更年期は、女性ホルモンが減り続けることで自律神経のバランスが崩れていき、様々な症状に悩まされる時期。家族ですら理解しがたい痛みや不調に悩む女性たちが、今日も「鍼灸師やまざきあつこ」の元を訪れています。“自律神経失調症の女性たちの駆け込み寺”と呼ばれる当院の院長、やまざきあつこさんは自身が「たいていいつも、どっかが痛い」と悩む、自称“不調を感じやすい女”。だから、患者たちの痛みや辛さは、他人事ではありません。

28年間で7万人を診てきたやまざきさんは、最近、あることに気付きました。不調を感じやすい女には、体だけではなく、心の“クセ”も関係しているのでは? そして、まじめで気遣いができる女性ほど、がんばり時と休み時の自分に合ったリズムを見つけられず、苦しんでいるのでは? と。やまざきさんは、そのクセ直しの方法を、著書『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』にまとめました。

実際に施術した患者さんとのやり取りの事例を、ここからいくつか紹介していきましょう。
あなたを悩ますその痛みが、少しでも、和らぎますように。

文/やまざきあつこ、鳥居りんこ

突発性難聴の鍼治療中に思わず漏れた本音

美紀さん(当時48歳)が当院に来られたのは、数年前の寒の戻りの頃でした。

彼女は男社会と言われる会社で紅一点の管理職。東に接待あれば断らず、西にゴルフ大会あれば幹事として立候補。「美紀さんに任せておけば安心」「美紀さんがいるなら間違いない」との評価は得つつも、プライベートはほぼないというような日常を長年、送ってきて、ようやく手にした地位だったそうです。

しかし、初の女性管理職となったあたりから、調子が狂い始めます。

「先生、めまいが酷くて、メニエールを疑ったんですが、お医者様は違うと……。気にしないようにと言われたんですが、どうにも気になる」というのが最初の訴えでした。

「休みはほとんどない」という暮らしぶりでしたので、「もう少しセーブを」とアドバイスをしていたのですが、当時は聞く耳を持っていただけませんでした。

「大丈夫です!このプロジェクトは気合い入れてがんばらないと!」
「ぶっちゃけ、私以外には、これをやれる人間がいないんです!」

施術室での会話も「仕事、仕事、仕事!」で、めまいの症状が少し良くなってきたあたりで「多忙」を理由に、お見えにならなくなりました。

久しぶりに来られたのは、世界中がパンデミックに覆われ出した頃です。ある朝、突然、耳が聴こえなくなったというのです。突発性難聴でした。

実は、突発性難聴と鍼(はり)の相性はとても良いので、「あれ?」と思ったら、すぐに鍼灸院に駆け込むことをおすすめしますが、美紀さんはそういう経緯で、再び訪ねてくださったのです。突発性難聴の患者さんは治っていく過程で同じようなことをおっしゃいます。

「あれ? なんか体全体から音が響いている!?」

普段、人間は耳で音を聴いていると思いがちです。もちろん、聴覚という意味では、その器官は耳に集約されているのですが、実は体全体で音を受け止めているのです。それ故、「(耳で)聴こえる!」という実感の前に「(体で音を)感じる!」と表現する患者さんは多いのです。

体の器官は単独で存在しているわけではなく、すべてが繋がっているので、当然と言えば当然なのですが、意外とこのことは忘れられがちです。

美紀さんも体をパーツごとに分けて「頭」「耳」とそこだけの治療を要求していたのですが、人間の体は頭だけを取り外して治療する造りにはなっていません。やはり全体を診ていかないと、その部分も本当の意味では良くはなりません。やがて、治療を進めるようになった美紀さんに、ある変化が起こりました。

愚痴すらも、決して洩らさなかった美紀さんが、こう言われたんですね。

「先生、実は会社の業績が悪化して、まさかの自分がリストラ候補です。結局、定年を待たずにお払い箱……。会社は私の能力を買ってくれてたわけじゃなく、使い捨ての駒だったってオチです……」

そして、長い沈黙のあと、涙声で、こう言われました。

「先生、私……、どうなっちゃうんでしょう……?」

前に走るばかりが人生じゃない

それから、美紀さんは堰を切ったように、ずっと不安だったこと、自信なんか1ミリもなかったこと、いつも焦っていたこと、なんでもネガティブに捉える性格に疲れ果てていること、でも、そんな自分を誰にも知られたくなかったこと……そんなことを涙まじりに教えてくれました。

人間って、基本、ネガティブですよね。みんな、一皮めくったら不安でいっぱいです。実はこれ、人間の本能なんだとか。危険信号を逃さずキャッチしないと生き延びることができなかった私たちの祖先が得た知恵、というわけですが、そのために私たちは「不安」や「恐れ」といった感情といつも隣り合わせなんです。

そこで私は思うんです、あえて「サッサと降参しちゃえ!」って。

だって、本能と戦っても負けるから。ネガティブな自分に嫌気がさしたら、開き直ればいいんです。「一生懸命やったけど無理! もう戦わない!」と、戦線離脱。大丈夫、そこには別の景色が広がっているはずだから。

施術室の窓を開けると空が見えます。ある時、美紀さんが「雲ってドンドン形が変わる……」とつぶやきました。

みんな、少しずつ色んなものが足らなくて、不安になって、一歩も進めなくなる日もあります。でも、私はそれでいいと思います。いつもいつも、前に走るばかりが人生じゃないから。

それから1年、美紀さんの症状はすっかり改善し、なんと今は同じ会社の別部署で活躍中。リストラは噂だけの取り越し苦労だったようです。

「先生、最近、会社のみんなから、雰囲気が柔らかくなったって言われるんです。私、そんなにピリついていましたか(笑)。やっぱり女には、開き直りと休息が大事! ですね。あ、これって先生の受け売りか(笑)」

空にはかすみ雲が……。明日は雨かもしれませんが、それもまた良し、です。そう、不安な時こそ、ボーッとしながら雲を見ましょうよ。

イラスト/渡邉杏奈(MONONOKE Inc)

* * *

『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』
 やまざきあつこ 著
(小学館)

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やまざきあつこ
鍼灸師。1963年生まれ。鍼灸師。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来28年間、7万人の治療実績を持つ。1997年から2000年まで、テニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。ほかにプロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などプロアスリートの治療にも関わる。自律神経失調症の施術には定評がある。


 

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