文/小林弘幸
「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。
【小林式処方箋】ゲームをやることの意思や目的を明確にする。
「電車の中でスマホ」でもOK
スマホ依存という点では、相手がいなくても延々とできてしまうため、ゲーム依存も深刻です。ただ、必ずしもゲーム=無駄な時間と考える必要はありません。
タイムマネジメントについてアドバイスしているビジネス書などを読むと、たいてい「移動時間を有効活用せよ」と書かれています。たしかに言っていることはもっともなんですが、私はむしろ、「1分1秒たりとも無駄にできない」と思うことが強迫観念となって、ストレスを溜めてしまうのではないかと危惧しています。
スマホでのゲームを奨励しているわけではありませんが、これ自体、悪いことではありません。問題なのは、「ああ、またスマホでゲームをして、無駄な時間を過ごしてしまった」と落ち込むことなのです。後悔はストレスとなり、自律神経を乱してしまいます。
もしあなたが、「この移動の30分間は、ゲームをやってストレスを発散するんだ!」という強い意思や目的を持って没頭するなら、これほど有効な時間の使い方はありません。大事なのは「自分はこうしたい」という意思です。いわば、「移動時間にゲームをすること」を目的化してしまうのです。そうすれば、ゲームをすることで目的が達成されますので、達成感も得られ、精神的にも安定します。
同じように、「電車の中でスマホが手放せない」と嘆き続けるよりも、「移動時間にスマホでSNSのチェック&投稿を行う」とか、「スマホでネットニュースをチェックする」とか、そのように自分の行動を目的化してしまえばいいのです。
いちばん良くないのは、「何となくスマホをいじっている」という状態です。これでは何のプラスにもなりません。時間を上手に活用するために必要なのは、「移動時間に何をするか」という「目的」を明確化することなのです。
移動中ボーッとするのもいい
私の場合、移動中は「勉強の時間」と決めています。カバンの中には、移動中に読む本や論文が常に入っており、移動時間が貴重な読書タイムになっています。
移動時間に何をするかということが決まっていると、前日の準備も楽になります。おのずと持ちものが決まり、前日から準備がしっかりできますし、電車やタクシーに乗った瞬間から、時間を有効に活用することができます。
ただしこれは、「1分1秒たりとも無駄にできない」と思っているからではありません。行動を決めておくことで、「どうしよう」と悩むストレスから解放されることがわかっているから、そうしているだけです。
例えば、「移動中は、車窓からの眺めをボーッと眺める」でもいいのです。一見、無駄なようですが、本人が「ボーッとする時間」が大切だと考え、移動時間をそれに充てたのなら、それは正解なのです。
ただし、「やることがないからボーッとしていた」では、やはり「何もできなかった」とストレスを増加させるだけでしょう。ストレスを軽減するためには、休むにしろ、学ぶにしろ、遊ぶにしろ、何事も「決める」ことが大事なのです。
『不摂生でも病気にならない人の習慣』
小林弘幸 著
小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
発売中
文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。