年を取れば取るほど、食べることが楽しみになってくる。しかし基礎代謝が落ちているからなかなか痩せない。このジレンマに悩む人は多いはず。「メタボにはまず節食と運動。それでもダメなら漢方も手助けしてくれます」と、武蔵野大学薬学部客員教授の油田正樹先生は語る。
「水を飲んでも太る」という人は
「健康なまま年を取れるかは、メタボかどうかにかかっています」と語る油田先生。油田先生は、武蔵野大学薬学部教授としてさまざまな漢方薬や生薬の研究を行ってきた。その中でも特に力を入れて研究していたのが、〈肥満に効く漢方・生薬〉だ。
「日本人はおいしいものを食べすぎなんです。痩せたいという人を見ると、ほんのちょっと節制して運動すれば痩せるのになあと思いますよ。でもなかには、何をやっても痩せない、水を飲んでも太る、という人もいます。そういう人は漢方を試してみるのも手かもしれませんよ」(油田先生。以下「 」内同)
先生が講師を務める武蔵野大学公開講座「知っておきたい漢方いろは」では、肥満に効くという漢方から3つの処方が紹介された。それぞれ効くタイプが違うという。
あなたは虚証? 実証?
漢方は、患者を「虚証」「実証」という2つのタイプに分類して、処方を考える。肥満を漢方で改善しようというときにも、まずは自分のタイプを見分けることが大切だ。
ざっくりとした分類ではあるが、体力があってがっしりしている堅太りタイプの人は「実証」、体力があまりない水太りタイプは「虚証」といえる。それぞれのタイプに合う漢方薬は次のとおりだ。
【実証(堅太りタイプ)】
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
大柴胡湯(だいさいことう)
【虚証(水太りタイプ)】
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)
では、それぞれどういう作用を持つのか、説明していこう。
ぽっこりお腹で便秘気味の実証の人には
実証で、腹部に脂肪がたまったぽっこりお腹で、便秘がちな人であれば、防風通聖散が向く。
含まれる生薬は、黄芩(オウゴン)、川芎(センキュウ)、甘草(カンゾウ)、当帰(トウキ)、桔梗(キキョウ)、薄荷(ハッカ)、石膏(セッコウ)、防風(ボウフウ)、白朮(ビャクジュツ)、麻黄(マオウ)、大黄(ダイオウ)、連翹(レンギョウ)、荊芥(ケイガイ)、生姜(ショウキョウ)、山梔子(サンシシ)、滑石(カッセキ)、芍薬(シャクヤク)、無水芒硝(ムスイボウショウ)。
肥満で便秘気味の女性患者を、運動療法と食事療法を行うグループと、運動療法と食事療法に合わせて防風通聖散を摂取するグループに分けて実験したところ、後者のほうがより体重が減少したという。また、脂肪肝に肥満を合併している患者のケースでは、防風通聖散を処方した患者のほうが中性脂肪が低下したという実験結果も出ている。
みぞおちに圧迫感があって肩こりもある実証の人には
比較的に体力がある実証の人で、みぞおちに張るような圧迫感があり、肩こりや耳鳴りなどの症状があって、便秘気味な人は、大柴胡湯が向く。
含まれる生薬は、柴胡(サイコ)、大棗(タイソウ)、半夏(ハンゲ)、枳実(キジツ)、黄芩(オウゴン)、生姜(ショウキョウ)、芍薬(シャクヤク)、大黄(ダイオウ)。
糖尿病を合併している脂質異常症の人が長期使用したところ、総コレステロールが半年で低下したという実験結果がある。
水太りでむくみ気味、疲れやすい虚証の人には
疲れやすい虚証の人で、色白で筋肉に締まりがなく、むくみやすい水太りタイプの人には、防己黄耆湯が向く。
含まれる生薬は、黄耆(オウギ)、大棗(タイソウ)、防已(ボウイ)、甘草(カンゾウ)、蒼朮(ソウジュツ)または白朮(ビャクジュツ)、生姜(ショウキョウ)。
運動療法が困難な2型糖尿病患者で肥満している人に、防己黄耆湯を半年投与したところ、内臓脂肪と総コレステロールが低下し、血糖値も改善したという実験結果がある。
内臓脂肪には防風通聖散、皮下脂肪には防己黄耆湯
「3つの中で、とくに肥満を解消する効果が高いのが、防風通聖散と防己黄耆湯ですね。それぞれに特長があり、防風通聖散は内臓脂肪に対して、防己黄耆湯は皮下脂肪に対して、その蓄積を抑制する効果がみられます。また、大柴胡湯は血糖値や中性脂肪を抑制する効果があります」(油田先生)
お腹ポッコリには防風通聖散、むくみやすい人には防己黄耆湯。そして代謝を上げたい人には大柴胡湯がよさそうだ。
ただし、油田先生は最後に釘をさす。
「メタボを解消するためには、食事を節制して運動することが一番たいせつです。漢方薬はあくまでもそれを助けるためのもの。座って食べてばかりいたら何を飲んでも痩せません。まずは食べる量を減らして体を動かすことです」
下痢気味の人は要注意
講座後、ドラッグストアを訪ねてみた。肥満に効く漢方薬の裏をみると、「防風通聖散」と書いてある。メタボな夫のために肥満に効く薬を探していると伝えると、お通じについて聞かれた。
便秘ではないと言うと、「あまり成分が濃くないほうがいいかもしれない」とアドバイスされた。初めての人は少し注意しながら飲み始めたほうがよいかもしれない。
そしてまたもやここでも釘を刺された。
「少しでもいいから運動してください。運動を一緒にすると、すごく効果が出ます。薬だけに頼らないでくださいね」
はい、肝に銘じます。
文/まなナビ編集室
※この記事は小学館が運営している大学公開講座の情報検索サイト「まなナビ」からの転載記事です。
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