認知症とは脳の病気、障害などさまざまな原因で認知機能が低下し、日常生活をする上で支障が出ている状態(およそ6か月以上)のこと。研究が進むとともに、ケアの方法はもちろん家族の心構えやサポート体制など、認知症の常識は今、大きく変わりつつあります。実際、30年前に比べるとその進行スピードは3分の1にまで緩やかになっているそうです。

「女性セブン」で4年間長期連載していた人気記事をまとめた『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』は、「もしかして?」と思ったときから最期の「看取り」まですべてを網羅している一冊です。東京慈恵会医科大学教授で、認知症専門医・日本認知症ケア学会理事長の繁田雅弘さんは「“何もわからなくなって人生終わり”というのは大誤解です」と言います。

今回は浜松医科大学老年看護学講座教授で医学博士の鈴木みずえさんの取材をもとにした、「妄想」や「徘徊」に対する具体的な対処方法についてご紹介します。

5人に1人が認知症になると言われる時代。もはや他人事ではありません。自分らしい人生を生きるための認知症との新たな向き合い方を知ることから、始めてみませんか。

取材・文/斉藤直子

「盗んだでしょ?」などと疑いなじる妄想・もの盗られ妄想

Point
(1)お金が見当たらない不安に寄り添う
(2)できれば一緒に探して見つけさせる

腹が立っても冷静に、まず本人の訴えを受け止めて

アルツハイマー型認知症の初期に多く現れる「もの盗られ妄想」。現金などを盗られたと思い込み、身近な家族に激しい疑いの言葉を繰り返しぶつけてくる。疑われた家族が否定や説明をしても受け入れられません。「誰かにつけ狙われている」など被害妄想の場合もありますが、「身近な人に大切なものを盗られる」というパターンが多いのは、中核症状の記憶障害で、自分がしまい込んだ場所を思い出せないことが一つ。もう一つ重要なのは、教え守ってきた子ども世代に助けられる立場になり、しかも自分でも不可解な認知症による変化に振り回されることで大きな自尊心の喪失があります。「情けない」「申し訳ない」と思う気持ちは家族が思う以上に深く大きく、認知症のBPSD(行動心理症状)全般にこのストレスがベースにあることを、家族は心に刻んでおく必要があります。

大きなストレスに見舞われると人は誰でも不安にとらわれておかしな妄想を抱くもの。認知症で脳の機能が低下していると、それを口に出して言ってしまう。追いつめられた気持ちでいることを受け止めましょう。

妄想の否定、事実の説得はNG。不安に寄り添って

もの盗られ妄想では、人に迷惑をかけずに生活するためにもっとも頼りになる現金などが見当たらない不安、立場逆転で優位にいる子どもや嫁(がターゲットになる場合が多い)が盗ったと疑心暗鬼になる気持ちを汲み取る。また被害妄想の場合も「そんなことあるはずない!」などと妄想の内容を否定したり、妄想であることを説得したりせず、「それは困ったね、心配だね」と本人が訴える不安を全面的に受け止めましょう。

直接対決は避け、他者に入ってもらう

「嫁が財産を狙っている」「娘に金を盗まれたから警察を呼んだ」などのもの盗られ妄想のターゲットになるのは、身近な信頼する人。疑われる家族が激昂するのも人情だ。関係を壊さないことを念頭に、ほかの家族やケアマネジャーなどに相談して直接やり合わない工夫を。市販のキーファインダー(探し物発見タグ)などを財布につけるのも有効。

本人が問題解決を実感できる工夫を

妄想は本人にとっては事実で、言葉で否定や説明をしても押し問答になるだけ。「窓から誰かが覗いている」と訴えるなら現場に行って何もないことを確かめる。財布が見当たらないならできるだけ一緒に探し、もし家族が見つけてもうまく誘導して本人に見つけさせ、問題解決をともに喜ぶと安心できる。

イラスト/『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』より

外出先から帰れなくなる、道に迷う・徘徊

Point
(1)迷子を責めずに外出した目的をじっくり聞く
(2)安全に外出できる機会を作る

一人で出掛けた先で目的や居場所がわからなくなって混乱し、黙々と歩き続けてしまうことがあります。自分が若い時代にいるつもりで「会社に出勤する」「幼稚園に迎えに行く」といった理由で出掛けてしまうことも。家族としては目が離せず、施設入所を考えるきっかけになることもあります。ただ目的なくさまよっているわけではなく、本人なりの目的と意思で歩いています。認知症で自尊心が傷ついていることを受け止め、現役時代の自分を懐かしんで役に立ちたいと思った気持ちは否定せず、できるだけゆっくり話を聞いてあげてください。理解されたと思うと落ち着きます。

また認知症の人にとって外を歩くことはとても大切。人が付き添う散歩や介護サービスなど、安全に外出する工夫を考えましょう。

活用! 地域の見守り・SOSネットワーク

認知症の人が出先で行方不明になることを防ぎ、安心して外出できるよう、本人が住む地域や街の見守り体制を整える試みが全国の自治体で推進中。事前に登録すると、万一行方不明になったとき、警察、住民、商店、交通機関などの協力者(実施自治体によりさまざま)が連携し、捜索に協力してくれる。1994年北海道釧路地域が始めたのを皮切りに、各地で試行錯誤を重ねながら拡充中。自治体により名称は異なるが「見守り・SOSネットワーク」で検索を。

「徘徊」という言葉を使わない自治体増加中

認知症の人が道に迷い、行先や目的を聞かれると記憶障害などのために答えられないこともある。かつて認知症は何もわからなくなるといった誤った認識から認知症の人が外出して帰れなくなることを徘徊と呼んだが、理解が進んできた今、認知症施策名などに徘徊という言葉を「ひとり歩き」などと言い換える動きが広がっている。

* * *

『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』
監/繁田雅弘 監/服部万里子 監/鈴木みずえ 文/斉藤直子
小学館 2200円(税込)

 

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