文/鈴木拓也

最近、夜中にトイレに起きることが多くなり、おまけに朝の目覚めが早くなった。
トシのせいなのだろうが、なぜ中高年に差し掛かると、睡眠が浅くなり、早朝に覚醒するのか?

その疑問は、医学的にもはっきりとは解明されていないらしい。それなら、なおさら気になる。睡眠リズムの変化で、なにか病気にかかりはしないかと不安になり、今度は夜の寝つきが悪くなったような気がする。

40代以降なら心配は要らない

同年代の大勢が気がかりにしている睡眠の問題に、1つの答えを出すのは、スタンフォード大学医学部精神科教授であり、同大学睡眠生体リズム研究所所長を務める西野精治氏だ。
西野氏は、著書『スタンフォードの眠れる教室』(幻冬舎)で次のように記している。

20代、30代の若い人が「最近、急に眠れない」となったら睡眠クリニックや心療内科の受診をお勧めしますが、40代以降に問題が徐々に生じたならさほど心配はいりません。加齢による変化は誰にでも訪れます。見た目が若々しく、現役世代として活躍していても、体は確実に時を刻んでいます。(本書より)

夜中にトイレに起きる、いわゆる夜間頻尿も2~3回までなら大丈夫。トイレから戻って、眠れない状態が続くのであれば問題だが、いつの間にか寝ていれば気にする必要はないそうだ。

入浴して深部体温を下げる

では、夜なかなか眠れないという問題は?
それについて西野氏は、

過緊張・過覚醒の状態が持続しているケースが多く見られます(本書より)

と述べる。

起きて活動している間は、誰でも緊張・覚醒状態にある。就寝時刻が近づくと、その緊張も解けていき、「覚醒スイッチ」がオフになって眠りにつく。ところが寝つきが悪い人は、このスイッチを簡単にオフにできない可能性があるという。

その対策として注目したいのが深部体温(身体内部の体温)。覚醒時は、体の表面の体温(皮膚温)よりも深部体温は約2度高い。これが入眠時になると深部体温が下がり、その差は1.2度程度に縮まるという仕組みがある。つまり、深部体温がそこまで下がれば、覚醒スイッチがオフになる。

そこで、意識して深部体温を下げることで、寝つきの悪さが改善できる。その方法として、西野氏がすすめるのが入浴。具体的には38~40℃のぬるめのお湯に15分程度浸かるというもの。

ゆるやかに体温が上がると、体温上昇は体にとっては危険信号ですので、体温を一定に保とうとする恒常性(ホメオスタシス)の働きで汗をかき、手足から放熱するなどして、皮膚温・深部体温はともに下がり始めます。
入浴して1時間半から2時間後、元に戻った深部体温がさらに下がり、皮膚温との差が1.7℃程度と小さくなります。このタイミングで入眠すると、覚醒のスイッチが、オフになります。(本書より)

この場合、入浴を終える時間が重要。入浴直後は深部体温が高い状態で、その後下がっていく。なので、「これから寝よう」という直前に入浴すると、かえって寝つきが悪くなるので、就床する90分前には入浴をすませる。

では、お酒の力を借りて眠るというのはどうか?

西野氏は、「お酒にはリラックス効果もありますし、寝つきも早くなるので目の敵にすることはない」と前置きしつつ、「睡眠の質が悪くなるというデメリットを忘れてはいけません」と釘を刺す。

睡眠の質が悪ければ、翌朝目覚めたときはすっきりせず、前夜に早く寝た意味があまりなくなる。就寝前のお酒は、避けられるのなら避けるに越したことはないようだ。

もしも何かを飲みたいなら、カフェインが入っていない冷たい飲み物がいいという。実験では、冷たい飲み物や食べ物が眠気を誘うことがわかっており、これは深部体温を下げるからだと考えられている。西野氏は、冷たい麦茶を就寝前に愛飲しているそうだ。

朝は温かい飲み物を飲む

逆に、朝すっきりと起きるためのコツはあるのだろうか?

その答えはイエス。入眠時とは逆に、深部体温が上がるようなことをすればいい。手軽にできるのが、温かい飲み物を飲むこと。ホットのコーヒー、紅茶、味噌汁など、普段飲んでいるものが、実は覚醒をもたらす効果がある。なかでも、具沢山の味噌汁が推奨されており、西野氏はその効用を次のように説明している。

大きめに切った大根や人参など、しっかり噛む食べ物を入れるといいでしょう。噛むというのは筋肉を使う「運動」。噛んで味わう咀嚼は、感覚神経の上行枝(じょうこうし)への刺激にもなり覚醒刺激を引き起こします。(本書より)

ところで、朝風呂が習慣の人もいるかもしれないが、夜の入浴と同じく覚醒スイッチをオフにしてしまう。そこで、体温変化をあまり起こすことなく、目覚めを良くするという意味で、「ぬるめのシャワーを短時間」がいいそうだ。同じ理由で、冷水で手や顔を洗うことも有効だそう。

運動習慣については、良い目覚めという観点から言うと、全力を出し切るようなランニングなどは、入浴と同様の性質があってNG。運動は、汗をかかない程度を目安にする。特に高齢者は、ウォーキングにとどめておいた方がいいとも。

* * *

睡眠は、つい20~30年前まで「ただの休息」として、医学界から軽視されていたという。それが最近になって研究が劇的に進み、多くのことが解明されている。本書は、睡眠研究の最前線を手軽に理解し、睡眠の質を良くするためにおすすめしたい好著である。

【今日の健康に良い1冊】
『スタンフォードの眠れる教室』


西野精治著
幻冬舎

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

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