“蜂屋” は重労働だ。ここぞという日の朝は、蜂蜜が隠し味のご飯とルウのビーフカレーが、女性養蜂家の活動を支える。

【尾形玲子さんの定番・朝めし自慢】

中央から時計回りに、ビーフカレー(芽ぐみ米・牛肉・玉葱・人参・菜の花蜂蜜)、新生姜の梅酢漬けと甘酢漬け、酢人参、スムージー(夏蜜柑・バナナ・ほうれん草・水・レモン汁・菜の花蜂蜜)。人参は熊本産の無農薬野菜で、皮が柔らかいので皮ごと使う。これで作る酢人参は、尾形家の常備菜。スムージーに入れる夏蜜柑は、庭で採れたものだ。
手作りの梅酢蜂蜜は青梅を、酢と蜂蜜1対1の割合で漬け込んだもので、写真は3年もの。このシロップを水で割って、水代わりに飲む。梅酢蜂蜜が玲子さんの健康飲料だ。

朝6時起床、朝食は8時頃。「蜂場(ほうじょう)のある山に行く朝は、アスリートなみのビーフカレーが定番。パンでは体がもちません」と、庭で朝食を摂る尾形玲子さん。ビーフカレーは作り置きし、冷凍保存。
黄色に染まる菜の花畑に蜜蜂が飛び、蜜を吸う。養蜂箱から巣板(すばん)を取り出すと、1枚の巣板に2000〜3000匹の蜜蜂がいて、六角形の巣房の中に菜の花蜜がたまっている。
巣板ごと遠心分離器に入れると勢いよく回り始め、巣房の蜜が飛び散り、壁をつたって底にたまる。これを網で漉して不純物を取り除くと、純粋な菜の花蜂蜜の出来上がりだ。
『ひふみ養蜂園』の蜂蜜。右から定番の「菜の花純粋蜂蜜」(600g/2650円)、「アカシア蜂蜜」(180g/1800円)、幻の「枇杷蜂蜜」(180g/2400円)。枇杷蜂蜜は来年1月から販売受付。
電話:0120・123・832 営業時間:9時〜17時 定休日:水曜

「今はコスト面から9割近くが定地養蜂に変わってきていますが、“蜂屋” の本道は転地養蜂。うちでは父の代から県外転地です」

というのは、『ひふみ養蜂園』の2代目・尾形玲子さんである。同園では1月、南房総の枇杷の花や菜の花に始まり、6月に入るとアカシアや栃の花を求めて東北地方に転地するという。

昭和20年、父・一二三多作さんが青森で養蜂修業を始め、同25年に越冬のために訪れていた千葉県館山に拠点を移したのが『ひふみ養蜂園』の始まり。それが縁で今も冬の到来を前に、東北地方から60近くの養蜂業者がこの地を訪れる。温暖な地で越冬することで、元気な蜜蜂に育てるためだ。

少女の頃から養蜂家を身近に見てきた尾形さんだが、自分が後を継ぐとは思いもしなかったという。

「父が高齢で思うように動けなくなった。けれど蜂は生き物なので、放っておくわけにはいかない。ふたりの子どもを抱えて、この道に入ったのは30歳の時でした」

蜜蜂は女王蜂を中心に社会生活を営んでいること、情報伝達手段をもっていることなど、蜜蜂の素晴らしさに気づいたのは、それから10年ほどしてからである。

昭和30年代後半、6月には栃の花を求めて両親と妹の家族4人で転地養蜂のために青森へ。玲子さん(右)5歳の頃。「転地養蜂には小学校に入学するまでついて行きました。鍋釜一式を持って旅するのです」と当時を懐かしむ。

アスリートなみの朝食

“蜂屋” は重労働である。アスリートなみの体力が必要だ。その点、中学・高校とバスケットボールに打ち込んだ尾形さんは体育系女子。机の前に座っているより、体を動かしているほうが性に合っている。

「かつて毎朝カレーライスを、と語ったイチロー選手なみに、私も蜂場のある山に入る日は、朝からビーフカレーです」

そのカレーのルウには蜂蜜を入れる。カレーにチャツネを入れて味を調えるように、蜂蜜がコクを増すと同時に、まろやかに仕上げてくれるからだ。米2〜3合にも蜂蜜小さじ1杯を入れ、30分ぐらい置いてから炊く。ツヤツヤした美味しいご飯に炊き上がるという。

6月上旬、尾形さんはアスリートなみのビーフカレーの朝食を摂り、アカシアの花を求めて、秋田へと旅立っていった。

蜜蜂が自然界から集める恵みを味わい、知り、体験する

『ひふみ養蜂園』では20か所ほどの山の蜂場で、800〜1000群(箱)の蜜蜂を飼っている。1群に平均2万匹ぐらい棲むが、1匹の蜜蜂が一生で得る蜂蜜の量はティースプーン1杯ほどだ。

「今、国産蜂蜜の国内流通量は5%ぐらい。養蜂園と謳いながら蜂を飼わず、安価な外国産蜂蜜を販売するところもなくはありません」

その国産の純粋蜂蜜をもっと知ってほしいと、7年前に『蜂の駅カフェ123(ひふみ)』をオープンした。ここでは純粋蜂蜜を使った、体に優しい料理が楽しめる。

『蜂の駅 カフェ123(ひふみ)』で尾形玲子さんと、料理担当の高橋時子さん。
『蜂の駅 カフェ123(ひふみ)』
屋内席の他にテラス席もあり、庭の緑を愛でながら蜂蜜料理が楽しめる。
千葉県館山市八幡515
電話:0470・23・5348(カフェ専用)
営業時間:11時〜16時(最終注文15時30分)
定休日:月曜、水曜(祝日を除く)

蜜蜂が自然界から集めてくるものは蜂蜜だけではない。ローヤルゼリーは一口でいえば女王蜂の特別食。若い働き蜂が分泌する粘液で、人間にも更年期症状などに効果があるという。プロポリスは蜜蜂が集めてくる植物の樹脂のこと。殺菌力があり、天然の抗生物質の役割が期待される。その他、蜜蜂が作り出す天然の蠟でできた“蜜蠟ラップ”の作り方教室もある。

昨今の環境の変化は蜜蜂が教えてくれる。蜜蜂が元気に育つ環境はまた、人間をも健すこやかにしてくれるという。

「蜂蜜屋さんのフレンチトースト」(1200円)は蜂蜜ジェラート、蜂蜜だけで煮込んだジャム、蜂蜜だけで煮込んだ季節の果物のコンポート、自家製枇杷の葉茶など。フレンチトーストに蜂蜜をかけて食す。
「蜜蜂ソフト」(500円)は一番の人気で、運ばれてからスタッフがピッチャーで菜の花純粋蜂蜜をかけてくれる。その他、蜂蜜ロールケーキなどもある。

※この記事は『サライ』本誌2022年9月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 (取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆)

 

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