文/印南敦史
「人生100年時代」というフレーズにはすっかり浸透した感があるが、とはいえ長生きすればすべてが解決するわけではない。「長生きリスク」という言葉を耳にするようになったのも、長く生きればなにかとリスクが増えるのも事実だからだ。
つまり本当に望むべきは、健康なまま長生きすること。長生きできればなんでもいいわけではなく、いくつになっても自分の足で歩け、会話を楽しめ、好きなものを食べられるような暮らしを続けることにこそ意味があるのだ。
そこで参考にしたいのが、『100年長生き – 予防医学で健康不安は消せる』(森勇磨 著、ワニブックス)。産業医・内科医である著者が、100冊のベストセラー健康書のなかから、健康長寿の秘訣をまとめたユニークな一冊である。
一般的に「歳のせい」と思われているような不調でも、実は何歳からでも改善できるものは少なくありません。
わかりやすいのが、筋肉です。歳をとると筋肉が衰え、足腰が弱まりやすいのは真実ですが、筋肉はいくつになっても鍛えられます。ですから、すでに健康不安を抱えている方も、「歳のせい」と諦めている不調がある方も、この本で知識を得て、「100年の幸福長寿」を目指してほしいと思います。(本書「はじめに」より)
そんな本書のCHAPTER 4「寿命をどこまでも延ばす!『最強の健康習慣』」のなかから、「中高年以降は魚ファーストに切り替える」という項目に注目してみよう。
UCLA准教授の津川友介氏は、病気のリスクを下げる健康習慣をまとめた『ヘルス・ルールズ』(集英社)内の「食事」の項で、「なにを食べ、なにを食べるべきではないか」を紹介している。
ずばり、数多くの信頼できる研究によって健康に悪いと考えられている食品は、(1)赤い肉(牛肉や豚肉のこと。鶏肉は含まない)と加工肉(ハムやソーセージなど)、(2)白い炭水化物、(3)バターなどの飽和脂肪酸の3つである。
逆に健康に良い(=脳卒中、心筋梗塞、がんなどのリスクを下げる)と考えられている食品は、(1)魚、(2)野菜と果物(フルーツジュース、じゃがいもは含まない)、(3)茶色い炭水化物、(4)オリーブオイル、(5)ナッツ類の5つである。(本書152ページより)
なかでも魚については、67万人のデータから導き出された研究結果として、魚の摂取量の多い人ほど死亡リスクが低く、1日60gの魚を食べていた人は、まったく食べていない人にくらべて12%死亡率が低かったことが紹介されているという。
スーパーなどで売られている鮭や白身魚などの切り身1切れが80g前後なので、1日1切れで60gはクリアできる。刺身であれば3、4切れ程度で死亡リスクを下げられる可能性があるということだ。
循環器内科医の池谷敏郎氏も『「100年心臓」のつくり方』(東洋経済新報社)のなかで、「『心臓の健康』といったらコレ!」と、EPAとDHAを挙げているようだ。EPA、DHAは、アジ、イワシ、サバなどの青魚に含まれる油。
EPAは末梢欠陥をしなやかに開いて、血小板の活性を抑え、血流をよくしてくれる働きがあり、DHAは脳に働きかけて、うつ病や認知症の予防に役立つ可能性がある、と池谷さんは説明します。
さらに、EPA、DHAには中性脂肪やLDLコレステロールを減らし、HDLコレステロールを増やす働きがある、とも。実際、中性脂肪値の高い人に使われる「ロトリガ」という薬の主成分は、EPAとDHLなのです。(本書153〜154ページより)
つまりは、魚はそれほど大事なのだ。しかし当然ながら、肉を食べたほうがよいシチュエーションもある。たとえば、貧血があるときなどだ。
肉は、鉄分の摂取源としては非常に優秀。そのため、貧血の人は肉も意識的に食べてほしいという。だが、それでも一般的には、中年以降の健康を守ってくれるのは肉よりも魚ということになりそうだ。そこで、魚ファーストの食生活に切り替えるべきだと著者は述べている。
生活習慣病の予防と治療に詳しい医師の岡部正氏は、『ズボラでも中性脂肪とコレステロールがみるみる下がる47の方法』(アスコム)のなかで、「脂質異常症は自覚症状がないからと油断していると大変なことになる『警告としての生活習慣病』だと訴えているそうだ。
それは高血圧や糖尿病も同じで、自覚症状がないからといってほったらかしていると、じわじわ動脈硬化を進め、ある日突然、心筋梗塞や脳卒中などをズドンと引き起こすのです。(本書155ページより)
この“ズドン”の前に中間警告をはっきり示してくれるのは尿酸値くらいだそうだ。たしかに尿酸値が高くなると、痛風というかたちで症状が出る。そして、足で痛風が起きていたら、腎臓や心臓にも痛風のもと(尿酸値結晶)ができているかもしれず、動脈硬化が進んでいる可能性も多いのだという。
痛風以外の生活習慣病はほとんど症状がないが、健康診断で問題を指摘された人は「“ズドン”に一歩近づいてしまった」と自覚し、健康習慣をひとつでも多く取り入れてほしいと著者はいう。たしかに、そこは意識しておきたいところだ。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。