文/倉田大輔
2020年、新型コロナウィルス感染が世界中でニュースになっています。飛行機や旅客船など交通手段にも影響が出ていますから、国内・海外問わず「旅を控えよう」と考える方も多いかもしれません。
日本旅行医学会認定医で、旅の医学に携わる人間として、アクシデントに負けない旅支度をご紹介します。なお、私自身が数年前に身をもって学んだ旅の教訓を基にしています。
・旅にアクシデントはつきもの!私の経験から
私は海外渡航(リゾートトラベル)外来で、様々な旅行者・出張者・海外赴任者と話をしています。
道中に山賊や盗賊に襲われる危険が常にあった昔の旅とは異なり、私たちは「旅は安全!アクシデントは無縁!」と思っていますよね。私自身もそう信じていました……。
私は数年前に国内のある場所に出張に行きました。天候不順による飛行機の欠航で、他の同行者たちは現地で延泊する選択をしました。私は翌日の打合せのため、何としても当日中に戻る必要があり、新たな片道航空券を慌てて購入し、飛び乗りました。ところが現地空港着陸後、大雪の影響で、飛行機内から降りられず、機内で待機することになり、様々な人間模様に遭遇しました。
機内での携帯電話の使用が認められたため「知人や家族に延々電話をかける人、航空会社や行政機関に苦情電話をする人」、「機内の客室乗務員にいつ降りられるのかと強く詰め寄る人」など。飲み物サービスも1人2回分程度しかない上、国内線なので食べ物も搭載されていません。夕食の時間帯で空腹から皆さん非常にイライラしていました。
機内に流れる映像が「グルメ番組」で怒りを大きくした可能性はありそうです。こういう時は、世界遺産の映像などを放映すべきだったでしょうね。
私は、飛行機に乗る際に「ペットボトルの水かお茶500ml」と「お菓子(柿の種:携帯しやすい)や飴」を持ち込みます。緊急事態の遭遇に備えてというよりは、単に小腹が空いた時のため用です。
私が乗っている機材の前方にも何機か同様の状態であったので、長期持久戦を覚悟しました。本当の緊急時に備え携帯電話の電源を切り、飲み物をチビチビ飲み、柿の種を食べ、周囲の人間観察を始めました。
先ほどまで、威勢よく電話をかけ、大声で客室乗務員に詰め寄っていた人も、2~3時間経つと「携帯電話の充電も無く、話し疲れ」から、スヤスヤ寝だします。
着陸後約6時間後に無事に飛行機を降りることができましたが、「閉鎖空間での人間行動を目の当りに出来た」ことは私にとっては得難い経験でした。
私自身、お土産用に購入していたお菓子の存在を忘れていました(食べる選択を思いつかなかった)。飛行機を降りてから気が付いたことを考えると、結構緊張していたのかもしれませんね。
・旅に出る前!
持病がある場合は旅行前に受診し、旅に行くことを主治医に伝えることをお勧めします。処方されている薬を飲む時間(時差がある国への旅行)などについてアドバイスを受けられるでしょう。
日本は世界に比べて「粉薬」の種類が多いです。体重などによって飲む量を調節できるのが粉薬の利点ですが、「多量の白い粉薬」は海外で違法薬物と誤解される可能性もあります。
カプセルや錠剤などに替える、「解熱剤(Antifebrile, Medicine of controlling fever)」、「痛み止め(Painkiller)」など薬の成分について、皆さん自身が説明できるようにメモ書きなどを持って行くと良いでしょう。
破傷風や肝炎などの感染症を予防するワクチンなどもありますので、旅程が決まったら早めに海外渡航外来を受診し準備することも重要です。
<旅に持病薬を持って行く際の三原則‼︎>
1)持病の薬(常用薬)は、「旅程日数+7~10日分」余分に持参する
2)荷物の紛失盗難に備えるため、分散して持つ
3)予期せぬ旅程延長に備え、「お薬手帳や説明書(調剤薬局で処方時のもの)」を持参する
・旅の途中!
海外では日本と違い、救急車は無料ではなく、数万円の費用がかかることがあります。
それでも心筋梗塞や脳卒中など命に関わる状態の時は、救急車を呼ぶべきです。緊急時で、慣れない外国で「場所の説明が難しい時」は、ホテルのフロントなどに呼んでもらうことが安心です。
海外の薬局で販売されている薬は、日本と異なります。効果の強弱の違いや説明が現地語で書いてあり意味が分からないこともあります。湿布薬やテーピング類などは形状から用途が一目瞭然ですが、飲み薬は飲み慣れたものを持参することをお勧めします。
<持って行きたい3種類の薬>
1)痛み止め(Painkiller)
2)風邪薬(Cold medicine)
3)整腸剤(Medicine of controlling intestinal function)
日本国内外を問わず、「痛み止め、風邪薬、整腸剤」は3日分程度を持ちましょう。もし3日分飲んでも、症状が良くならない・悪くなる時は、医療機関への受診を検討して下さい。
下痢は、菌やウィルスを体の外に出す防御作用でもあるので、下痢止めの使用は注意して下さい。
見た目だけでは何の薬か分かりませんので市販薬でも、空き箱や説明書などを一緒に持ち歩きましょう。
・旅から帰ってから
もし、帰国時の空港で体調が悪い場合などは、必ず「空港の検疫所」に相談して下さい。
旅先ではなく、潜伏期間をおいて、帰国後に発症する病気もあります。
受診する際には、「渡航先、渡航期間、渡航内容(食事や活動内容)」などを医師に伝えて下さい。旅行のパンフレットや旅程表などを持参するのも良いでしょう。
新型コロナウィルイスの影響をはじめ、日本国内外で旅をする機運が低下しているように感じています。リスクは決して無視せず出来うる対策を行い、リスクを恐れ過ぎず、旅を楽しみたいですね。
取材・文/倉田大輔
池袋さくらクリニック院長。日本抗加齢医学会 専門医、日本旅行医学会 認定医、日本温泉気候物理学会 温泉療法医、海洋安全医学・ヘルスツーリズム研究者、経営学修士(明治大学大学院経営学研究科)
2001年 日本大学医学部卒業後、形成外科・救急医療などを研鑚。
2006年 東京都保健医療公社(旧都立)大久保病院にて、
公的病院初の『若返り・アンチエイジング外来』を設立。
2007年 若返り医療や海外渡航医療を行う『池袋さくらクリニック』を開院。
「お肌や身体のアンチエイジング、歴史と健康」など講演活動、テレビやラジオ、雑誌などへのメディアに出演している。
医学的見地から『海上保安庁』海の安全啓発への執筆協力、「医学や健康・美容の視点」から地域資源を紹介する『人生に効く“美・食・宿”<国際観光施設協会>』を連載。自ら現場に赴き、取材執筆する医師。
東京商工会議所青年部理事
東京商工会議所 健康づくりスポーツ振興委員会委員
東京商工会議所 豊島支部観光分科会評議員
【クリニック情報】
池袋さくらクリニック
http://www.sakura-beauty.jp/
住所 東京都豊島区東池袋1-25-17-6F
【お問合せ】
03-5911-0809(完全電話予約制,月曜休診,10:00~19:00)