腰部脊柱管狭窄症に対してはいくつかの治療選択肢がありますが、手術をしない保存療法として、運動療法が有効な場合があります。
とくに簡単で効果が高いのはストレッチと骨盤後傾運動。
その方法を解説します。
腰部脊柱管狭窄症の治療
腰部脊柱管狭窄症では、
■殿部から脚にかけての痛みやしびれ
■歩行困難・間欠性跛行
■感覚異常
■筋力低下
など様々な症状がおこります。
病院などの医療機関では、これらの症状に対して鎮痛剤などの薬が処方され経過をみていきます。
しかし、痛みやしびれがなかなか治らない場合、または麻痺や膀胱直腸障害などの重篤な症状がある場合には手術をすすめられたり、実際に手術をおこなうことがあります。
また、病院によってはリハビリに力を入れていて、牽引やマッサージ、運動療法などがおこなわれることもありますが、実際にはまだまだそのような医療機関は少ないようです。
腰部脊柱管狭窄症に対する運動療法の効果に関して、日本の診療ガイドライン(2011)では、腰殿部痛や下肢痛に対して有効であるとのエビデンスが、一部で示されています(Grade C)。
また海外のシステマティックレビュー(網羅的な調査・評価)に目を向けると、運動療法は低いエビデンスではあるものの、痛みや機能の改善に有効である(Ammendorlia C, 2012)とも述べられています。
また他の研究では、運動療法は重度の症例を除けば手術と同等の効果が得られる可能性があり、保存療法の第一選択として実施すべきとも報告されています(Delitto A,2015)。
運動療法の内容に関しては、次のような方法の有効性が報告されています。
○体重免荷トレッドミル歩行や自転車などの有酸素運動(Fritz 1997,Pua 2007)
○脊柱の柔軟性改善を目的とした腰椎屈曲運動および胸椎伸展・回旋運動(Whitman 2003・2006,Murphy 2006,Backstrom 2011)
○股関節周囲のストレッチングおよび骨盤後傾運動(Rademeyer 2003,Yuan 2004,Backstrom 2011)
○股関節周囲筋の筋力強化(Frize 1997,Rittenberg 2003)
○体幹筋強化・安定化運動(Frize 1997,Simotas 2000,Backstrom 2011)
しかし、どの運動療法が最も有効なのかはまだよくわかっていません。
筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/)では、このようなエビデンスをもとに、腰部脊柱管狭窄症に対して様々な運動療法をおこなっています。
その中でも簡単で効果が高いのは、ストレッチと骨盤後傾運動です。
脊柱管狭窄症に効果的なストレッチ
脊柱管狭窄症のストレッチと一口に言っても、実際には体力や柔軟性、痛みの出る部位などによって効果的なものが変わってきます。
今回は、とくに多く見受けられる殿部の痛みに対して効果の期待できるストレッチとして、イスに座っておこなう殿筋ストレッチをご紹介します。
腰や骨盤周囲、腿裏などに痛みがある方は、以下を参考におこなってみてください。
自宅で出来る!腰痛トレーニングより(https://re-studio.jp/dvd/)
足の裏がしっかりつく高さのイスに、やや浅めに腰かけます。
片方の足首を、反対の膝に乗せます。
そのまま上半身を股関節から前に倒します。
背中や腰は丸め過ぎず、胸を脚に近づけるようにしていきます。
適度にお尻の筋肉が伸びたところで止め、30秒~1分ほど伸ばします。
終わったら上半身をゆっくり戻し、反対の足も同じようにおこないます。
片側2~3回ずつおこないます。
※ご注意)痛みのためにこの姿勢ができない、またはこの姿勢をとると症状が悪化する時はやめてください。
脊柱管狭窄症に有効な骨盤後傾運動
次に、脊柱管狭窄症に有効な運動療法の、骨盤後傾運動をご紹介します。
骨盤後傾(こつばんこうけい)とは、下の図のように、骨盤が後ろに回転して腰がやや丸まるような動きのことです。
筆者は、腹式呼吸プラス骨盤後傾のエクササイズをおすすめしています。
腹式呼吸によってインナーマッスルによる腹圧を活用できるようにすると、骨盤後傾とあいまって腰を正常な状態で維持しやすくなるのです。
以下を参考に練習してみてください。
自宅で出来る!腰痛トレーニングより(https://re-studio.jp/dvd/)
※画像では専用のポールに乗っておこなっていますが、床に寝たままおこなっても同じような効果があります。
1.床にあおむけになり両膝を立てた姿勢をとります。
2.そこから腹式呼吸の要領で、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、口をすぼめて天井に息を吹きかけるようにしっかりと吐き切っていきます。
この時に、おへその下あたり(下腹部)をへこますようにしながら息を吐いていきます。
下腹部をへこますようにしっかりと息を吐き切ることで、腹横筋に力が入るようになります。
息を吸うのは軽く、吐くときはお腹の底からしっかりと吐き切るようにしましょう。
3. 息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締める
2ができたら、今度は下腹部(腹横筋)と肛門(骨盤底筋)を同時に締める練習をします。
腹式呼吸で息を吐き切りながら、下腹と肛門を同時に締めるように力を入れてみましょう。
うまくしっかり吐き切りながら肛門を締められると、下腹部に強く力が入り、固くなるのがわかります。
またこの時に背中や腰や脚は力を抜いてください。
背中や腰や脚に力が入ってしまうと、かえって痛みを起こしやすくなりますので注意してください。
4.息を吐きながら下腹部と肛門(骨盤底筋)を締め、恥骨を引き上げて腰を丸め、床に押し付ける。
恥骨を引き上げるとは、みぞおちの方に向けて腹筋で引き上げるようにすること(下画像オレンジ矢印)です。
すると骨盤は後傾方向に回転します(黄色矢印)。
こうすることでさらに腹圧が高まりやすくなり、腰をしっかり支える姿勢をとりやすくなります。
これらのトレーニングを1日30回を目標におこなってみましょう。
いっぺんに30回でも構いませんし、10回ずつ朝昼晩のように分けても構いません。トータルで30回が目安です。
30回以上できるようなら、やればやるほど効果は出ます。
しかし、腰や背中、脚などに余計な力みがあると、かえって痛みを起こすことがありますので、その点はご注意ください。
また効果が出てくるまでには少し時間がかかります。2週間から1か月程度は根気よくトレーニングを続けてください。
このトレーニングをおこなうことで痛みが出る、または痛みのためにこのトレーニング自体ができないようでしたらやめてください。
この記事があなたの腰痛改善にお役に立てれば幸いです。
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文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html