文/鈴木拓也

写真はイメージです。

50代の筆者の新年の抱負は、「運動不足解消のため、ランニングを始める」であった。

しかし、その抱負は一度も実現されることなく、今年も終盤を迎えようとしている。

そんな、ぐうたら人間のモチベーションを再起動してくれる1冊に、先日出合った。書名は、『ミドルエイジからの“がんばりすぎない”ランニング』(扶桑社)。著者は、フィジカルトレーナーでアメリカスポーツ医学会認定運動生理学士の中野ジェームズ修一さん。40代、50代からランニングを始めようという人にぴったりの著作だ。

これだけあるランニングの健康効果

中野さんが、あまり運動していない中高年にランニングをすすめるのは、明確な理由がある。

1つは、これが「きわめてシンプルで、複雑なスキルを習得する必要」がないということ。そして、数々の健康効果が立証されていることだ。

例えば認知症の予防。まったく運動をしない人との比較で、ウォーキング程度の強度の運動を週3回続けているだけで、アルツハイマー型認知症に罹るリスクは半減するという。

それどころか、逆に認知機能が向上することが確認されている。これは、BDNF(脳由来、神経栄養因子)という、脳内で産生されるタンパク質が関係している。BDNFは、「神経細胞の発生、成長、維持、再生などの機能に関与」しているそうで、脳の健康に極めて重要な働きをしている。通常、この物質の分泌量は加齢とともに減少していくが、ランニングに代表される有酸素運動や筋トレによって分泌が促進される。そのおかげで、記憶の中枢である海馬の神経細胞が増えたという研究結果もある。要するに、脳トレには運動がいいのだ。

また、食事を終えてしばらくしてからランニングをすることが、糖尿病の予防につながることも言及されている。血糖の75%は筋肉で消費されるが、特に太もも周辺の筋肉で多く消費される。そこで、食後の血糖値が上がっているときに、ランニングをして、そうした筋肉を刺激することで、血糖値をスムーズに下げることが可能となる。さらに、ランニングを毎日続けることで、食後だけでなく普段の血糖値上昇も抑えられるそうだ。

このほか、高血圧や中性脂肪のコントロール、骨粗鬆症の予防や慢性的な疲労感の解消など、ランニングの効用は見逃せないものがある。

まずはウォーキングから始めよう

「走った距離は裏切らない」という、アスリート向けの言葉がある。しかし40代以降は、いきなり走りこむと「裏切られる」ことがあると、中野さんは忠告する。せっかく健康のために走っても、それが身体の故障につながっては元も子もない。

中野さんは、「ランニングをしていて苦しくなったら歩けばいいし、まずはウォーキングから始めてもOK」とアドバイスする。ウォーキングであっても、しばらく続ければ筋力や心肺機能が向上し、ランニングという次のステップへと移行できるようになる。

ただし、ウォーキングといっても、のんびり散歩するというわけではない。この違いについては、次のように書かれている。

一つの判断基準としては、ウォーキング中に気持ちよく鼻歌が歌えたり、誰かとぺちゃくちゃおしゃべりができている場合、それは散歩ペースです。一緒に歩いている人と笑顔で会話のキャッチボールができなくなってくるペースが「ややキツい」ウォーキングに相当します。全く会話ができない状態だと歩くスピードが速すぎるので、ペースをおさえる必要があります。(本書14pより)

この「ややキツい」ペースとするには、身長の45~50%に相当する大股の歩幅で歩くのが目安となる。このとき、背筋は伸ばし顎を引いて視線を少し遠くに向け、(足を前に出すよりも)後ろ足で地面を蹴るように意識するのがコツ。慣れてきてスピードを上げられると、ランニングに切り替えたほうがラクという境界線が訪れる。そうしたら軽く走ってみて、習慣化していこう。

ストレッチで痛みを未然に防ぐ

気持ちは若いつもりでも、ミドルエイジには「若いころの回復力はもうありません」と、中野さんは指摘する。特にランニングを長く続けていくと、下半身のトラブルは避け難い。それを予防し、ケアするための静的ストレッチやアイシングといった手法が、本書では数多く紹介されている。

その一つが大臀筋と大腿筋膜張筋のストレッチ。これは、ランニング中に膝の外側が痛む腸脛(ちょうけい)靭帯炎を防ぐ効果がある。腸脛靭帯炎は、走りすぎや、太もも・お尻の柔軟性の不足によって起こる症状。これに罹ったことがあるとか、太もも・お尻の筋肉が硬い人は、入念に行うことがすすめられている。ここでは、大臀筋のストレッチを取り上げよう。

1. 膝立ちの姿勢から、片方の脚を前に出しながら、両手を床につける。
2. 前に出した脚の膝から下を、両肩を結んだラインと平行になるように反対側の手に向かって流す。
3. 後ろに伸ばした脚は、骨盤が傾かないように気をつけながら、後方へ伸ばす。
4. 息を吐きながら上体を前に倒し、お尻に伸び感を感じたところで30秒キープし2~3セット繰り返す。反対側も同様に行う。

ここまで読まれたあなたは、ランニングを始めたいという気持ちが高まったことだろう。「もしかしたら三日坊主で終わるかも」という心配は無用。まずは、チャレンジしたことをポジティブに捉えようと中野さんは記す。サボってしまったら、またリスタートすればいいのだから。

【今日の健康に良い1冊】
『ミドルエイジからの“がんばりすぎない”ランニング』

中野ジェームズ修一著
扶桑社

文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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