新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
すべてはいつ、なにを、どう食べるか ハーバードの栄養学を日本人向けにアレンジ!
私が、抗加齢医療・予防医療の専門クリニックを開設したのは2002年。かつて私は杏林大学病院の救急救命センターの救命医として働いていました。そこに運び込まれる患者さんのなかには、明らかに乱れた生活習慣によって命を危うくしていると思われる人も多くいました。
「なぜ、ここまでひどくする前に手が打てなかったのか」
重篤な患者さんを前にして、私たち医療関係者はそう口にします。しかしながら、「では、どうすればよかったのか」について、誰も教えていないではないか。そんな問題意識があったからこそ、開業の道を選んだのです。
それ以来、のべ4000名ほどの患者さんに、免疫力をアップし、健康で長生きするためのアドバイスを行ってきました。
そのアドバイスの大半は、食事に関することで占められています。ハーバード大学の外科代謝栄養研究室に留学した際に学んだことを基礎に、現代日本人向けにアレンジし、日々、アップデートを重ねているものです。
運動、睡眠、ストレス管理や、すでに持病があればその治療なども大事なテーマですが、それもこれも、基礎に正しい食生活があってのことです。
もちろん、患者さん一人ひとりが置かれた状況により、いつ、なにを、どのように食べたらいいかという具体的内容は異なってきます。ただ、どの患者さんにも共通して伝えるポイントが2つあります。
1つが、どんな人でも積極的に食べたほうがいい、いわば「絶対食」があるということ。
もう1つが、どんな人でも知っておいたほうがいい「カラダが喜ぶ食べ方」があるということ。
本章では、これらについて順に解説していきます。「あれも、これも」ではなく、できるだけシンプルに「これだけは」というものに絞っています。
全部、取り入れる必要はありません。できそうなものから試してみてください。それだけでも、「健康資産」は着実に積み上がっていきます。
絶対食 緑の濃い野菜
水耕栽培より有機無農薬の「土の力」に期待
食事で摂るべき緑黄色野菜について、働き盛り世代の男性はまず「足りていない」と考えていいでしょう。
積極的に摂って欲しいのが、マグネシウム豊富な緑色の濃い野菜です。具体的には、ほうれん草、春菊、ブロッコリー、ケール、小松菜などです。
一方で、じゃがいもやさつまいも、かぼちゃなどは減らす方向で考えましょう。これら根菜は、野菜というよりも「糖質」という認識が必要です。
さらに言えば、良質な土で育てられた野菜がおすすめです。
上のグラフを見ていただければわかるように、最近の野菜にはマグネシウムをはじめとしたミネラルがとても少なくなっています。
1940年代に、野菜も大量生産が始まり、そこでは人工的な農薬や肥料がたくさん使われました。
それによって、早く野菜が大きくなり、人々の手元には届いたかも知れません。
しかし、土壌は化学農法によって変質し、ミネラルが大幅に失われてしまいました。
たとえば、同じ100グラムのほうれん草でも、それがどういう土で育ったかによって、含まれる栄養素が違ってきます。
有機無農薬のいい土で育ったほうれん草と同様の栄養を摂るためには、そうでないほうれん草は大量に食べなくてはなりません。そして、大量に食べれば、それだけ農薬も体に入ってしまいます。とても非効率なのです。
水耕栽培の野菜も同様です。今、工場と呼ぶにふさわしい建物内でつくられた水耕栽培の野菜がスーパーに並んでいます。
もちろん、これら栽培法にも利点はあります。
虫をつけないための農薬をほとんど使用せずに済みますし、それを食べることで最低限の栄養素や食物繊維が摂れます。
しかし、土の力がないのでミネラル分はどうしても少なくなります。こうした野菜を口にして「自分は野菜は足りている」というのは違うのです。いい土の栄養素をたっぷり吸い上げた緑の野菜を食べましょう。
絶対食 青い魚
ビタミンDに加えてEPAやタンパク質も豊富
免疫力に優れた健康体を保つには、適切なタンパク質の摂取が不可欠です。しかし、タンパク質は「肉で摂ろう」とする傾向が強いようです。
肉食が多いと、アラキドン酸という炎症を促進する脂質を増やします。体のなかで気づかないレベルの炎症が慢性的に起きていれば、それがやがてがんや認知症も含めたさまざまな病気を引き起こします。
肉はほどほどにして、代わりに魚を食べましょう。週の半分は魚を食べ、残りは鶏肉や卵、豆類でタンパク質を摂るくらいでいいのです。
ただ、マグロのような大きな回遊魚は水銀などの重金属が蓄積されていますので、多食しないほうがいいでしょう。
積極的に食べて欲しいのが、イワシ、アジ、サバなどの小ぶりな青魚です。これら青魚には、炎症を抑える効果があるEPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。
EPAは酸化しやすいため、青魚を刺身など生で食べるのが理想ですが、缶詰にも十分に残っているので、サバの水煮缶などを利用してもいいでしょう。
青い魚以外では、鮭もおすすめです。
できれば養殖物でないものを選んでください。アメリカのドクターたちは「アラスカのサーモンを食べろ」と言っています。アラスカ州は養殖を禁止しており、天然の質のいいものが出回っているからです。
青い魚や鮭には、ビタミンDもたくさん含まれています。ビタミンDが免疫力と深い関わりを有していることは、すでに述べた通りです。
肉と比べて魚は、調理が面倒だと感じている人も多いでしょう。しかし、スーパーの魚売り場では、頼めばたいてい下処理をしてくれます。
また、今は便利な下処理用の調理器具が100円ショップなどで安く買えますから、それらも活用して魚をもっと食べましょう。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。