文/鈴木拓也

肩こりや腰痛といった、「ありふれている」と言ってもいい身体の痛み。
実はこうした痛みは、病院では治すのが難しい。例えば五十肩で困っていて、「大きな病院ならなんとかなるのでは」と診察を受けたとしよう。医師は、問診や検査をして、「レントゲンやMRIで見ても異常はありませんね」「年をとるとそうした痛みはあるものです」などと言って、湿布を出されておしまい。こうした経験のある人は、本当に多い。
病院が、「ありふれた痛み」に対処できないのは、検査をしても異常が見つからないのが大きい。異常が見えないと、抜本的な治療もできない。そのため、神経ブロック注射といった対処療法に頼ることになるが、これでは一時しのぎに終わる。
新しくできた血管と神経が悪さをする
しかし、状況は変わろうとしている。「ありふれた痛み」に共通する原因が発見され、根治につながる治療法が確立されているのだ。
そう語るのは、オクノクリニックの奥野祐次総院長。著書『こんなに痛いのにどうして「なんでもない」と医者に言われてしまうのでしょうか』(ワニ・プラス https://www.wani.co.jp/event.php?id=8417)のなかで詳しく解説している。
本書で、奥野総院長が原因として挙げるのは「モヤモヤ血管」。これは、痛む部分にできている異常な血管を指す。
人の血管は、打撲や捻挫といった負傷、反復動作、座りっぱなしといった刺激によって、新生する。だが、新しくできた血管は、「構造もいびつで役割もしっかり担うことができず、むしろ周囲に水分や炎症細胞を漏れ出したりするトラブルを起こしてしまう」厄介者なのだという。
さらに、この血管と一緒になっていびつな神経も増えるため、痛みとして顕在化する。
若いうちはそれを正常化させる能力が高いが、40代後半を過ぎるとその能力は著しく衰えてゆく。かくして、大勢の中高年やシニアが、慢性的な痛みに悩まされることになる。
近年の研究によれば、五十肩の患者の100%、膝痛の患者においても95%以上にモヤモヤ血管が認められたという。
抗生物質の注射でモヤモヤ血管を減らす
原因が特定できれば治療法も確立しやすいのが、現代医学の素晴らしいところ。モヤモヤ血管を減らす治療法はすでに開発され、いくつかの国では医療保険が適用されている。
治療法には、動注治療とカテーテル治療の2種類ある。
動注治療は、動脈に細い針の注射で薬剤を打ち、下流にあるモヤモヤ血管に到達させるというもの。使用する薬剤は、チエナムという昔からある抗生物質。正常な血管には影響を与えることなく、モヤモヤ血管だけを減らすという優れた効果が認められている。しかも、平均2回の注射で、普通の肩こりも含め、永続的に痛みを緩和してくれる。奥野総院長は、これまで約1.5万人にこの治療を行ってきたが、大きな副作用もないという。
他方、カテーテル治療は、「重度」のモヤモヤ血管を対象としたものだ。「重度」というのは、モヤモヤ血管が身体の深部にあるとか、強い炎症がある場合を指す。治療は、次の要領で行う。
カテーテル治療では太さが0.6ミリの極細で長さ1メートル以上の柔らかいチューブを使って、手首や足のつけ根からチューブを入れて、腰や肩などの炎症がある場所まで血管の中を進めます。カテーテルは非常に柔らかい素材のため、血管を傷つける心配はありません。(本書167~168pより)
本書には、カテーテル治療を受けた五十肩の患者の体験談が載っている。痛みで眠れないほどであったが、整形外科医には「放っておいたら2年くらいで治ります」と、冷たい宣告を受けている。その後、オクノクリニックのことを知り、カテーテルで薬剤を流してもらったところ、すぐに軽快し、夜も眠れるようになったという。
この治療法は、今の日本では自由診療でそれなりの費用がかかるが、数年以内に保険診療として認可される見込みだそうだ。
悪姿勢や運動不足も慢性痛を引き起こす
「ありふれた痛み」は、モヤモヤ血管とは別の理由で起こることもある。
それは、姿勢からもたらされると指摘するのは、共著者の遠藤健司准教授(東京医科大学)だ。猫背のような悪い姿勢が長期間続くと、「慢性的な疼痛や筋肉の不快感」の原因となる。また、姿勢自体は問題なくても長時間同じ姿勢でいると、やはり不具合が起きてくるという。
人体は構造上、じっとしているのに適しておらず、動いてこそ健康が保てるようになっていると、遠藤准教授は説く。
もう1つ注目したいのが、臓器や筋肉などを覆う「ファシア」と呼ばれる膜組織。これは体を滑らかに動かすのに重要な機能を担っているが、同一姿勢の持続や運動不足によって硬くなりやすい。そうなると筋肉の動きが悪くなって、むくみが生じ、周囲の血流が停滞して、こりや痛みとして自覚するようになる。
痛気持ちいいからと、揉んだり叩いてしまっては逆効果。ファシアは余計に傷んで、悪化してしまう。
解決策は、むくみを流してファシアをゆるめること。手を使って「押し流す」ようなイメージで行うセルフケアが効果的だ。本書には、部位に応じた押し流しの方法が載っている。
例えば、首を左右に振ると痛い場合。これは、肩甲挙筋がこっているので、下を向き肩甲挙筋を伸ばしながら、首の後ろを、上から下に向かって押し流す(下図参照)。

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このように、肩や腰などのこりや痛みは、我慢するのではなく、治すものへと現代医学のパラダイムシフトが起ころうとしている。日頃、こうした痛みに悩んでいる方は、本書を一読され、セルフケアを行い、診断を受けてみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『こんなに痛いのにどうして「なんでもない」と医者に言われてしまうのでしょうか』

定価1870円
ワニ・プラス
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。
