「睡眠は健康を保つために大切なもの」とわかっていながらも、なかなか寝つくことができない、眠りが浅いなどの睡眠トラブルが続くと、「もっとしっかり寝なければ」と焦ることがありますよね。
しかし、健康を保つための眠る力は50歳くらいから徐々に衰えていくので、若いときのように眠れなくなっていくのは自然なことなのだそう。眠れないからといって不安になるのではなく、「睡眠力の衰えを受け入れ、自分に合った睡眠リズムを作ることが大切」と説く『60歳からの睡眠の新常識』から、睡眠力の衰えを補うコツをご紹介します。
監修/坪田 聡(医師・医学博士)
「睡眠力」は50代から落ち 60代から睡眠段階が浅くなる
「昔と違い、なかなか寝つけなくなった……」「夜中に何度も目が覚めてしまう……」など、なんとなく10年くらい前から、若い頃に比べて睡眠が変わってきたように感じていませんか?
これは、加齢によって睡眠力が衰えてきた証拠です。実は睡眠力は10代がピーク。そこから徐々に弱まり、50代の頃から大きく衰えます。
上の図でもわかる通り、睡眠力が衰えると深い睡眠に入りにくくなります。特に60歳を超えると、深い睡眠自体がなくなり、睡眠段階1〜2までにとどまる人が多くなってくるのです。
昔より眠れないのは当たり前! 元気に過ごせるなら問題なし
年齢を重ねると、なぜ睡眠力が落ちてくるのでしょうか? これは、脳の中でも睡眠サイクルを調節する睡眠中枢が老化するからです。つまり、若い頃の眠り方と比べても意味がないのです。
特に女性の場合は、更年期以降で「ぐっすりと眠れていない……」「眠っても疲れが取れない……」などと感じることが増える傾向にあります。
しかし実際には、睡眠状態そのものは悪化していない場合が多いのです。これはホルモンの急激な変化や子離れなどによる精神面での変化などから、そう思い込んでしまっていると考えられます。
もし本当に眠れていなければ、日中の活動にも支障が出るはず。
つまり、日中のパフォーマンスに問題がなければ、よく眠れているかどうかは気にしなくて大丈夫なのです。
良質な睡眠のためにできること
そもそも、どうして睡眠が必要なのでしょうか? これには大きく分けてふたつの役割があります。
ひとつは、脳と体のクールダウン。体温を下げて深い眠りにつくことで、日中に疲れた脳と体を休ませるのです。
もうひとつは、脳と体のメンテナンス。その役割を担うのが「成長ホルモン」です。成長と名がついていますが大人にも重要なホルモンで、細胞の修復・再生や疲労回復のほか、免疫機能や認知機能にも作用します。このホルモンは睡眠中に多く分泌され、特に最初の深い睡眠中に大量に放出されます。
良質な睡眠の鍵となるのはホルモンバランス
年齢とともに睡眠力が落ちることは、既にお伝えしましたが、生活をちょっと意識することで、60歳からでも睡眠の質を高めることができるのです。
睡眠の質を高めるために有用なのは、成長ホルモンの分泌を活性化させること。睡眠は最初の深い睡眠中に大量に放出されます。寝ついてから3~4時間で分泌のピークになるので、遅くとも毎晩午前0時までに眠ることで、分泌を活性化させられるのです。
それに加えて意識したいのが、「メラトニン」と「コルチゾール」というふたつのホルモン。上の図でご紹介している通り、このふたつのホルモンは睡眠に密接な関わりを持ちます。つまり、このふたつを意識して整えることで、自然と生活サイクルも整い、睡眠の質が高められるというわけなのです。
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『60歳からの睡眠の新常識』 坪田 聡 監修
宝島社
坪田 聡(つぼた・さとる)
医師・医学博士。雨晴クリニック院長。日本睡眠学会、日本医師会所属。医師として診療にあたるうちに、睡眠障害がほかの病気の発症や経過に深く関係していることに気づき、高齢者を中心に睡眠障害の治療を開始。その後、治療から予防に診療をシフトし、「快眠で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、睡眠の質を向上させるための指導や普及に努める。2006年に生涯学習開発財団認定コーチの資格を取得し、睡眠コーチングを創始。2007年から総合情報サイト「All About」の睡眠ガイドとして、インターネット上で睡眠情報を発信中。著書に『睡眠は50歳から「老化」する』(大和書房)、『女性ホルモンが整う オトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版)、『朝5時起きが習慣になる「5時間快眠法」』(ダイヤモンド社)などがある。