多忙な名医が長年続けるストレスフリー習慣
「医者の不養生」とは、もはや過去の話。
医療の逼迫や健康意識の高まりによって、多忙を極める名医たち。
自身の体調はもちろん、高い業務パフォーマンスを発揮するために、どんな「健康術」を実践しているのでしょうか。
登場する5人は、世界最新の医療データやエビデンスなどの「情報」に明るいだけでなく、患者や相談者らに日々接しており、「臨床経験」も豊富。10万部を突破するベストセラーも多数生み出し、健康増進に関心を持つ人たちのニーズも熟知しています。
共通するのは、時間もお金もかけず、無理なく負担なく「ほどほど」にできる方法を、長きにわたる「習慣」として、コツコツ実践していること。
今回は、「糖質制限」の名医、牧田善二先生の健康術を紹介します。
文/牧田善二(「糖質制限」の名医)
食べるべき物、避けるべき物を徹底
誰でも年齢を重ねれば、基礎代謝が落ち太りやすくなります。とくに、日本人男性は30代から太り始め、50歳を過ぎた頃から体重コントロールを本気で考える必要が出てきます。体重を落とすだけで健康診断のさまざまな数値が良くなる例はざらにあるのです。
私の場合は、自分が維持すべき体重をBMI(肥満度を表す指標。[体重(kg)]÷[身長(m)]の2乗で算出)も参考に57・5kgと決めています。中高年になったら少し小太りぐらいでも「可」としていいのですが、私は患者さんにダイエットを勧める立場なので、より自分に厳しくしています。
そのために、毎日の体重測定が欠かせません。毎朝起きてトイレを済ませたら、すぐに体重計に乗ります。そして、体重次第でその日の食事内容を変えていきます。
用いる方法は「糖質制限」のみ。体重が57・5kgより多ければ炭水化物を控え、少なければ気にせず食べるという簡単な方法です。なぜ炭水化物を減らすかというと、実は、炭水化物と糖質はほぼ同じもの。ご飯やパン、麺類などの炭水化物は多糖類、砂糖は二糖(にとう)類といって、どちらも消化・吸収の過程でブドウ糖に分解されます。
牧田式「体重コントロール法」
私たちが太るのは、カロリーが高いものを食べたからではありません。血液中のブドウ糖が増えることに端を発して太ります。そこで、ブドウ糖の元である炭水化物を制限するわけです。
炭水化物の摂取量を減らすだけで必ず体重は落ちます。とはいえ、忙しい朝の食事はパンとコーヒーで済ますことが多いので、どうしても炭水化物に偏(かたよ)ります。その代わり、昼と夜はほとんど炭水化物を口にせず、魚や肉などのタンパク質と、野菜を中心に食べます。
野菜とお酒の選び方にも工夫
野菜は毎日、厚生労働省の目標値(350g)を上回る400gくらい食べます。私の場合、昼食にまとめて摂ります。サラダ、蒸し野菜、炒め物、具だくさんスープ……など、妻が作るさまざまな野菜料理を保温性のある容器に入れて持参し、昼休みにゆっくり味わいながら食べるのです。
野菜は、火を通すことで嵩(かさ)が減りたくさん食べられます。一方で火を通せばビタミン類が失われます。ですから、その両方を取り入れるようにしています。ただし、イモ類やカボチャは糖質が多いので避け、ほうれん草や小松菜(こまつな)などの葉野菜、ナス、ピーマンなどの実野菜を中心に、できる限り旬のものを食べます。たとえば同じほうれん草でも、旬の露地(ろじ)物とハウス栽培では含まれる栄養素の量が全然違うからです。
牧田式「野菜の食べ方」
また、夕食時には、たいてい妻とふたりで辛口の白ワインをボトル1本飲みます。白ワインは、含まれるミネラル成分の影響で痩(や)せる効果があることがドイツの医学論文で報告されています。一方、甘口タイプのワインは糖質が多いのでNGです。あくまで辛口のものを愛飲しています。赤ワインも糖質は少なく、体にいい抗酸化物質のポリフェノールがたっぷり含まれていますから、料理に合わせてときどき飲みます。
日本酒は、そこそこ糖質は含まれていますが、あまり気にすることはないでしょう。ウイスキーや焼酎などの蒸留酒は糖質ゼロですから、いくら飲んでも太りません。
一方で、ビールは糖質が多いので私はあまり飲みません。ビール好きの患者さんには、ひと缶までとして、続きは「糖質ゼロ」の商品に代えるよう勧めています。
なお、お酒を飲むときには、一緒に大量の水を飲むのが牧田流。水を飲むと血中アルコール濃度が薄まるため悪酔いしません。具体的には2L近く飲むでしょうか。外食するときは、最初からピッチャー(水差し)を頼むほどです。
牧田式「お酒の飲み方」
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牧田善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長。昭和26年、北海道生まれ。北海道大学医学部卒業。糖尿病専門医。生活習慣病や肥満治療のための専門クリニックを開業し、延べ20万人以上の患者を診ている。著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』など。