多忙な名医が長年続けるストレスフリー習慣
「医者の不養生」とは、もはや過去の話。
医療の逼迫や健康意識の高まりによって、多忙を極める名医たち。
自身の体調はもちろん、高い業務パフォーマンスを発揮するために、どんな「健康術」を実践しているのでしょうか。
登場する5人は、世界最新の医療データやエビデンスなどの「情報」に明るいだけでなく、患者や相談者らに日々接しており、「臨床経験」も豊富。10万部を突破するベストセラーも多数生み出し、健康増進に関心を持つ人たちのニーズも熟知しています。
共通するのは、時間もお金もかけず、無理なく負担なく「ほどほど」にできる方法を、長きにわたる「習慣」として、コツコツ実践していること。
今回は、「脳生理学」の名医、有田秀穂先生の健康術を紹介します。
文/有田秀穂(「脳生理学」の名医)
脳内の神経物質「セロトニン」を活性化させる
脳内の神経物質「セロトニン」は、脳の活性化と密接に関わり、ストレスに負けない健全な心身の状態を保つ作用があります。セロトニンが不足すると、よく眠れず、心も晴れないまま、慢性的な疲労を感じるようになり、ひどい場合はうつ病になったりすることもあります(下掲イラスト参照)。一方、セロトニンが正常に分泌されるようになれば、心と体の不調が和(やわ)らぎ、元気になることが明らかになってきました。
「セロトニン不足」による症状の例
セロトニンを活性化させる方法として、「太陽の光をしっかり浴びる」「リズム運動を行なう」という2点があります。リズム運動とは、一定のリズムを刻みながら行なう活動のことです。ウォーキングやジョギング、呼吸法や咀嚼(そしゃく)などがそれに当たります。
そもそもあらゆる動物は、生命活動として毎日「歩く」「咀嚼」「呼吸」という3つのリズム運動を行なっています。ところが現代人の多くは、そのいずれも充分に行なっているとは言えません。ですから、意識的に太陽光を浴び(電灯の明かりでは効果なし)、意識的にリズム運動を取り入れる生活をしたほうがよいのです。
私自身は、朝たっぷりの日差しを浴びながら「六字訣(ろくじけつ)」という中国古来の養生法を日課にしています。六字訣は、発声とストレッチを組み合わせたリズム運動です。
基本的には「嘘(シュー)」「呵(ホー)」「呼(フー)」「呬(ス ー)」「吹(ツュイー)」「嘻(シー)」という6つの音を発声しながら、ゆっくりと体を動かします。それぞれの運動が肝臓、心臓、脾臓(ひぞう)、肺、腎臓(じんぞう)、腸の活性化につながると言われています。やり方は、まず丹田(たんでん)(へその下)に両手を当て、股関節(こかんせつ)を緩めて腰を落とします。これが「基本の姿勢」です。必ず基本の姿勢から始め、ひとつの動きが終わったら基本の姿勢に戻ります。また、同じ音・同じ動きを6回続けてから、次の音へ移ります(詳しい動き方は下掲イラスト参照)。
有田式「六字訣」を使った養生法
基本の姿勢
1.「噓(シュー)」の運動
2.「呵(ホー)」の運動
3.「呼(フー)」の運動
4.「呬(スー)」の運動
5.「吹(ツュイー)」の運動
6.「嘻(シー)」の運動
いずれも大きな声を出す必要はありません。大事なのは、できるだけ息を長く使って吐ききることです。息を吐くとき(発声するとき)は口からできるだけゆっくり長く(8〜12秒くらい)、息を吸うときは鼻からゆっくりと(4秒くらい)、吐いた半分ほどの量を吸えば充分でしょう。
一連の動きも慣れれば15分程度でできるようになります。私も六字訣を行なうと頭がすっきりし、前日の疲れが取れることを実感しています。足腰に不安がある場合は、6つの音を発声するだけでもある程度の効果があります。
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有田秀穂(ありた・ひでほ)
東邦大学医学部名誉教授。昭和23年、東京生まれ。東京大学医学部卒業。医師・脳生理学者。セロトニンDojo(ドージョー)代表。セロトニン研究の第一人者で薬に頼らない病状改善の呼吸法などの指導を実施。著書に『医者が教える疲れない人の脳』など。