更年期は、女性ホルモンが減り続けることで自律神経のバランスが崩れていき、様々な症状に悩まされる時期。家族ですら理解しがたい痛みや不調に悩む女性たちが、今日も「鍼灸師やまざきあつこ」の元を訪れています。“自律神経失調症の女性たちの駆け込み寺”と呼ばれる当院の院長、やまざきあつこさんは自身が「たいていいつも、どっかが痛い」と悩む、自称“不調を感じやすい女”。だから、患者たちの痛みや辛さは、他人事ではありません。
28年間で7万人を診てきたやまざきさんは、最近、あることに気付きました。不調を感じやすい女には、体だけではなく、心の“クセ”も関係しているのでは? そして、まじめで気遣いができる女性ほど、がんばり時と休み時の自分に合ったリズムを見つけられず、苦しんでいるのでは? と。やまざきさんは、そのクセ直しの方法を、著書『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』にまとめました。
実際に施術した患者さんとのやり取りの事例を、ここからいくつか紹介していきましょう。
あなたを悩ますその痛みが、少しでも、和らぎますように。
文/やまざきあつこ、鳥居りんこ
「先生、私、なんで、こんなに何も出来ない体になっちゃったのかな?」
40歳で出産を経験した愛子さん(43歳)は、持ち前の「努力と根性」を武器に、様々な人生の試練を乗り越えてきた人で、体力にも自信があったそうです。
はじめての育児は夜泣きとの戦いだったようですが、赤ちゃんのことが心配で、寝ずのお世話もなんのその! 愛子さん曰く「3日寝なくても大丈夫だなんて、私ってスーパーマン!?」と思えるほどにがんばっていたようです。
そんなある日のこと、前触れもなく事件は起きました。愛子さんは、膝から崩れ落ちるかのように、その場にへたりこんで動けなくなったそうです。その後、症状は悪化。 当然、愛子さんはあらゆる病院を訪ねますが「疾患はない」との診断。心療内科で抗うつ薬や睡眠薬を処方され服用しますが、飲んでも飲んでも快方には向かわず、1日中、ボーッとする毎日を過ごしていたようです。
当院とのご縁が繋がったのは、その症状に見舞われて1年が経過した頃でした。
当初、愛子さんは「自分が情けない」と言っては、よく泣いていました。
「ウチのダンナは子どものめんどうもよく見てくれるし、私のことも大事にしてくれるいい人です。こんなに良くしてくれる人はいない! ってほどだから、余計に申し訳なくて……。先生、私、なんで、こんなに何も出来ない体になっちゃったのかな?(涙)」
がんばり屋さんって、人のために動ける素晴らしい人ですが、それが自分でも自然過ぎるせいか、自覚がないまま、結果、がんばり過ぎに気が付かないことが多いのです。
「人間は、疲れを溜めたら病気になる」
「働き過ぎたり、寝不足になると、動けなくなる」
こんなにシンプルなことなのに、がんばり屋さんになればなるほど、疲労に対する警戒心が薄くなる傾向があるのは困ったことです。
疲労そのものも、単純な疲れから来るフィジカル的なものと、性格から来るもの、もしくはその両方が複雑に絡み合っての症状勃発なのですが、疲れって実は怖いんです。
がんばる時に活躍してくれるホルモンであるエンドルフィンとドーパミン。脳内麻薬とも呼ばれるエンドルフィンの効果でランナーズハイならぬワーカーズハイを続けていては、体は壊れます。緊張や興奮、不安や恐怖で分泌される「ドキドキしちゃう」ホルモンのアドレナリンも、出っぱなしだと、ある日、突然、愛子さんのようにガクッとなっちゃう……。
適当・適度・ほどほど・良(い)い加減で
真面目な女性に多いのですが、優秀ですから物事を成し得る実力がおありです。それ自体は自信を持つべき、誇らしい特性です。恐らく、これまでの人生の中でも、自分が大切に思っている物事と「テキトー&イイ加減」に向き合うなんてことはしてこなかったはず。故に、「出来ない」「やれない」という現実にショックを受けてしまうんです。「やりたい」「やれるはず」という気持ちがあるだけに、余計、辛いですよね。けれども、強制的にストップがかかったならば、それは「肩の力を抜きましょう」という「天からの思し召し」。
人間にはスーパーマンのようにがんばらなければならない瞬間もあるでしょう。でもね、それは「ここ一番」の時だけで十分です。
この対策として、私がおすすめしたいのは「ててほい」の法則。「適当・適度・ほどほど・良(い)い加減」という意味の私の造語です。ほど良く、丁度いいくらいに、度が過ぎない程度に、いい塩梅(あんばい)で、気負うことなくラクに構えればいい、という意味になります。
まずは、緊張でこわばった体をほぐすこと。そして、同時に頑なになっていた思考を緩めることで、活力が快復していきますからね。
自分の体力を含めた物事の「良(い)い加減」を見極めるのは難しいことですが、その適量を日々、加減しながら、最後は「もう、いっか!? テキトーで!」くらいの「ほどほど」で1日を終われるといいですよね。
愛子さんも「ててほい効果」でだいぶ、元気になりました。
お年頃である私たちは、体と相談しながら、時に「もう若くないさ」と「自分に言い訳」すればいいんです。(byユーミン『「いちご白書」をもう一度』)
目標はそう、秋桜(コスモス)。折れそうで、折れない花になって、私たち、楽しく生きていきましょう。
イラスト/渡邉杏奈(MONONOKE Inc)
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『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』
やまざきあつこ 著
(小学館)
やまざきあつこ
鍼灸師。1963年生まれ。鍼灸師。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来28年間、7万人の治療実績を持つ。1997年から2000年まで、テニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。ほかにプロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などプロアスリートの治療にも関わる。自律神経失調症の施術には定評がある。