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縁起のよい酒場巡りの楽しみ方|『開運酒場』

文/印南敦史

縁起のよい酒場巡り|『開運酒場』

『開運酒場』(いからしひろき 著、芳澤ルミ子 写真、自由国民社)の著者は、旅と酒場取材を中心に、『おとなの週末』『日刊ゲンダイ』などで執筆しているというフリーライター。撮影を担当しているのは、酒に目がない自他ともに認めるカメラマン。

そんな両者による本書は、新しい酒飲みのあり方を提案する「いままでにありそうでなかった酒場ガイド」なのだという。

神様からはご利益を、酒場からは元気をもらい、「また明日からがんばろう」と思うことこそ運気の好循環。それこそ、縁起のよい酒場巡りだというわけだ。

とはいっても、どんな酒場でもいいというわけではないのだそうだ。以下のようなポイントを備えていることこそが、開運酒場の条件だというのである。

(1)風情とオーラを感じる
(2)幸福とすら思う居心地の良さがある
(3)当然ながら酒とアテが旨い
(4)店主の顔が福福しくて拝みたくなる
(5)常連客の醸し出す雰囲気がいい
(本書「はじめに」より引用)

これらが揃った酒場は、もはやそれ自体がパワースポットだという考え方に基づいているということ。

「出世運」「商売運」「成功運」「勝負運」「ギャンブル運」「願掛け」「厄除け」「恋愛・家庭運」などさまざまな運に見合ったパワースポットから、それに見合った酒場を巡るエッセイ&写真集である。

たとえば冒頭「出世運」の項において、汐留で取材仕事を終えた著者は仕事の疲れを洗い流すべく「新橋飲み」を決意する。

その結果、飲屋街と一体化した「烏森神社」に迷い込んで二礼二拍手一礼。お参りを終えたあとは、出世柱のある屋台で“お清め”だ。

 烏森神社の参道の入り口にずいぶん年季の入った立ち飲みの屋台を見つけた。ボロボロののれんには、「やきとり」と「王将」の文字が交互に書かれている。よく見ると、柱は地面に固定されているから、一応店舗なのだろうが、見た目的にも情緒的にも、屋台と呼ぶのがしっくり来る。
客はサラリーマンらしき中高年男性が一人っきり。店の作りは、店主を中に囲むいわゆる「コの字」スタイルだ。「コ」の字の一辺はベンチになっていて、座ることもできるようだ。
黙々と立ち働く店主は、歳こそ重ねていそうだが、体格はよく、捩り鉢巻きで引き締まった顔は威厳十分。まるで不動明王。ちょっと怖い。だけど、こうやって出会ったのも何かの縁。意を決して、のれんをくぐる。(本書16ページより引用)

どうだろう、情景が浮かんでくるようではないか。そして、その場に居合わせたような気分にもなり、おのずと酒場が恋しくなってくる。

著者は40歳を過ぎたころから、なにかに祈りたい気持ちが芽生え、そして見知らぬ町の、見知らぬ酒場をひとりで楽しめるようになったのだという。そして素直な気持ちで酒場に身を置き、店内や店主、お客さんの様子を眺めていたら、あることに気づいたのだそうだ。

「酒場は神社仏閣と似ている」と。(本書「おわりに」より引用)

店内にはお札やだるま、招き猫や熊手などの縁起物があり、なかには神棚があるところも。そもそも、お神酒(みき)ということばがあるとおり、酒と神事の縁は深い。そして繁盛している居酒屋の店主は、どことなくオーラが漂ってもいる。

客は、そうした祈りの場や教祖のもとに集う信者のように見えたというのである。とくに下町の古くから続くモツ焼き屋のカウンターに横並びで座り、黙々と杯を傾ける客たちの姿は、祈りを捧げる敬虔な信者のようだとも。

 では、皆(自分もですが)、何を酒場に祈りに来るのか?
それは、「より良い明日」なんじゃないでしょうか。
大金持ちになって月に行こうなんて大それたことを祈っている人は、大衆酒場にはいないでしょう(いや、逆にいるか。大風呂敷をすぐ広げる人は多い。そうじゃなくて、せめて明日は今日より良い日であってほしい、そんな思いで(無意識にせよ)飲んでいる人がほとんどなんじゃないかと思うのです。

そう考えると、やっぱり神社仏閣にお参りするのに似ているな、と思うわけです。

毎夕、地元の酒場に足を運ぶご常連たちは、毎朝、地元の氏神様への参拝を欠かさない氏子さんたちと同じ。見知らぬ町の酒場巡りは、さしずめ御朱印集めでしょうか。(本書「おわりに」より引用)

若干こじつけっぽい気もするが、たしかにそう考えてみれば、酒場によりありがたみを感じることができそうだ。また、著者のような視点で店内を眺めてみれば、酒の味が引き立つなにかを見つけることができるかもしれない。

『開運酒場』

いからしひろき 著、芳澤ルミ子 写真

自由国民社

定価 1,404 円(本体 1,300 円 + 税)

2019年4月発売

開運酒場

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。

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