著名人も続々と実践している「16時間断食」。体調が改善し、ダイエットにもなると、話題を呼んでいます。そこで、ベストセラー『「空腹」こそ最強のクスリ』から、空腹になることのメリットについてご紹介します。
文・青木 厚
一日3食では、内臓は十分に休むことができない
では、「一日3回の食事」が体に与えるダメージについて、もう少し詳しくみていきましょう。
一日3食の弊害として、最初に挙げられるのは、「胃腸をはじめ、内臓が休む時間がない」ということです。
人体において、食べものが胃の中に滞在する時間(消化されるまでの時間)は平均2〜3時間、脂肪分の多いものだと、4〜5時間程度であるといわれています。 また小腸は、胃から送られてきた消化物を5〜8時間かけて分解して、水分と栄養分の8割を吸収し、大腸は、小腸で吸収されなかった水分を15〜20 時間かけて吸収します。
ところが、一日3度食事をすると、朝食から昼食までの間隔は4〜5時間、昼食から夕食までの間隔は6〜7時間程度となり、前の食事で食べたものが、まだ胃や小腸に残っている間に、次の食べものが運ばれてきてしまいます。
すると胃腸は休む間もなく、常に消化活動をしなければならなくなり、どんどん疲弊していきます。
しかも、年齢を重ねるにしたがって、消化液の分泌が悪くなり、胃腸の働きも鈍くなります。
すると、ますます消化に時間がかかるようになり、胃腸も疲れやすくなります。
胃が疲弊すると、肌や髪にも悪影響をもたらす
一日3回、せっせと食事をとり続け、胃腸が疲弊すると、体にはさまざまな不調が現れます。
まず、胃腸が疲れ、消化機能が衰えると、食べものからきちんと栄養分を摂ることができなくなり、体に必要なビタミンやミネラル、微量元素不足に陥り、疲れやすくなったりだるくなったり、肌や髪のコンディションが悪くなったりします。
また、「胸焼け」「胃もたれ」「食欲不振」が起こりやすくなります。 胸焼けは、食道と胃の間の筋力が弱くなって、胃の入口部分の締まりが悪くなり、胃液が食道に逆流することで起こります。
胃もたれは、胃の機能が衰えて消化に時間がかかり、食べものがいつまでも胃に残ることで起こり、胃の消化機能が落ちれば、「あまり食べたくない」という気分にもなるでしょう。
「最近、胸焼けや胃もたれの回数が増えた」「昔に比べて食欲が落ちた」という人は、胃が疲れている可能性が高いので、ぜひ休めてあげてください。
なお、胸焼けや胃もたれ、食欲不振の頻度があまりにも多い場合、長引く場合は、胃炎などなんらかの病気につながったり、もしくはすでに病気になっていたりするおそれがありますから、一度検査を受けてみることをおすすめします。
腸内環境の悪化が、全身にダメージを与える
一方、腸が疲れ、働きが鈍くなると、消化しきれなかった食べものが腸内に残り、それらはやがて腐敗し、アンモニアなどの有害物質を発生させます。
腸の中には、
・消化を助け健康を維持する働きをする善玉菌
・腸内を腐敗させ病気の原因を作る悪玉菌
・体が弱ると悪玉菌に変わる日和見菌
といった腸内細菌がおり、健康なときは善玉菌が優勢なのですが、腸の中に老廃物や体にとって不要なもの、有害物質などがたまり、腸内環境が悪化すると、悪玉菌が優勢になります。すると、腸の働きがますます鈍くなるという悪循環が起こって、便秘や下痢などが起こりやすくなります。
ちなみに、加齢や胃の疲れによって胃液が減り、消化が不十分な食物が腸内に入ってくると、やはり腸内細菌のバランスが崩れ、腸内環境は悪化します。さらに、腸で発生した有害物質は、血液に乗って全身にまわります。
そのため、肌荒れがひどくなったり体臭がきつくなったり、ときにはがんなどの病気が引き起こされたりすることもあるのです。
また、腸には食べものを消化・吸収し、不要なものや老廃物を排泄するだけでなく、「体内に侵入しようとする異物(ウイルスや毒素など)を排除し、体を守る」 という「免疫機能」も備わっています。
腸の機能が衰え、腸内環境が悪くなると、免疫力が低下して風邪や肺炎などの感染症にかかりやすくなる、アレルギーがひどくなる、がんが発生する、といったことも起こりやすくなるのです。
「食事」が本当に始まるのは、食べものを口にした後
一日3度の食事によって疲れてしまうのは、肝臓も一緒です。いや、肝臓の疲れは、胃腸以上といってもいいかもしれません。
肝臓は、腎臓とともに「沈黙の臓器」といわれることが多く、ふだん、その存在が意識されることはほとんどありません。
胃腸の具合はよく気にするけれど、お酒を飲みすぎたときや、肝臓になんらかの障害が発生したとき以外、肝臓の具合を気にすることは、あまりない。そんな人も多いのではないでしょうか。
ところが、肝臓は実に働き者です。
食後、体に入ってきた栄養を、体内で必要なエネルギーに変えたり、余分なエネルギーを蓄えたり、食べものに含まれていたアルコールやアンモニアなどの毒素を処理したり、脂肪の消化吸収を助ける胆汁を作ったり……。
さまざまな役割を一手に担っているのが、肝臓なのです。
そのため、食事の間隔が狭く、次から次へと食べものが入ってくると、肝臓はフル回転で働かなければならず、どんどん疲弊していきます。疲れにより肝臓の機能が衰えると、本来肝臓で解毒されるはずの毒素や老廃物が体内に残ったり、作られるエネルギーの量が減ったりするため、体が疲れやすくなります。
また、お酒がおいしく感じられなくなったり、食欲が低下したり、あるいは肝炎や脂肪肝、肝硬変、さらには肝臓がんなど、肝臓自体の病気や障害が引き起こされたりするおそれもあります。
私たちは、「食べる」という行為を、つい「食べものを口に入れること」「食べものがのどを通過したら、終わり」ととらえてしまいがちです。しかしその後、体の中では、各臓器が一生懸命働いているということを、 忘れてはいけません。
体にとってはむしろ、食べものがのどを通過してからが、「食事」の本番です。
そして、人間に休息が必要であるのと同様、内臓にもまとまった休息が必要なのです。
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食事のことを考えるとき、「おいしいものを食べたい」「栄養バランスに気をつけたい」などと考えることが多いと思いますが、食べ物が体内に入ってから、内臓が一生懸命働いていることはなかなかイメージできませんよね。しかし、実際は内臓の働きによって、食べ物は栄養素として体に吸収されていきます。 内臓を労ることも忘れないようにしたいものですね。
青木 厚(あおき・あつし)
医学博士。あおき内科 さいたま糖尿病クリニック院長。自治医科大学を経て、2015年青木内科・リハビリテーション科(2019年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。インスリン離脱やクスリを使わない治療に成功するなど、成果を挙げている。自身も40歳のときに舌がんを患うも完治。食事療法を実践してがんの再発を防いでいる。