夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。月曜日は「健康・スポーツ」をテーマに、野球解説者の山本昌さんが執筆します。

文/山本昌(野球解説者)

このたびサライ.jpで連載をすることになりました山本昌です。

僕は現在、野球解説者としてテレビやラジオ、新聞をはじめとしたメディアを中心に活動をしています。それ以外にも32年間(18~50歳)プロ野球選手として培ってきた経験をもとに日本全国各地の講演に呼んでいただいたり、趣味である競馬やラジコンにまつわるお仕事もさせてもらっています。

今、現役を引退して3年目、今年で53歳を迎えるわけですが、僕自身が思う「50歳まで現役で動けた秘訣」や「セカンドキャリアをいかに楽しむか」、そんなことを皆さんにお伝えできたらいいなと思っています。

現役引退後も、トレーニングとしてピッチング練習で汗を流しています。

■まっすぐに伸びない左肘が与えてくれたもの

突然ですが、僕は「僕が世界で一番幸せな野球選手」だと思っています。それは、大きな怪我や故障もなく50歳まで現役を続けることができたからです。僕は32年の野球人生を振り返って後悔はありません。
でも、実は悔いはあるんです。それは、あと1勝できていれば「最年長世界勝利記録」を樹立できたということです。悔いは残してしまいましたが、その時その時はできる限りのことをやってきたという自負があるので、その道のりには決して後悔はしていません。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、僕は左投手です。ですが、僕の左肘が真っすぐに伸ばすことができないということは、あまり知られていないかもしれません。加えて、60度以上に曲げることもできないため、ここ十数年は左手で自分の顔を触っていません。ヒゲ剃りやネクタイもすべて右手一本で行なっています。

普通、投手と言えば、腕に柔軟性があることで勢いのあるボールが投げられると言われています。しかし、僕の肘は伸びきらないために、腕が描く円の半径が短く、勢いのあるボールが投げにくいと言われていました。そもそも、左肘が曲がりづらいなと感じ始めたのは、プロ入りしてからすぐのことでした。当時は「ボールを投げ込んで身体作りをする」という考えが主流で、ブルペンでもバッティングピッチャーでも限界と思えるくらいの球数を毎日投げ込みました。そんな日々の中で、僕の左肘は痛みがなくとも徐々に伸びにくくなっていきました。

ある時、レントゲン診断の機会があったので撮影をしてもらうと、軟骨が変形する一種の「野球肘」というものだとわかったのです。ですが、痛みは一切なく、成績も良い結果が伴っていたためにあまり気にもせずに投げ続けていました。本来なら真っすぐに伸びる肘のほうが高いパフォーマンスを発揮するはずですが、僕の場合はこの野球肘のおかげで独特なフォームができあがりました。そのおかげか、勝利を積み重ねることができました。

■無謀にならないための知識の大切さ

プロ入り後、無理を承知で言われるがまま、限界を感じながらも投げ込んできました。普通なら、ケガをして壊れてしまっていたかもしれません。ただ、僕にはこのやり方が合っていて、また、このやり方しかなかったのだと今なら思います。無茶をしたからこそ限界を感じることができ、1つ上のレベルへ進むことができたのだと。しかし、無茶も何も知識がない状況だと、ただ単に無謀な行為になってしまうのです。

今後、僕は指導者として野球に携わることを目指しています。そのためにメジャーリーグを視察したり、キャンプ取材したり、また、最新のトレーニング方法や野球理論を学んで知識を蓄えています。

今、注目されている「効率のいい科学的な野球」ももちろん重要です。でも、僕は昔のように限界を感じさせる無茶も時には必要だと思うのです。これはもちろん、ケガをしにくいフォームが大前提です。選手個々にあった「正しいフォーム」のためには教える側にも豊富な「知識」が必要です。その知識を身につけたうえで、量と質をうまく兼ね合わせて、「無謀にならない無茶はたまにはあり」という教え方で、いつか僕よりも更に息の長い野球選手を育て上げてみたいと思っています。

なんでもそうですが、昔に比べたら様々な選択肢から自分自身にあった道を選ぶことができる時代になりました。だからこそ、正しい選択をするための知識を身につけて、より良い楽しい人生を過ごしていきたいですね。

文/山本昌(やまもと・まさ)
昭和40年、神奈川県生まれ。野球解説者。32年間、中日ドラゴンズの投手として活躍し、平成27年に引退。近著に『山本昌という生き方』(小学館刊)。

 

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