文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】ストレスが原因なのか、便秘になることが増えてきた人は、オリーブオイルをスプーン1杯だけ飲んでみる。
男女の寿命差は副交感神経が原因?
私の外来には、便秘で悩む患者さんが多くやってきます。世間的には、便秘で苦しむのは、女性のほうが多いと思われがちですが、決してそんなことはありません。むしろ、男性の高齢者のほうが、苦しんでいる人が多いという印象です。
たかが便秘、と思われるかもしれませんが、実は便秘が改善されると、冷え性が改善されたり、頭痛がしなくなったり、あるいは活力が湧いてくるようになったという患者さんが多いのです。
便秘の原因は腸にあります。腸内環境の悪化が、便秘に繋がっているわけです。腸は、血液を送り出す役割を担っていますので、腸内環境が悪化していると血流も滞り、全身に影響を与えてしまうのです。
現在、便秘でない方も、他人事ではありません。
歳をとると、副交感神経が低下していくのですが、このことにより、便秘になりやすくなるのです。
以前、「男女年代別の自律神経測定データ」を私たち順天堂大学の研究チームで計測したことがあります。その結果、「交感神経」に関しては、男女差も、加齢による変化も認められませんでした。
ところが、驚いたことに、「副交感神経」は、加齢とともに下降するだけでなく、男性は30歳を過ぎたあたりで、女性は40歳を過ぎたあたりで、ガクッと落ちることがわかったのです。また、この年齢に差し掛かると、体力も急激に低下することがわかりました。副交感神経の低下=体力の低下、だったのです。
余談ですが、日本人の平均寿命は2018年現在、女性が87・32歳、男性が81・25歳です。その差は約6歳。副交感神経の低下する年齢の男女差が、この寿命差に表れているのではないかと、私は考えています。
さて、この副交感神経の急激な低下から考えると、それまで便秘でなかった男性も、30歳を過ぎたあたりから徐々に、便秘になる方が増えていくと考えられます。つまり便秘は、万人の悩みなのです。
健康にいい油、悪い油
では便秘を解消するにはどうしたらいいか。
簡単な方法が2つあります。
ひとつめの方法は、「オリーブオイル」です。
油は、カロリーが高いという悪いイメージがあり、ダイエットのために油を控えるという人も増えていますが、私は、その考えに反対です。腸内環境を整えるためには、上質な油はとったほうがいいと考えています。
なぜなら、油脂というのは、便の潤滑油になってくれるからです。中でもお勧めは、酸化されにくいオレイン酸をたっぷり含んだ、オリーブオイルや亜麻仁油です。
これらは、便の潤滑油になって便秘を防いでくれるだけでなく、ポリフェノールなどの抗酸化物質も豊富に含んでいます。それが悪玉コレステロールを減少させ、細胞の老化を防いでくれると言われています。また、ポリフェノールは活性酸素などの有害物質を無害な物質に変える作用があります。ゆえに、動脈硬化など生活習慣病の予防に役立つと言われています。
目安は、朝食の際に、「スプーン1杯のオリーブオイル」。
朝は代謝がいいので、スプーン1杯のオリーブオイル程度のカロリーは気になりません。
ただし、油ならなんでもいいわけではありません。マーガリンやショートニング、加工油脂に含まれているトランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やしてしまいます。
空気に長く触れたり、加熱されて酸化したりした油脂も、体内で過酸化脂質に変わり、やはり悪玉コレステロールを増やしてしまいます。悪玉コレステロールが増えれば、腸内環境は悪化し、自律神経の働きは乱れてしまいます。
腸内環境も「コップ1杯の水」で改善
もうひとつは、ダイエットのところでもお勧めした「朝の目覚めのコップ1杯の水」です。水を飲むと、胃結腸反射が起き、それによって腸が蠕動運動を始めるので、自然な便意が誘発されるのです。
腸管が作った栄養豊かな血液を、約37兆個の細胞に行き渡らせるには、腸の働きが欠かせません。そして、血流の良し悪しを決定づけるのは、腸の蠕動運動なのです。腸の動きが悪くなると、「うっ滞」が生じます。「うっ滞」とは、腸の中の流れが悪い状態です。腸の動きが悪いと、血の巡りが悪くなり、全身に悪影響を及ぼしてしまうのです。
つまり、「朝の目覚めのコップ1杯の水」は、便秘を解消するだけでなく、腸の働きを良くし、それが全身の血流をも良くするのです。
腸内環境が良ければ、全身の調子が良くなります。逆に腸内環境が悪化すれば、負のスパイラルに落ち込みます。
では腸内環境を良くするには?
それが、「朝の目覚めのコップ1杯の水」なのです。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。