいものが、心にじわーっと広がっていく。なんと幸福な時間でしょう。
だから使わないマッチを缶にため込んでおくのは、決して悪いことではない。むしろ、いいことなんです。若い人は「こんなものを取っておいて、なんの意味があるのか」「捨てればいいのに」と言うかもしれませんが、缶の蓋を開けたら、そこには回想の糸口がたくさん詰まっているわけですから。”(同p146-147)

自粛生活で、断捨離に取り組んだ人も多いと思うが、こと高齢の親にとっては、捨てられなくてため込んでいたモノは、“かけがえのない財産”となるのだ。

擬人化できる存在を身近におく

公認心理師・臨床心理士の高橋幸市氏は、「ひとりで暮らしている高齢者も、話し相手がいないと気持ちは後ろ向きになるし、抑うつ気分は膨らむ」と指摘する。

日常生活で、人とコミュニケーションを取る機会が激減したコロナの時代。いったい、誰と話したらよいのだろうか?

「たとえば、昔の家族の写真を飾って写真に語りかける。鉢植えの花に水をやり、光をあてて話しかけるなど、擬人化できる存在を身近においておくとよいでしょう。また、昔の手紙や写真を引っ張り出して整理するのもよいですね。時間はすぐに経ってしまいますし、昔の記憶や体験をよみがえらせることは有効です」

ここでも、力を発揮するのは五木氏がいうように「回想する力」のようだ。では、離れて暮らす家族は、親とどう接すればよいのだろうか。

「電話で長話するのも、聞き取る能力が低下した高齢者には負担なので、最近撮った写真を短い手紙に同封して送ってあげるのはどうでしょう。もちろん、画像や動画を共有できる環境があればそれに勝るものはないかもしれませんが、意外に手紙や写真は、余計なものが伝わらないのでおすすめです」

親子で昔話をしよう

会って、話ができる機会があればおすすめしたいのが、昔話だ。

「記憶をさかのぼるように、昔の話、若いころの話を聞かせてもらうことは、親子双方にとって意味があります」

親子が共有する思い出は、会話と回想の糸口になる。昔行った場所、親がはじめて買ってきた車やテレビ、懐かしい人たち、そして親が子どもだった頃の思い出……。子世代にとっても、癒しの時間となるに違いない。

親子で会話するときに気をつけたいのが、「子どもが親にお説教をしてしまうこと」。子どもが親の体を心配するのは当然だが、命令口調になりがちなので注意したい。

「子どもは言葉に重きを置かない方がよいでしょう。それよりも、手を握ったり、さすったりする方がよい。もし、言葉をかけるなら、『いいよ』とか『そうだね』。『ちゃんとしてよ』といったようなお説教は有害ですらあります。親は責められている感を増幅し、安心感を攻撃されるので、結果的に不安を高め、被害感が生まれます」

もうひとつ注意しておきたのが、親の生活状況にみられる心身状況低下のサインだ。

「今まで普通にできていたことができなくなるのは、機能や意欲の低下が考えられます。『後片付けができない』『食べることが楽しみにならない』『入浴しない』『着替えなくなる』『身だしなみに気がいかない』『怒りっぽい』など、生活に支障をきたすようになれば、医療機関への受診も考えてください」

コロナ禍で外に出る機会が減り、生活が不活発になったことが原因で心身の機能が低下する「生活不活発病」の高齢者が増えているという。認知症や高齢者の鬱の可能性も考えられるので、気をつけておきたい。親が介護サービスを受けていないなら、民生委員や担当区域の地域包括支援センターに、親の情報と子どもの連絡先を伝えておくとよいだろう。

* * *

これまで誰も経験したことのないコロナ時代。新型コロナウイルスがもたらした孤独は、親や自分の内面と深く対話するきっかけになるかもしれない。新型コロナウイルスは、悪い面ばかりではない、とはとても言えないが、学ぶことはきっとあるはずだ。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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