文/鈴木拓也
50代は、否応なく定年後の「セカンドライフ」を意識し始める年代だ。
しかし、何をどうしたいかについて、はっきりしたイメージを描いている人は案外少ない。「定年を迎えてから」では、ちょっと遅いかとは思いつつ、具体的な計画は、のばしのばしにしている人が大半だろう。
これに対し、「充実したセカンドライフにするかしないかは、50代の過ごし方次第」と説くのは、保坂サイコオンコロジー・クリニックの保坂隆院長だ。
保坂院長は、著書『神科医が教える 50歳からの時間の使い方 セカンドライフがうまくいく!』(新星出版社)の冒頭で、「50代は、充実したセカンドライフに向けて準備をスタートする、絶好のチャンス」と記している。そして、そのための具体的なアクションを、多くの視点から教えてくれる。
やりたいことを書き出してみる
保坂院長が、本書で最初にすすめているのが、セカンドライフでやりたいことを書き出すというもの。
これは、家でくつろいでいるときに、1枚の紙に箇条書きするだけでいい。「定年後にやりたいことはなんだろうか」と自問自答しながら、どんどん書き出す。費用や実現性は突き詰めず、思いつくまま興味・関心のあることをピックアップしてみよう。
「社会貢献」「旅行」「料理」などとリストができたら、定年を待たず、今からでも始められそうな項目に〇をつける。それで、やってみたい気持ちが高まってきたら、実際にスタートしてみる。
それとは別に、50代のうちにやっておきたいことを書き出す。「資格の取得」や「リフォーム」といった、時間や体力・気力を要するものから優先的にピックアップして、スケジューリングも組んでおく。
その後で今度は、現在と定年後とで人間関係や収入などがどのように変化するかも書き出しておく。これによって、定年後の生活の変化がよりリアルに感じられ、心の準備がしやすくなるという。
再雇用の一択でいいのか考えてみる
いざ紙を前にしても、考えあぐねてしまう方も多いかもしれない。
保坂院長は、いくつかのヒントを出している。まず、一番気になるであろう仕事について。多くの方は、今の勤務先を定年退職した後、再雇用の道を考えているだろう。この点について保坂院長は、次のようにコメントしている。
定年までまだ時間のある50代のうちに、再雇用ではどの程度の収入になるか、今からきちんと確認しておきましょう。また、再雇用の収入が生活資金のためなのか、趣味を充実させるために必要な資金なのか、収入ではなく働きがいがほしいのかなど、働く目的を考えておくことも必要です。(本書35~36pより)
もし再雇用後の収入が、生活していくには足りないのであれば、兼業を検討する、転職・起業も視野に入れるなど、考えは広がっていく。また、今の時代は、ワークシェアリングやコラボワークなど、働き方はどんどん多様化しており、そうした情報もチェックしておく。
どのような働き方に落ち着くにせよ。セカンドライフにおいては、「社会と接点を持つことが鍵」となり、働くことが「それをかなえる早道」であると保坂院長は言う。定年後の人生は長い。社会的な孤立は避けつつ、自分にとって快適なセカンドライフを見つけるのが肝心だ。
趣味をもって第3の「行き場」を作る
仕事とは別に、趣味をもつこともすすめられている。
もちろんこれは、セカンドライフをより充実したものにするためだが、会社と家以外の「行き場」を作るという目的が大きい。
仕事のない日は、家でゴロゴロして家族に疎まれる人を指す「定年難民」という言葉がある。これは家族だけでなく、本人にとっても辛いはずで、趣味はその解決手段として有効なものとなる。もし、興味をもてそうな趣味が見つからない場合、「カルチャーセンターや行政が行っている体験講習会」に参加するという手がある。そのコミュニティとつながりができるメリットがあり、新しい行き場となる可能性も秘めている。肩書によらない交流は新鮮味もあるはずだ。
一点留意しておきたいのは、「自分本位で選ぶこと」。流行っているからといった理由で、その趣味を選んでしまうと、長くは続かない恐れがあるからだ。くわえて、趣味は一つに限定せず、異なる系統のものを複数持つ。これは、特定の趣味に専心し過ぎて、身体を壊したり、人間関係を損なうリスクを避けるためだ。
大病は生きる意味を問い直すチャンス
50代は、まだ元気と思っていても、老いの兆候が見られる年代でもある。健康に気をつけていても、重い病気にかかることは稀ではない。
もし、病を得てしまったら、「いったん歩みを止めて生きる意味を問い直すチャンス」と考えるよう保坂院長は記している。
これに関して、初期の大腸がんを告知された55歳の男性の例が載っている。その人は、スクーバダイビングが趣味で、定年後は再雇用で働くか迷っていた。だが、一時は死を意識したことにより、考えが変わる。再雇用でなく、もっと自由がきく仕事の形態とし、夫婦で南国に移住。今は、スクーバダイビングを楽しみながら、現地で移住者をつなぐ活動をしており、充実した日々を送っているそうだ。
保坂院長は、大病を含めたつらい出来事は、自分が幸せになりたいという「小欲」とは別に、「自分を含めて誰もが幸せになってほしいと」願う「大欲」に目を向ける好機でもあると説いている。「大欲」は、セカンドライフをより実りあるものとする要素であり、苦難に際して前向きになることの意義を教えてくれる。
50代の今、これからの人生の組み立て方に悩んでいるなら、本書が一助になる。一読をすすめたい。
【今日の心の健康に良い1冊】
『精神科医が教える 50歳からの時間の使い方 セカンドライフがうまくいく!』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。