文/鈴木拓也

シニアの睡眠は必要最小限でよい

年を重ねると、夜はなかなか寝つけず、逆に朝は早く目覚めてしまう日が増えてくる。

これを不調と考え、悩んでしまう人は少なくない。

しかし、加齢に伴う厄介な問題ではなく、「眠る必要性が少なくなっている」と捉え直すことをすすめるのは、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部の部長、栗山健一さんだ。

栗山さんは、60代になれば、定年退職などで1日の活動量は減り、体内時計の周期も短くなるため、睡眠時間が減るのは自然なことだと説く。

また、著書『60歳からの新しい睡眠習慣:「眠れない」ことへの過剰な不安を解消』(河出書房新社)では、むしろ眠ろうと頑張りすぎるのはよくないとも記している。

健全な眠りが健康に欠かせないのは確かですが、「体調が悪いのは眠れていないせい。たくさん眠れば健康になれる」と思い込み、必要以上に眠ろうとすると、かえって健康を害する結果になり得ます。(本書18pより)

統計データを見ても、64歳までの働きざかり世代では、短い睡眠時間は死亡リスクが高まる一要因であるが、65歳以降ではそうはならないことが判明している。この年代になると、睡眠は「必要最小限」でよくなるのだ。

眠らずに布団で過ごす危険性

一方、本書のなかで栗山さんは、「床上時間が長いほど、死亡リスクが高くなる」点を指摘する。

床上時間とは、睡眠時間も含めて布団で過ごす時間をいう。たとえば、布団に入ってテレビを見ている時間も床上時間に含まれる。この時間が7~8時間の人に比べて、8時間以上に及ぶ人は、死亡リスクが高まることがわかっている。

これには明確な理由がある。先述のように約6時間眠れば十分であるにもかかわらず、無理してそれ以上眠ろうと早くに床についてしまうことで、睡眠の質が落ちてしまうのだ。これが、さまざまな疾病の一因となり、結果として死亡リスク上昇を招いてしまう。

その対策として栗山さんが記しているのは、「布団に入るのは、眠る時だけ」にすること。具体的には、寝室にテレビ、新聞、飲食物は置かず、照明はすべて消して真っ暗にすることをすすめている。要するに外部からの刺激をなくすわけだが、リラックスできて入眠を導くのであれば、アロマオイルを焚くとか、小音量で音楽を聴くなどは問題ないとしている。

仲間と楽しくする運動が快眠をもたらす

栗山さんは、質のよい睡眠をもたらすものとして日中の「運動」を挙げる。

運動といってもいろいろあるが、本書ですすめられているのが、「仲間と楽しく」できるものだ。

たとえば、朝の公園に集まって太極拳をする。ゴルフやゲートボールをする。家族と犬の散歩でもいいでしょう。
こうした仲間と集まってコミュニケーションをとりながらおこなう、リラクゼーションを兼ねた運動は、とても効果があるのです。(本書60pより)

身体を動かしながらの人との交流は、睡眠の質を上げるだけでなく、健康寿命を伸ばすというデータもある。定年後は時間的な余力が増えるだろうから、ぜひとも日常生活に組み入れておきたい習慣といえそうだ。

もう一つの重要なものが「朝食」。朝食には、朝起きて夜寝るというリズムを刻む体内時計をリセットする働きがある。それゆえ、朝食を抜いたり、遅い時間帯にとると体内時計が不安定となって寝つきが悪くなる。さらに、遅い時間帯の夕食も禁物。眠っている間に胃腸が活発に活動をしてしまい、睡眠が浅くなるからだ。

ちなみに、睡眠に好ましい食べ物については、明確な科学的結論は得られていないという。栗山さんは、健康全体の視点から「バランスのとれた健康的な食事を、規則正しくとる」ようアドバイスしている。

このほかにも、本書には60代からの睡眠について知っておきたい情報が数多く盛り込まれている。自身の睡眠について気がかりなことがある方は、一読してみるとよいだろう。

【今日の健康に良い1冊】
『60歳からの新しい睡眠習慣:「眠れない」ことへの過剰な不安を解消』

栗山健一著
定価1562円
河出書房新社

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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