文 /⻆谷建耀知

外出できない、人と会えない。

そんな自粛生活の中で不安視されているのが、認知機能の悪化と認知症です。

私が代表を務める株式会社わかさ生活では、医師や大学教授といった専門家と連携し、脳や目の健康維持に関する研究を行ってきました。

今回も引き続き『長生きでも脳が老けない人の習慣』から、身近な人が認知症になったときの対応について解説します。

つい幼稚言葉を使ってしまうのはマズい?

認知症の方と接していると、噛んで含めるように、丁寧に伝えようとするあまり、小さな子どもを相手にするような言葉遣いになることがあると思います。

しかし幼稚言葉は、できれば使うのを避けたほうがよいでしょう。

どんなに認知機能が衰えても、「よくできたねえ」とか、「おりこうさんだねえ」などと子どもあつかいされるのは、本人にとって気持ちのいいことではありません。

声をかけているほうに悪気はなくても、言われた側は見下されているように感じたり、バカにされていると思ったり、腹が立ったり、悲しい気持ちになったりします。

認知症が進行してひとりでできないことが増えてくると、家族や周囲の人は「何も理解できていない」と思ってしまいがちですが、大きな誤解です。すべての物事を理解できなくなっているわけではないし、当たり前の感情もあります。

何より忘れてはいけないのは、高齢者は自分よりたくさんの豊かな経験をしてきた人生の先輩であることです。

子どもあつかいするのではなく、最低限の敬意をもって接するようにしましょう。

子ども向けの問題集をやらせるのは、いいの?

認知症の方の羞恥心やプライドを傷つけてしまう行為のひとつが、小学生用の問題集を渡して解かせること。渡している側は、認知機能が少しでも戻らないかという思いですが、その思いは渡された本人に届かないどころか、「バカにされている」と感じさせてしまうこともあります。

認知機能が低下しているといっても、その問題集のレベルが子ども用であることや、自分が大人であることはわかっているのです。

本人が楽しんでやれるのなら、もちろんまったく問題ありません。でも本人が嫌がることをやらせるのはストレスになるだけです。

脳に刺激を与えるために小学生の問題集を解かせたいなら、自分もしくは、孫がいるなら孫と一緒に遊びでやってみるというスタンスが必要です。

ただし、解けなかったからといって叱ったり、バカにしたりしないように注意しましょう。

昔の趣味が認知症の進行を遅らせる

認知機能の低下を遅らせる方法として推奨されているのが、過去に楽しんでいた趣味を再開させることです。趣味による認知症予防への効果はよく知られていて、さまざまな研究や調査からも明らかにされています。

日本老年学的評価研究(JAGES) が2010 年に実施した「高齢者の趣味と認知症発症」に関する6 年間の追跡調査によると、男女ともに趣味の種類の数が多くなるほど認知症発症リスクが低くなる 、という結果が確認されています。

テニス、ゴルフ、水泳など、過去に楽しんでいたスポーツでもいいですし、絵画、書道、編み物、塗り絵、折り紙、囲碁・将棋など、何でもよいので本人が好きだった趣味を再開させてあげましょう。

認知症の親に昔の趣味を勧めてみたら、家族も驚くほどの集中力で取り組み、認知症の症状が緩和されたというケースは珍しい話ではありません。

カラオケや合唱、楽器の演奏、あるいは音楽を聴くことも、脳の刺激になります。

本人が昔好きだった思い出の曲をかけてみたり、一緒に歌ってみたりするのもいいでしょう。

趣味には、楽しみをつくり笑顔を生む効果もあります。

認知機能が衰える前の自分を思い出すことで自信を取り戻し、満足感や自己肯定感も高まります。

もちろん、本人が嫌がるようなことを無理にさせる必要はありません。

大切なのは、本人が興味を持ち楽しいと思えることを続けることです。

趣味を再開することが本人の喜びや生きがいになり、表情も明るくイキイキとして日常生活にも意欲的になれば、介護する家族にとって、これほどうれしいことはありません。

本人に認知症だと自覚させたほうがいい?

認知症の方の家族が、「うちのお母さん、最近時間がわからなくなっちゃって」とか、「お父さんがご飯食べたのを忘れて何度も食べたいって言うから困ってるんです」などと、本人が聞いている目の前で大きな声で話すことがあります。

もし、自分がそのお父さんやお母さんの立場だったらどう思うでしょうか。

仮に事実だとしても、他人に話をされているのを聞いたら嫌な気分になりますよね。

認知機能が衰えると、何か言われても反応するまでに時間がかかったり、言葉でうまく表現できなかったりするので、「言ってもわからない」「どうせ理解していない」と誤解されやすいのですが、ゆっくり時間をかければ物事を理解したり、相手の表情や態度から雰囲気を察したりすることもできます。

つまり、認知症だからといって「何もわからない人」ではないということです。

ですから相手の気持ちを尊重し、心に寄り添った対応を心がけましょう。

認知症の人の「ごめんね」は、どう返せばいい?

認知症の方が、急に家族やまわりの人に「ごめんね」「こんなこともできなくなっちゃって……」と言い始めることがあります。

「ごめんね」と言われると、「認知機能が衰えて、いろんなところで面倒かけてごめんね、と謝っているのかな」と思ってしまいます。そんな心情を察すると、謝られるほうもとても悲しいし、つらいですよね。

でも、少し冷静に捉えたほうがいいケースがあります。その「ごめんね」は、認知症の方によくみられる「とりつくろい」反応かもしれません。

認知障害のある人は、自分の状況がわかっていなくても上手に相手に話を合わせて、まるで憶えているかのような態度をとることがあります。特に、アルツハイマー病の人は、その場がシーンとすることを嫌がる傾向があります。

熊本大学の研究チームが、認知症の原因となる4つの病態「アルツハイマー病」「脳血管障害を有するアルツハイマー病」「レビー小体型認知症」「軽度認知機能障害(MCI) 」の患者を対象に行った調査によると、アルツハイマー病では、レビー小体型認知症の4・24倍、MCIの3・48倍の「とりつくろい」反応がみられることが明らかにされました。

「とりつくろい」反応は、認知症になった自分を少しでもよく見せようという自尊心からくる行動です。そこには間違いを指摘されて恥ずかしい思いをしたくないという心情とともに、その場の空気を壊したくないという気遣いもうかがえます。

もし「とりつくろい」反応に気づいたときは、「そうじゃないでしょ」「本当は覚えてないくせに」などと追及するのではなく、認知症特有の症状なのだということを理解してあげることが大切です。

本人の話が事実と違っていたとしても、たいした間違いでなければ大目にみて、本人が傷つかないように会話や対応に配慮してあげましょう。


⻆谷建耀知(かくたにけんいち)
株式会社わかさ生活 代表取締役社長
18歳の時、脳腫瘍の大手術を受け、命と引き換えに視野の半分を失う。自身の経験から、自分のように目で困っている人の役に立ちたいとの想いで、1998年に株式会社わかさ生活を創業。著書に『花鈴のマウンド』や『女子高生と魔法のノート』があり、現在は健康雑誌『若々』も発刊中。

[関連サイト]若々しく健康的な生活を提供するわかさ生活Webサイト
https://www.wakasa.jp/

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