日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。

解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)

昭和26年、北海道生まれ。北海道大学医学部卒業。久留米大学医学部教授などを経て、平成15年、糖尿病などの生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を開業。

牧田式ミラクルフード:チョコレート

長寿世界一のフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんは、毎日、ショコラ(チョコレートドリンク)を飲んでいました。

2番目に長生きした日本人女性の田中カ子(かね)さん、3番目のアメリカ人女性サラ・ナウスさんも、大のチョコレート好きだったそうです。日本スーパーフード協会が推奨する10の代表的なスーパーフードにも、「カカオ」が入っています。

私も、カカオ成分80%以上のチョコレートを、ミラクルフードとしています。

カカオ豆を原料とするチョコレートやココアには、カカオポリフェノールがふんだんに含まれます。

カカオポリフェノールは、活性酸素を抑え生活習慣病の予防に有効であると以前から世界的に考えられてきましたが、それを証明する実験が日本でも行われました。

愛知学院大学の大澤俊彦教授は、愛知県蒲郡市、製菓会社の明治と共同で、蒲郡市内外に住む45〜69歳の347名(男性123名、女性224名)を対象とする研究に取り組みました。

対象者に、カカオポリフェノールを多く含むチョコレート(カカオ72%)を一日25グラムずつ4週間摂取してもらい、蒲郡市民病院で検査しながら体の変化を観察するという研究です。その結果は、大変に興味深いものでした。

その一つに、疲労回復効果が指摘されています。

この研究では、被験者にアンケート調査を行っており、チョコレートの摂取で、精神的にも肉体的にも活動的になることが報告されたのです。

被験者の多くは、チョコレートを摂取している期間中、全体的な健康状態は非常に良く、いつも活力に溢れていたと答えています。楽しくおだやかな気持ちで、落ち着いて過ごせたとも言っています。

しかも、実験前と実験後で体重やBMIの変化はなかった、つまり太ることはなかったそうです。

ほかにも、この研究では、主に「脳」と「血管系」に関する健康効果が証明されました。いずれも全身の状態を左右する要素であり、疲れにくい体をつくることに繫がります。

脳については、チョコレートの摂取(4週間後) で、脳にとっての重要な栄養分「BDNF(脳由来神経栄養因子)」の血中濃度が上昇することが報告されています(図19参照)

脳の疲れや機能を改善する報告も

BDNFは、ニューロン(神経細胞)の産生や神経突起の伸長促進、神経伝達物質の合成促進に関連するなど、脳にとって重要な働きをする栄養分です。

アルツハイマー病や、記憶・学習など認知機能との関連性も報告されており、65歳を過ぎた頃から加齢と共に減少する傾向にあります。

これまでBDNFは、運動したり難しい問題を考えたりすることで増えるのではないかと言われてきました。ところが、意外なことに、チョコレートやココアに含まれるカカオポリフェノールにより増える可能性があることが明らかになったのです。

なお、カカオポリフェノールを摂取すると、脳血流量が増えることもわかっています。脳血流量が増えることで、認知機能テストのスコアが上昇することも報告されています。

これらのことから、カカオ分の高いチョコレートは、とくに脳の疲れを癒し、機能を改善するミラクルフードであると言えるでしょう。

では、血管系についてはどうでしょうか。

この研究では、血液の「炎症指標」「酸化ストレス指標」という数値の測定も行われました。これらの数値が高いほど血管内皮機能が低下し、動脈硬化が起きやすくなります。

調査の結果、とくに数値が高かった上位4分の1の人たちで、チョコレート摂取後に有意に数値の低下が見られたというのです(図20参照)

つまり、「動脈硬化のリスクが高い人ほど、カカオポリフェノールの効果に助けられる」という結果が出たわけです。

血管の内部に炎症があると、それによって血管が狭くなり、動脈硬化も起こりやすくなります。こうした炎症に対し、小腸で吸収され血管の中に入っていったカカオポリフェノールが作用するのだと考えられます。

血管系の効果としてもう一つ、血圧の低下も見られたそうです。

下のグラフ(図21)は、被験者全員について、チョコレート摂取前と摂取後(4週間後)の最高血圧(収縮期血圧)と、最低血圧(拡張期血圧)の変化を比較したものです。

どちらも分布のピークが低下しているのがわかります。

善玉コレステロールの増加

とくに、高血圧群(上の血圧が140以上あるいは下の血圧が90 以上)と正常血圧群(上の血圧が140未満かつ下の血圧が90未満)に分けて比較してみると、高血圧群のほうが正常血圧群よりも血圧が低下する度合いが大きいことも報告されています。

ここでも、「高血圧のリスクが高い人ほど、カカオポリフェノールの効果に助けられる」という図式が成立しています。

炎症が起こって狭くなっていた血管に、小腸から血中に吸収されたカカオポリフェノールが作用し、炎症が治まることで血管が広くなり、血圧も下がるのだと思われます。

さらに、善玉コレステロールの増加と、強力な酸化抑制効果も見られました。

コレステロールには、大きくLDL(悪玉)とHDL(善玉)があり、悪玉が肝臓から体のさまざまな器官にコレステロールを運ぶのに対し、善玉は体の中の余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをします。

この2つのコレステロールのバランス次第で、血管が詰まりやすくなることが知られています。

血管の健康を保つためには、以下の3つの要素が不可欠です。

1.LDL(悪玉)コレステロールを増やさない

2.HDL(善玉)コレステロールを増やす

3.LDL(悪玉)コレステロールの酸化を抑制する

1と2についてはわかりやすい話でしょう。悪玉が増えて善玉が少ないと、体内に悪玉コレステロールが必要以上に溜まってしまいます。その悪玉コレステロールが酸化すると、白血球の一種であるマクロファージが食べて掃除してくれます。

ただし、結果として、マクロファージの死骸とも言える泡沫細胞が血管の内皮に溜まり、血管が狭くなってしまうのです。

それゆえ、3で指摘しているように、悪玉コレステロールの酸化を抑える必要があるというわけです。

一日25グラム食べる習慣を

チョコレートを食べるとHDL(善玉)が増えるだけでなく、カカオポリフェノールにある強力な抗酸化作用によって、LDL(悪玉)の酸化が抑えられると考えられます。

347名の日本人を対象に進められたこの研究は、チョコレートの素晴らしい効果を示しています。

ただし、チョコレートならなんでもいい、いくらでも食べていいというわけではありません。

実は、ヨーロッパでは、カカオポリフェノールが含まれないホワイトチョコレートと通常のチョコレートを食べ比べ、健康効果を調べる実験が行われたことがあります。

この実験でも、カカオポリフェノールが含まれる通常のチョコレートのほうにメリットが見られましたが、一日の摂取量が100グラムと多かったために、過剰摂取の問題が指摘されていました。

一方、今回紹介した日本人対象の研究では、「カカオ成分が72%以上のチョコレートを一日25グラム」で行い、非常にいい結果を得ています。これは、とても重要な基準となります。

そこで、私がミラクルフードとして推奨するのは、砂糖が少なくてカカオ成分が80%以上のものです。

こうした製品には、ポリフェノールがたくさん含まれており、その含有率は赤ワインの10倍にものぼります。そんな良質のチョコレートを、一日25グラム食べることを習慣にするといいでしょう。

***

世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』

現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。

『疲れない体をつくる最高の食事術』
牧田善二/著 四六判208ページ 小学館刊 1650円(税込)

 

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