夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。月曜日は「健康・スポーツ」をテーマに、野球解説者の山本昌さんが執筆します。
文/山本昌(野球解説者)
きれいに咲いていた桜もあっという間に葉桜になり、気づけばもうすぐゴールデンウィークがやってきますね。僕は連日野球解説や講演活動で各地にお邪魔させていただく予定です。
さて、前回は僕が現役時代に20年間続けていた初動負荷トレーニングとその考案者である小山先生との出会いについてご紹介しました。今回は、僕が現役時代に行なっていた、いくつかのルーティンワークについてご紹介をしたいと思います。
■「野球の神様が見ている」と信じて続けた道具の手入れ
連載3回目に食生活のルーティンとして小松菜ジュースとカレーライスのお話をしましたが、食事以外にもルーティンとして行なっていたことがあります。
まずは、グローブとスパイクを磨くことです。野球選手ならば誰でも、自分の道具は大切に管理をしていると思いますが、僕は毎日グローブとスパイクを「気持ち」を込めて磨いていました。もちろん、道具を大切にするということが大前提ですが、少しの汚れや傷などでボールを取り損ねたり、ケガの原因になったりということを避けたいという思いもありました。
それ以上に大きかったのは、こういった日々の積み重ねを「野球の神様が見ている」と信じる思いです。真摯に野球に向き合っていれば絶対にいい結果に繋がると信じ、道具の手入れに取り組んでいました。今思えば、冷静に一日を振り返りながら、次の日に向けた気持ちを整える大切な準備時間になっていたんだなと思います。
また、自宅から球場までの道も、試合に勝っている間は同じ道を通るようにしていました。これは“プロ野球選手あるある”かもしれませんが、ある意味、ゲン担ぎといえるかもしれません。もちろん、試合の結果や投球内容次第で道中の気持ちは大きく変わります。なので、負けた日や悔しい思いをした日は、あえて遠回りの道を選ぶことで気持ちを整理することができました。
ちなみに、登板日には球場に向かう途中のガソリンスタンドで給油と洗車をするようにしていました。これも、気持ちを整えるためにしていたことで、球場に入る前のリフレッシュとして利用をしていました。
そして、引退前の何年か、習慣としていたのは名古屋市・東山動物園のシャバーニ君を見に行くことです。あのイケメンゴリラとしてとても有名になったシャバーニ君です!
当時の自宅が近かったので散歩がてら通っていたというのもありますが、これもルーティンまたはゲン担ぎといえるかもしれませんね。
■引退後はグローブをノートに持ち替えて
2015年にプロ野球選手を引退、野球解説者としてセカンドキャリアをスタートしたわけですが、そこで新たにできたルーティンワークがあります。
それは、ノートを付けること。講演講師をさせていただく時に必ず取り組んでいます。
ノートといっても手のひらサイズの小さなもので、常にカバンに入れて持ち歩いています。連載5回目でも少しお話ししましたが、講演でどういった話をするか、話の要点はもちろん、大切なキーワードをノートにまとめていて、見開き2ページでだいたい90分くらいの講演ができるようになっています。
そもそもなぜ書き始めたかというと、手で書くことで自分自身の考えをまとめることができますし、話す順番や絶対に伝えたいワードを準備しておくこともできるからです。さらに、書き残すことで過去の講演でどういったことを話したのかも振り返ることができるので、新しい講演のご依頼をいただいた時にもとても役に立ちます。
現役時代と引退後で、やっていることは違いますが、すべてに共通していることがあります。
それは、ルーティンワークが気持ちの準備に繋がっているということです。もちろん、体の準備のためのルーティンワークもありますが、それ以上に気持ちの準備をすることがとても大切だと思います。
気持ちに余裕がなく、焦りやイライラを抱えた状態ではケガやミスにつながります。これはスポーツだけではなく、学校や会社での生活でもいえることだと思います。頭の中を整理して、気持ちもすっきり準備が整っていれば、多少のことではビクともしない強い自分を持つことができると思います。
この4月から新しい環境で新生活をスタートした人もたくさんいらっしゃると思います。慣れない環境に緊張やストレスを感じることもあると思いますが、毎日続けられるルーティンワークを取り入れて、気持ちを整える習慣を作ってみてはいかがでしょうか?
きっと今より充実した毎日を過ごせるようになるのではないかと思いますよ。
文/山本昌(やまもと・まさ)
昭和40年、神奈川県生まれ。野球解説者。32年間、中日ドラゴンズの投手として活躍し、平成27年に引退。近著に『山本昌という生き方』(小学館刊)。