大根は様々な効能から「食べる万能薬」ともいわれる

長生きをすれば、「日々新しい知識を得ることができ、今までできなかったことも実現できる」

貝原益軒(かいばら・えきけん、1630~1714)は江戸時代の儒学者で医者である。筑前(福岡)の黒田藩士の家に生まれ、京都で朱子学、本草学などを学んだ。40代の頃より執筆活動に入り、医学書、教育書、思想書など多くの著作を残し、中でも平易な文体で長生きするための様々な健康法を説いた『養生訓』は特に有名である。 

益軒が『養生訓』全8巻を完成させたのは、亡くなる前年の84歳のとき。彼が養生を勧める根拠は明快だ。「人間には天命があり、身体を大切にせずに自ら天命を縮めることは生命を与えてくれた父母に対する最大の不孝」という。

そして長生きをすれば、「日々新しい知識を得ることができ、今までできなかったことも実現できる」と説く。

大根は、野菜の中でもっとも上等で常に食べるのがよい

長寿の秘訣は食欲、色欲、睡眠を適度に抑えることがもっとも肝要で、その理由をこと細かに論じている。飲食については2巻を割いて詳述しているが、益軒が「野菜の中でもっとも上等で常に食べるのがよい」とすすめているのが大根である。

 大根には、でんぷんの消化酵素である「ジアスターゼ」が多く含まれ、胃酸過多、胃もたれ、胸やけなどに効果があるといわれる。

また、ジアスターゼには焼き物の料理の焦げた部分に含まれる発癌物質の解消や、高い解毒作用もあるという。さんまの塩焼きに大根おろしは、理に適った食べ方なのである。
さらに、大根の辛味成分である「アリル化合物」にも、胃液の分泌を高めて消化を促進する働きや、せき止め、炎症を抑える殺菌作用などが認められている。大根はまさに「食べる万能薬」ともいえる食材である。

 ちなみに、芝居の下手な役者「大根役者」の言葉の由来には諸説あるが、そのひとつが、大根を食べても滅多に食あたりしないことに「当たらない役者」をかけたという説である。

文/内田和浩

 

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