読書家で鷹狩好き、自ら薬を調合した天下人の知られざる素顔

駿府城公園の駿府城本丸跡に立つ徳川家康像。左手に鷹をもつ晩年の姿を表現。像高3.5m。昭和48年、彫刻家・堤達男の作。

読書を好み、書の普及に尽力した家康は、鷹狩を愛し、調薬を手がけるなど、多様な顔を持つ武人だった。江戸時代260余年の泰平の世の礎を築いた天下人の人物像を振り返る。

「家康の鷹狩好みは晩年まで続きました」

静岡市の駿府城公園に、鷹を手にした徳川家康像が立つ。いかにも鷹狩好きという雰囲気を伝える見事な銅像だ。
 
昨年、徳川美術館(名古屋市)の「鷹狩」展を担当した板谷寿美さんは語る。

「尾張藩の初代藩主、義直は家康の九男です。ある年、その傅(もり)役だった家臣が亡くなります。本多正信(※家康、秀忠に仕え、幕政に参加した家臣。)から出された手紙に、家康は涙を流すくらい悲しんでいると書かれています。それで家臣の家族を慰めるため駿府から名古屋へ向かうのですが、家康はその旅の間にも鷹狩を行なっています。史料をひも解くと、家康は晩年まで鷹狩を行なっていたようです」
 
家康にとって、鷹狩はたんなる遊びではない。鷹場となる村の視察や軍事訓練も兼ねていたといえるのだ。

板谷さんが続ける。

「鷹は猫や犬のようには人慣れしないようです。人の腕に止まるのは飼い主が好きだからではなく、危害を加えないからです。もしかすると腕を木の枝くらいに思っているのかもしれません。また、鳥を捕らえても、鷹は獲物を主人のところへは持ってきません。そこで鷹匠などがさっと走っていって獲物を取り上げ、別の餌を差し出す。それを〈据え上げ〉といいます」

鷹の餌を入れる器を餌合子(えごうし)という。徳川美術館には、尾張徳川家の餌合子が伝わっている。

黒塗蒔絵餌合子と覆。鷹に与える鳥の生肉を入れ、携帯できるよう覆に収納し腰から吊り下げる。尾張徳川家14代慶勝所用。徳川美術館蔵

鷹の獲物は、キジやカモ、ガンなど多種に及ぶが、ときにツルを捕らえることもある。

「鷹は本来、危険を冒して自分よりも大きな鳥を襲うことはしないようです。そこで鷹匠は、鷹がツルも狙えるように訓練します。ですから獲物のツルは特別ということになります」(板谷さん)

『鷹図屏風』のオオタカ。尾張藩御用絵師で狩野派の神谷晴真筆。八曲一双のうち右隻(部分)。江戸時代、各図本紙90.4×37cm。徳川美術館蔵

将軍家の「鶴御成」

将軍家には鷹狩で捕らえたツルを朝廷に献じる習わしがあった。それを「鶴御成」といい、年末の恒例行事だった。

『中古倭風俗 幕府鶴御成之図』。香蝶楼(歌川)国貞作、明治13年(1880)、大判3枚続、約35.5×72cm。「鶴御成」の行列を描く。将軍は多くの家臣を従えていた。葛飾区郷土と天文の博物館蔵

ツルは冬場に日本に飛来する。鳥見という役人が江戸近郊の飛来地を管理し、その年の飛来状況を聞き込みで確認する。

鳥見の情報をもとに、鷹狩の日程が組まれる。将軍は鷹匠から鷹を受け取り、ツルが飛び立つ瞬間に鷹を放つ。1羽の鷹で捕らえられないときは、第2、第3の鷹が放たれる。捕らえたツルは鷹匠がさばき、内臓を鷹に食わせ、腹の中に塩を詰め京都に送られた。

『久喜御鷹場絵図』。慶長6年(1601)、家康から伊達政宗に与えられた鷹場の絵図。現在の埼玉県北部一帯に広がる広大な区域。仙台市博物館蔵

鷹場の広さは、いまのゴルフ場の比ではない。仙台藩の伊達政宗は慶長6年(1601)に家康から久喜鷹場(埼玉県久喜市)を拝領した。その区域はいまの埼玉県北部一帯で、130以上の村に広がっていた。家康の鷹場に隣接し、ふたりは狩りに夢中になり、時々互いの狩場に入ってしまうこともあったという。そんな広大な鷹場を家臣と一緒に駆け回ればかなりの運動量になり、健康保持に役立ったに違いない。

解説 板谷寿美さん(徳川美術館学芸員)
平成4年、京都府生まれ。日本中世史とともに、漆工や金工の研究にも取り組む。昨年開かれた同館の企画展「鷹狩」を担当した。

取材・文/田中昭三 撮影/宮地 工
※この記事は『サライ』2023年2月号より転載しました。

 


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