文/印南敦史

「人生100年時代」とはいわれるものの、だからといって100歳まで健康が保障されているわけではない。それどころか歳を重ねるごとに、病気に対する不安は大きくなっていくことだろう。

たとえば、「がん」と並んですぐに思いつくのは「認知症」だ。とくに多いのが、一般的には「アルツハイマー病」と呼ばれているアルツハイマー型認知症。日本人の認知症の半分以上を占めており、徘徊などによって家族や周囲の人たちを混乱させもする厄介な病気である。

薬の開発も進められてはいるものの、現時点では進行を遅らせるのが精一杯。なぜなら、一度変化してしまった脳はもとどおりにはならないからだ。だとすれば予防で手を打ちたいところだが、「アルツハイマーは防ぎようがない」といわれてきたのだとか。

しかし『糖尿病専門医だから知っているアルツハイマー病にならない習慣』(牧田善二 著、フォレスト出版)の著者は、「グレーゾーンならもとの状態に戻せる」という確信を持っているのだという。自分の患者さんたちをアルツハイマー病の淵から救ってきた多くの実体験があるそうなのだ。

銀座でクリニックを構える糖尿病専門医。認知症を扱う専門医ではないわけだが、だからこそアルツハイマー病の予防法をよく理解していると断言するのである。

アルツハイマー病は糖尿病と深くリンクしており、専門家の間では「アルツハイマー病は3型糖尿病」という認識が広まりつつあります。要するに、アルツハイマー病を予防する上では、糖尿病に関する深い知見が必要不可欠なのです。(本書「はじめに」より)

そこで本書では、「そもそもグレーゾーンとはどういうものなのか、そこでなにをすればいいのか」「日常の生活でどんなことに気をつけるべきなのか」「なにかサインが出ているとしたら、どうキャッチしたらいいのか」などについて解説しているのである。

その方法は糖尿病ではない人にも共通して当てはまるもので、年齢も置かれた状況も問わず、アルツハイマー病に不安を抱く人なら誰でも活用できるようだ。

ところで予防に際してもっとも重要なのが「食事」なのだそうだ。アルツハイマー病に限らないことではあるが、食事内容を改善することでかなりの予防効果が期待できるということである。

健康と食事の関係については世界のさまざまな機関で研究が進んでおり、研究内容も実験対象者もいろいろ。ただ共通していえるのは、魚や植物性食品、オリーブオイルは健康によい食材だということだという。

そして、これらをまとめて摂取できるのが、「地中海式ダイエット」と呼ばれる食事法です。地中海式ダイエットは、糖尿病予防に大きな効果があることがすでにあちこちで証明されています。
さらに、日本の研究で、認知症予防に効果があることがわかりました。なんと、地中海式ダイエットを取り入れると、アルツハイマー病で35%、血管性認知症は55%リスクが低下するというのです。(本書126ページより)

地中海式ダイエットでは、素材に魚や植物性食品(野菜、豆類、キノコなど)を中心に、調理にはオリーブオイルをたっぷり使用する。炭水化物はあまり摂らないものの、魚や野菜をたくさん食べるので空腹感とは無縁でいられるのだ。

ご存じのとおり、野菜にはさまざまなミネラルやビタミン、食物繊維など健康を維持するために欠かせない栄養素が詰まっている。

最近では、免疫活性化物質である「ファイトケミカル」という栄養素に注目が集まっています。ファイトケミカルは強力な抗AGE作用・抗酸化作用を持った物質で、とくに植物性食品に多く含まれています。
というのも、植物は動物と違って移動ができません。まさに、置かれた場所で咲いているだけです。そういう植物には、動物や昆虫などの外敵に襲われても大丈夫なように、特別な防御物質が豊富に含まれているわけです。(本書128ページより)

そのため野菜を食べることで、私たちもその成分をしっかり吸収できるということだ。

なおファイトケミカルには、ポリフェノール、イソフラボン、リコピン、カロテン、アントシアニン、イソチオシアネート、スルフォラファンなどいくつかの種類があり、野菜によって含まれる成分が異なる。したがって、いろいろな野菜をまんべんなくたくさん食べるのがいい。

私は毎日、生の状態で350グラムに相当する野菜を食べています。すべて生では無理ですから、一部はサラダに、残りは蒸し野菜やおひたしなどにしてお弁当に詰め、主に昼に食べるようにしています。(本書129ページより)

ただし、ジャガイモやカボチャには糖質が多いので避けるようにしたほうがいいという。葉野菜や実野菜を中心に、旬のものを食べるようにすると気分も上がるはずだ。

また、果物も植物性食品ではあるが、糖質がかなり含まれる。とくに日本の果物は甘味が強いので、ほどほどにしたほうがいいそうだ。


『糖尿病専門医だから知っているアルツハイマー病にならない習慣』
牧田善二 著
フォレスト出版

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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