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今回のテーマは「ジャズ・グループの個性」。第17回でも触れていますが、史上初のジャズ・レコードはオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドというグループによるものだったことをみると、ジャズの発祥はグループが基本だったと思われます。そしてその後のビッグバンド全盛の時代はまさに、ジャズは「グループ・サウンド」として発展しました。しかし、1940年代半ばからのモダン・ジャズ時代には小編成バンドが中心となり、それからはグループ名の多くが「リーダー名+編成」で呼ばれることからもわかるように、「個人」が重視されるようになり、「グループ・サウンド」は少数派といえる状況になりました。

そういった中で、あえて固定メンバーで特別なグループ名を名乗って活動しているグループは、そのグループにしかない、個人では出せない個性表現を追究しました。そうでなくてはバンド名を名乗る意味がありません。この時代なら、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ、モダン・ジャズ・カルテットがよく知られるところです。どちらも一聴きしてわかるとても個性的な「グループ・サウンド」が特徴です。

さて、ここからは前回までの「フィーチャリング・スーパー・ジャズ・セッション」にも繫がるのですが、そのグループをまるごとそのまま「バック・バンド」としてフィーチャーしてアルバムを作った人がいました。これは普通に考えれば、強固な「グループ・サウンド」があるだけに、グループの方が音楽の中心になってしまいそうです。一方、うまくそれを取り込めば、「バンドをまとめる」必要なく、その先まで見通して音楽をつくることができます。「自分」を出すことに意味があるジャズにおいて、これは大胆な発想かつ危険な賭けともいえることでしょう。

それを実行したのは、オランダのヴォーカリスト、リタ・ライス。1956年録音の『ザ・クール・ヴォイス・オブ・リタ・ライス』(フィリップス)の6曲(LP片面)で、なんとアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(以下メッセンジャーズ)をまるごと「歌伴」でフィーチャーしたのです。リタは55年にオランダのグループとレコーディングしたあと、56年春、ニューヨークに渡りメッセンジャーズとレコーディングし、1枚のアルバムにまとめました。

『ザ・クール・ヴォイス・オブ・リタ・ライス』(フィリップス)

演奏:リタ・ライス(ヴォーカル)、ドナルド・バード(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー・サックス)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)、アイラ・サリヴァン(テナー・サックス※)、ケニー・ドリュー(ピアノ※)、ウィルバー・ウェア(ベース※)
録音:1956年5月3日、6月25日(※)[LPのB面] ※印の3人も当時のメッセンジャーズのメンバー。

当時リタは新人で、これがファースト・アルバム。メッセンジャーズは前年に録音した『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ』を発表。これは「ジャズ・メッセンジャーズ」名義で録音された最初のアルバムなので、グループとしては同じく新人ですが、キャリア的にはベテランたち。リタのアルバム録音の翌日5月4日には『ザ・ジャズ・メッセンジャーズ』(コロンビア)を録音しています。ですから、この昇り調子のメッセンジャーズの名前を利用しようというところもあったのでしょうが、ニューヨークへ出てきたばかりの新人が、メッセンジャーズと互角に渡り合うことができるのか……。

『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ vol.1』(ブルーノート)

演奏:ケニー・ドーハム(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー・サックス)、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)  録音:1955年11月23日   これは「ジャズ・メッセンジャーズ」名義で録音された最初のアルバムなので、このメンバーはオリジナル・ジャズ・メッセンジャーズと呼ばれます。

……できました。これがじつに素晴らしいのです。ドーハム、モブレー、シルヴァーのソロもたっぷり、ブレイキーの派手なフィル・インやドラム・ロールも随所で炸裂。いかにも「ハード・バップ」(というかメッセンジャーズ・サウンド)のハモりもアレンジされ、つまりまったくいつも通りでしかも好調のメッセンジャーズなのですが、リタはまったく飲み込まれることなく、堂々と自己主張しているのです。

リタにとっては、ファースト・アルバムなのに人気グループを「従えた」大物感を演出。メッセンジャーズにとっては、他にはない歌伴(さすがの実力)という意外な一面も聴けるという、双方にとって有意義なものになったのでした。もっと聴いてみたいのですが、両者の共演は残念ながらこれが最初で最後となりました。『クール・ヴォイス・オブ〜』というタイトルとジャケットから、この内容が想像できないのが残念。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『プレイリスト・ウィズ・ライナーノーツ「絶対名曲20」』を現在シリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz/)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/伝説のライヴ・イン・ジャパン』、『村井康司著/ページをめくるとジャズが聞こえる』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)などを手がける。

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