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花色、花形も種類豊富で見ているだけで楽しい菊の花

秋の気配を感じると、園芸店の店先に並ぶ花々が変わってきます。秋らしさを感じる山野草のような和風な風情の植物も多く並び始めます。その中で、「これも?」と目を引くのが「菊」の花たち。淡いピンクや蛍光黄緑やシックなものまで……とにかく花色のバリエーションが多くてびっくりします。

蛍光グリーン
花合わせが難しそうな花色ですが、秋空に映える花色です。
花形が古典菊のような形状なので、シンプルに草姿を楽しみます。

さらに、花形。ここ数年の進化は目まぐるしく、スプーンが放射状に並んだような花びらの形状や、ピンポン球のようなまん丸のタイプ、マーガレットのコサージュのようなシンプルな花形のものなど、さまざまな形のものがあり、見ているだけで楽しくなってきます。切り花でたくさんのバリエーションが流通して人気も上がり、認知された品種が鉢物として流通する傾向が強いようです。秋のブーケで眺めていた品種が、自宅で栽培できるようになった感じです。

菊は、室町時代から日本で親しまれ続けている身近な花

「菊」と聞けば、菊人形や、仏壇にお供えする仏花や、菊花展にみられるように、なんだかとっても距離を感じる植物だと思います。菊はそもそも、中国原産の植物で室町時代に日本に導入されてから、地域ごとの品種が生まれ庭ホウキを逆さまにしたような草姿や、花びらが下がって開花する草姿のものなど珍しい花姿のものが鑑賞されるようになりました。もっとも品種改良が進んだのが、江戸時代。お花好きの江戸のお殿様を驚かせようと、各地域で品種改良が進んだことも要因で、国の平和と園芸文化が最も充実した時と言われています。

そんな時代に作出された品種も時空を超えて現代でも鑑賞できるのが、植物の面白いところ。図譜を眺めながら実物の花も鑑賞できてしまうことが、“園芸は文化である”と言われる所以なのか? ……などと思いながら、難しいことが苦手な私は、単純に「かわいいな〜」という眼差しで菊の花に見入ってしまいます。観に行く花は多少距離があっても、育てる花は近しい距離感が程よいかな? と思う次第です。

「秋らしさ」を暮らしの景色に引き寄せるマムは、寄せ植えがおすすめ

最近、鉢物で流通する菊の鉢植えは、「ポットマム」という名称で呼ばれる植物になります。鉢植えで手軽に栽培できるマム(マムは学名のクリサンセマムから)という意味で、花数の多さと花持ちの良さが楽しめるように作られた植物です。欧米で品種改良されてから日本に逆輸入の形で導入され、花色や、花形のバリエーションが増え、草丈もコンパクトなサイズから膝丈のものなどさまざまです。寄せ植えでも、1鉢を鑑賞するものなど、暮らしに取り入れやすいサイズ展開で、栽培、置き場所、花色など、さまざまな角度で身近な存在の植物になりました。

そんなマムを育てるのに私がおすすめしたいのは、寄せ植えです。秋らしさが感じられるように、数種類のポットマムだけを贅沢なブーケのように植えたり、ススキや実つきの枝物と一緒に植えて牧歌的な景色を再現するも良いでしょう。ほかにも、鑑賞用トウガラシなどと寄せ植えして、実りの秋を楽しむなど、「秋らしさ」を暮らしの景色に引き寄せることができる良い植物だと思います。

ポットマムとトウガラシ
ベビーピンクのポットマムに、色変わりする五色トウガラシを寄せ植えに。
鉢の縁がレース模様なので、ガーリーな雰囲気で楽しめます。
ポンポンマムというピンポン球のような形状のマムを数色合わせた寄せ植え。
和菓子のような愛嬌のある花形が愛らしいマムです。秋らしい色合いを存分に引き出すには枝物がポイント。ガマズミの赤い実で秋らしさを。

