文/藤原邦康
今回は、顎関節症を引き起こす原因について解説していきましょう。
【顎関節症の原因1:かみ合わせ】
かみ合わせに問題があると、食べ物を咀嚼するときに顎がずれてしまうことがあります。咀嚼は無意識の日常動作ですので自分ではなかなか気づきませんが、かみ合わせに難があると顎関節の左右に偏った負担が日常的に蓄積していきます。そしてその負担が顎関節や体の許容キャパシティを超えると、ある日突然アゴの痛みや不具合を発症することがあります。
かみ合わせの問題は様々です。代表的なものには、上下の歯が常に当たっている「TCH(歯列接触癖)」、無意識に歯を舌で押す弄舌癖(ろうぜつへき)、不正咬合など歯の問題、左右どちらかでの片噛みなどがあげられます。片噛みについてですが、利き手、利き足と同様、実は人それぞれ利きアゴがあります。また虫歯の痛みを避けるため左右片方で噛んでいると治療後もその癖が残ってしまう場合があります。食事をするときに、左右どちらかだけでかむことを「偏咀嚼(へんそしゃく)」と言いますが、この悪癖があると片側だけの咀嚼筋や顎関節に負担をかけ続けることになります。
【顎関節症の原因2:姿勢】
姿勢が悪い人も顎関節症になりやすいと言えます。下アゴは靭帯や筋肉を介して頭部からぶら下がっており、背骨が傾くとまるで振り子のようにゆがみます。下アゴのゆがみは歯の位置に影響を与えるため、かみ合わせのずれを引き起こす可能性があります。さらに顎関節は体中で最も反復運動が多い関節ですから、日々ずれや偏りが悪化してきます。首だけでなく背骨の土台である骨盤の傾きすら顎関節症の原因となることもありますから、普段から正しい姿勢を心がけましょう。
中には、歯科治療を受けたことがきっかけでかみ合わせがずれてしまう人もいます。これは必ずしも歯医者さんの腕の問題ではなく、患者さんの姿勢の影響が咬合調整を複雑にするためです。そもそも歯科治療時の仰向け姿勢と食事をする座位ではアゴを含めた全身骨格のバランスは異なります。また先述のとおり、頸椎をふくめ背骨の傾きがあれば、頭蓋骨から筋肉の張力で吊り下げられている下アゴもずれてしまいます。(アゴは肩甲骨とも筋肉で繋がっていて肩が下がっている側にも引っ張られます。)たとえ歯科ユニットに寝た状態で正しい咬合調整をしても、起き上がって食事をする場面では理想的なかみ合わせになっていない可能性があるということです。歯医者さんが患者さんの食卓にまで同席して咀嚼の状態を観察できれば理想的で正確な咬合調整をできるかもしれませんが、もちろん現実的ではありませんね。
いずれにしても、かみ合わせの乱れを自分で認識することは難しいので、アゴに不具合を感じたら歯科医院で咬合をチェックしてもらいましょう。もし、歯医者さんから骨格のアンバランスを指摘された場合には(社)日本整顎協会にご相談ください。
【顎関節症の原因3:ストレス】
顎関節症はかみ合わせの不具合だけが原因とは限りません。人は過大な精神的ストレスを抱えると無意識に歯を食いしばる徴候があります。これは食いしばることによってβエンドルフィンという快楽物質が脳内に分泌され一時的に心が楽になるからです。(妊婦さんが分娩時に食いしばっていきむのもこのことが理由です)また、ストレスによって交感神経優位になると首や肩が緊張し、さらに食いしばりを誘発させます。睡眠時については、脳のストレスを逃がすため歯ぎしりが起きることもあります。寝つきが悪く朝起きるとぐったり疲れている方は恐らくこれらの徴候があります。
最後に、食いしばり予防のための簡単なセルフケアをご紹介しておきましょう。
【整顎エクササイズ】
お風呂上りや寝る前などにやってみてください。無理のない範囲で試していただき、もし痛みや不快感を感じた場合は直ちに中断してください。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。