「季節ブルー」という言葉をご存じでしょうか? 特定の季節の変わり目に決まって心や体の不調が現れる状態を指し、医学的には「季節性感情障害」(SAD)と呼ばれています。

精神科医の長沼睦雄さんは「毎年やってくる季節の変わり目の不調。それは、あなたの『気のせい』でも『怠け』でもありません」と言います。

長沼睦雄著『その、しんどさは「季節ブルー」』(日本文芸社)の中から、冬に訪れる季節ブルーに対しての対策を紹介。今回は、「冬ブルーを緩和する食べ物」を取り上げます。

寒い冬に、心身を整える食材について学びましょう。

体を内側から温める食材を積極的に取ることが基本

冬の厳しい寒さから身を守り、心と体の活力を保つ食養生の基本は、体を内側から温める性質を持つ食材を積極的にとることです。生命活動を支える温かいエネルギー(陽の気)を補ってくれるからです。

腎を助け、体を温める食べ物

五行(ごぎょう)思想で冬に対応する色は黒。黒豆、黒ごま、黒きくらげ、黒米といった黒い食材は、「腎」(じん)の働きを助け、生命力の源である「精」(せい)を補います。

昆布、わかめ、ひじきといった海藻類など、海で採れる塩からい味のものもまた、腎に働きかけ、かたくなったものを柔らかくし、新陳代謝を促す作用があります。
羊肉や鶏肉、エビなどは体を温める食材として代表的なものです。特に羊肉は、体を温める作用が非常に強く、薬膳では冷えの改善によく用いられます。
ニラ、ネギ、にんにく、しょうが、かぼちゃといった野菜も、体を温め、「気血」(きめつ)のめぐりを良くしてくれます。冬の定番料理である鍋物は、これらの食材を一度にたくさんとることができ、体を芯から温めるための非常に理にかなった調理法です。
シナモン、クローブ、八角、山椒、胡椒などのスパイス類も上手に活用しましょう。料理や飲み物に少し加えるだけで、体を温め、気のめぐりを促進する効果があります。

一方で、体を冷やす性質を持つ食材は、冬の間は控えめに。生の野菜やバナナやパイナップルなどの果物、豆腐、牛乳、白砂糖、そして冷たい飲み物などは、胃腸を冷やし、陽気を損なう原因となります。食べるときは、加熱調理をしたり、ネギやしょうがといった温める性質の薬味と一緒にとったりするなどの工夫をしましょう。

色の濃い食材で血を補い、心を養う

冬に感じる気分の落ち込みや不安感は、寒さによる「気血」(きけつ)のめぐりの悪化に加え、東洋医学でいう「血」(けつ)の不足が関係していると考えられます。
血は全身に栄養を運び、潤いを与えるだけでなく、「心」(しん)、すなわち、私たちの精神活動を養うための物質的な土台でもあります。

冬は、寒さでエネルギーを消耗しやすく、また日照不足から気分の落ち込みも重なるため、意識して血を補う作用のある食材をとることが心の安定につながります
代表格は色の濃い食材です。赤身の肉やレバーは鉄分が豊富で、貧血の予防・改善に効果的です。カツオやマグロといった赤身の魚も良いでしょう。

また、ほうれん草、小松菜、にんじんといった色の濃い野菜もおすすめです。プルーン、レーズン、なつめ、クコの実といったドライフルーツも、少量で効率良く血を補ってくれます。なつめやクコの実は、お茶やお粥、スープに入れるだけで手軽に摂取できます。

卵も、「気血」(きけつ)の両方を補うことができる、完全栄養食に近いすぐれた食材です。
これらの補血作用のある食材をとる際に大切なのは、それらをエネルギーに変えるための消化器系の機能すなわち「脾」(ひ)の働きを助ける食材と一緒にとることです。お米やいも類といった自然な甘味のある食材は、脾の働きを助け、「気血」(きけつ)を生み出す力を高めてくれます。

気をめぐらせ、「心」を解きほぐす食べ物

冬の寒さは、私たちの体を縮こまらせるだけでなく、家にこもりがちになることによって心まで内向きにし、エネルギーの流れを滞(とどこお)らせます。つまり、「気」の流れがスムーズでなくなった状態、「気滞」(きたい)となります。気滞はイライラや憂うつ感、ため息、胸のつかえ、お腹の張りといった不調の原因となります。
そこで、食事を通じて、滞った気のめぐりを良くする食材を体内に取り入れることが、冬のメンタルヘルスケアに役立ちます

気のめぐりを良くする食材の多くは、爽やかな香りで心をリラックスさせてくれます。みかん、ゆず、レモン、だいだいといった柑橘類です。
香味野菜やハーブも気のめぐりを良くする食材です。玉ネギ、らっきょう、しそ、春菊、ミント、ジャスミンなどの食材は、料理のアクセントとして少量加えるだけで、食事全体の気のめぐりを改善し、消化を助けます。冬の鍋料理に春菊が欠かせないのも、体を温めながら気のめぐりを良くする、理にかなった組み合わせなのです。
そばも気のめぐりを良くし、消化を促進する効果があるとされています。年越しにそばを食べる習慣は、1年の最後に体内の滞りを解消するという意味合いがあったのでしょう。
これらの食材は、気を発散させる性質を持つものが多いため、もともとエネルギーが不足している人がとりすぎると、かえって気を消耗させてしまうことがあります。
あくまでも体を温め、「気血」(きけつ)を補う食事を基本としながら、アクセントとして上手に取り入れることがポイントです。

冬の重苦しい気分や身体の不調を感じたときは、香りの力を借りて、心と体の滞りを優しく解きほぐしてあげましょう。

*  *  *

 その、しんどさは「季節ブルー」
著/長沼睦雄
日本文芸社 1,870円(税込)

長沼睦雄(ながぬま・むつお)
十勝むつみのクリニック院長・精神科医。
昭和31年生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了。その後、障害児医療分野に転向し、道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と成人の診療を行う。平成28年に帯広にて十勝むつみのクリニックを開院(10年目)。急性期の症状を対症療法的に治療する西洋医学に疑問を感じ、HSP・アダルトチルドレン・神経発達症・発達性トラウマ障害・慢性疲労症候群などの慢性機能性疾患に対し、「脳と心と体と食と魂」を結んだ根本治療を目指す統合医療に取り組んでいる。
『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』『繊細で敏感でも、自分らしくラクに生きていける本』(共に永岡書店)、『子どもの敏感さに困ったら読む本』『10代のための疲れた心がラクになる本』(共に誠文堂新光社)など著書多数。

※『そのしんどさは「季節ブルー」』(著・長沼睦雄/日本文芸社)より、一部を抜粋してご紹介しています。

 

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