寄せ鉢、切り花などのアレンジも自在! どんなスタイルにも合う菊は、楽しみ方も多種多様

和風なイメージのある菊の花ですが、植木鉢、合わせる花色や小物使いで、ポップな雰囲気にも和モダンのシックな装いにも、ナチュラルなスタイルにもコーディネートが自在です。

夜の温度が下がるこれからの季節は、植物にストレスがかからなくなるので、栽培しやすい時期になります。寄せ植えをしたことがなくても、菊は絵を描くように花を合わせて植えるだけで、マフラーを巻く頃まで長く鑑賞でき、栽培できる植物です。寄せ植えをするまでの勇気がない時は、「寄せ鉢」という方法もあります。鉢カバーや大きめのカゴなどに、鉢のまま数鉢置くことを寄せ鉢と言いますが、土を買うことや、植え替えの労働がないのがメリットです。

水やりは、ひと鉢ずつになるので、水切れ注意、かつ丁寧な作業が必要になりますが、苗物ではなく開花株で流通するので、植物的にはほぼ完成された状態です。なので、植え替えしなくても買ってきたままの状態で栽培ができます。ただ、買ってきたままのプラスティックの鉢が見えると雰囲気がないので、数鉢寄せて、鉢が見えないようにカバーをかけたり、大きめのカゴに一盛りにしたりすることで、置き場所の雰囲気に合わせたアレンジを楽しめます。

寄せ鉢
八重咲きで黄色のシンプルなポットマムはざっくりした網目のカゴに、ミセバヤと一緒に寄せ鉢で楽しみます。日当たりを好むマムですが、北側玄関などの明るい日陰でも栽培可能。ウエルカムフラワーで、椅子などに載せて目線を高く楽しむのも景色が変わって面白いです。

さらにそれも面倒……という方は、買ってきた鉢のまま栽培。そして、鉢からひと枝おすそ分けいただき、切り花で楽しむことも可能です。驚くほど花持ちがよいので、外で鉢植えを栽培しつつ、室内で花を鑑賞すれば、2倍の楽しみに。一輪差しを活用しても、蕎麦猪口やグラスでもなんでも活用できるので、置き場所に合わせた容器で飾ってみてください。直射日光が入りにくい洗面所や、キッチンのカウンターでも、普段育てられない場所に植物があるのも、なんだか目線が近くて気持ちが上向きになると思います。

切り花で
鉢植えから満開になっている花茎をひと枝拝借。シンプルなガラスの容器に生けます。間口が広く花が水没しそうなときは、流木などで花を留めるようにすると飾りやすくなります。

自分のスタイルにあったガーデニングで、季節の「らしさ」を楽しんでみては?

「ガーデニング」と一口に言っても、育てるガーデニングだけでなく、出向いて観に行くガーデニング、切り花や図譜などで見るだけのガーデニングなどいろいろなものがあります。私たちの暮らしのバリエーションが増え、ガーデニングもさまざまな楽しみ方ができるようになりました。

秋らしい景色。秋の七草まではいきませんが、秋の屏風絵のように配置した寄せ植え。

酷暑を乗り越えたからこそ、秋の花色に心惹かれたり、昼夜の寒暖差に見える景色があったり……。せっかく4つの季節がある国に生まれたのですから、自分のスタイルにあったガーデニングで暮らしに植物を取り入れて、季節の「らしさ」を楽しんでみてはいかがでしょうか。

撮影協力/花のワルツ

杉井 志織(すぎい・しおり)
1972年生まれ、埼玉県出身。建築の専門学校を卒業後、フラワースクールで植物の生態やアレンジメント、花屋運営のノウハウなどを学ぶ。現在は、ガーデニングや花壇ボランティア運営の指導、イベント装飾、執筆活動の他、NHK『趣味の園芸』へ出演する等、各メディアで幅広く活動中。上海花卉博覧会(10th CHINA FLOWER EXPO)海外招待ガーデナー・最優秀設計賞受賞。

杉井志織さんのインタビュー記事はこちら

 

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