
「季節ブルー」という言葉をご存じでしょうか? 特定の季節の変わり目に決まって心や体の不調が現れる状態を指し、医学的には「季節性感情障害」(SAD)と呼ばれています。
精神科医の長沼睦雄さんは「毎年やってくる季節の変わり目の不調。それは、あなたの『気のせい』でも『怠け』でもありません」と言います。
長沼睦雄著『その、しんどさは「季節ブルー」』(日本文芸社)の中から、冬に訪れる季節ブルーに対しての対策を紹介。今回は、「厳しい寒さで日照時間不足の『冬』は穏やかに過ごし春を待つ」を取り上げます。
まずは、なぜ冬になるとさまざまな不調が現れるのか、そのメカニズムを正しく理解しましょう。
エネルギーの消耗を最小限にし、春を待つべし
秋が深まり、木の葉が舞い落ちると、自然界は静寂と休息の季節、冬へと入ります。五行(ごぎょう)思想において、冬は「水」(すい) の季節とされ、五臓では生命力の源を司る「腎」(じん)が主役となります。この季節、自然界のすべてのエネルギーは、外向きの活動から内向きの「蔵」(ぞう)、すなわち貯蔵と冬眠の期間へと移行します。
『黄帝内経』(こうていだいけい) では、冬の様子を「湖や川が凍って雪が降るのと同じように自然界のすべてのものが枯れ、姿を隠し、住処に戻って、休息期間に入る」と詩的に表現しています。1年で最も「陰」の気が極まり、活動的な「陽」の気は深く内へと潜む時期です。
この季節の気候を支配するのは、厳しく冷たい「寒邪」(かんじゃ)です。寒邪は万物を収縮させ停滞させる力を持っていて、これが数々の不調を引き起こします。
地球の地軸が傾き南極側が太陽を向く時期は、北半球が太陽から遠ざかるために、日本では日照時間が短くなり気温も低下します。
静かで厳しい冬を健やかに過ごすためには、自然界の冬眠のリズムに従い、エネルギーの消耗を避け、内なる温かさを守り育てることが何よりの養生になります。
冬には私たちの心身に大きな影響を与える、象徴的な節目がふたつ訪れます。冬至(とうじ)と大寒(だいかん)です。
冬至は二十四節気のひとつで、北半球において1年で最も夜が長く、昼が短い日です。自然界の陰のエネルギーが頂点に達する日でもあります。暗闇と寒さが極まるこの日を、昔の人々はただ厳しい日と捉えていたワケではありません。むしろ、希望の転換点として大切にしてきたのです。
東洋思想に「陰極まれば陽と転ず」という言葉があります。冬至は、陰が極まったその瞬間から、陽の気、つまり太陽の光と生命のエネルギーが生まれる、始まりの日。
日本では古くから、冬至にゆず湯に入る習慣があります。ゆずの香りで「邪気」を払い、体を温めることで、厳しい寒さに備え、無病息災を祈りました。

一方、大寒は二十四節気の最後の節気で、その名の通り、1年で最も寒さが厳しくなる時期を指します。
この時期は、自然界のあらゆるものがかたく凍りつき、生命活動が深く内に潜むときです。私たちもエネルギーの消耗を最小限におさえ、ひたすら春の到来を待つべきなのです。無理な活動は「腎」(じん)のエネルギーを大きく損ない、春先の不調の原因となります。
冬至が希望の始まりを告げる光の祭典とすれば、大寒は静寂と忍耐を学ぶ内省的な時期と言えます。闇の底に光の再生を見出す希望を持ちながらも、焦らず無理をせず、静かにエネルギーを蓄え、春に備えること。それが、冬の上手な過ごし方です。
冬に起きやすい心と体の不調
冬は厳しい寒さと日照不足から、1年で最も心と体の循環バランスを崩しやすい季節です。日照時間が急激に短くなることで、脳内の神経伝達物質の量的バランスが崩れます。気分を安定させる「セロトニン」の分泌が減少し、睡眠を司る「メラトニン」の分泌リズムが乱れ、「理由もなく気分が落ち込む」「何事にも興味が持てない」「朝に起きられないほどの強い眠気」「無性に炭水化物が食べたくなる」といった症状が現れます。冬の物悲しい気分は、冬に対応する五臓である腎が司る感情、「恐れ」、つまり将来への漠然とした不安感とも通じます。
「寒邪」(かんじゃ)で「気血」(きけつ)の流れが滞(とどこお)ることで、筋肉や関節がこわばり、「肩や首が鉄板のよ
うにガチガチになる」「古傷が痛む」「腰痛が悪化する」といった痛みの症状も増えます。
また、寒邪は生命力の源である腎の働きを弱らせ、免疫力を低下させます。結果、かぜやインフルエンザにかかりやすくなるだけでなく、「疲れやすい」「体力が落ちた」「物忘れが増えた」「トイレが近くなる」「足腰がだるい」といった症状を招きます。
寒さで血管が収縮すると、心臓にも大きな負担をかけます。実際に、心疾患による死亡率は冬に上昇することが知られています。寒さと乾燥した空気は、アトピー性皮膚炎や喘息(ぜんそく)といったアレルギー疾患も悪化させます。これらの身体的な不快感が、さらに精神的な落ち込みを助長するという悪循環に陥ることも少なくありません。
冬の不調は、単一の原因ではなく、気候、身体、精神が複雑に絡み合った結果として現れるのです。
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その、しんどさは「季節ブルー」
著/長沼睦雄
日本文芸社 1,870円(税込)
長沼睦雄(ながぬま・むつお)
十勝むつみのクリニック院長・精神科医。
昭和31年生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了。その後、障害児医療分野に転向し、道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と成人の診療を行う。平成28年に帯広にて十勝むつみのクリニックを開院(10年目)。急性期の症状を対症療法的に治療する西洋医学に疑問を感じ、HSP・アダルトチルドレン・神経発達症・発達性トラウマ障害・慢性疲労症候群などの慢性機能性疾患に対し、「脳と心と体と食と魂」を結んだ根本治療を目指す統合医療に取り組んでいる。
『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』『繊細で敏感でも、自分らしくラクに生きていける本』(共に永岡書店)、『子どもの敏感さに困ったら読む本』『10代のための疲れた心がラクになる本』(共に誠文堂新光社)など著書多数。
※『そのしんどさは「季節ブルー」』(著・長沼睦雄/日本文芸社)より、一部を抜粋してご紹介しています。











