今から3年半ほど前、サライのWebサイトに「蕎麦を待つ間に」という連載を書かせていただいた。幸いにも読者の皆さんには、ご好評をいただき、二十数回連載したところで、一旦、お休みをいただいた。
そして今回再び、新生『サライ.jp』という場をお借りして、皆さんに再び、お会いすることができた。古巣に帰ってきたような、安堵感を覚えている(「蕎麦を待つ間に」もバックナンバーという形で掲載されているのであわせてご覧いただければと思う)。
「蕎麦屋の歩き方」というタイトルは、皆さんと一緒に蕎麦のことを勉強しながら、あちこちのおいしい蕎麦屋さんを訪ねてみましょうというほどの気持ちから付けたもの。またしばらくの間、片山流の蕎麦屋歩きに、どうぞお付き合いいただきたい。
個性的な蕎麦屋は、秘伝を持っているものだ。独自の工夫を重ね、ようやく編み出した製法が、その店の個性的な蕎麦を作り出している。
それは、ほかにはない特別な技術なので、他人には教えない。卓越した蕎麦屋は、必ず秘伝を持っているといっても過言ではない。
秘伝の技は、資産を生み出す源であり、名声の土台であり、使い古された言葉だが、努力の結晶だ。秘伝は、企業でいえば、厳重に管理された企業秘密に相当するもので、名人が秘伝を他人に教えるのは、クレジットカードのIDとパスワードを公開すること以上に、大変な出来事だといえる。
さて、僕はもう30年以上も、取材の仕事をしていて、名人、達人の仕事を至近距離で拝見してきた。そのうえわからないことは根掘り葉掘り質問して、秘伝の壺の底まで、ひっくり返して見せていただいている。
だから、普通の人は知ることができない、いろいろな秘密を見ているが、そういう場で見たことは、決して口外してはいけないことも承知している。名人たちの秘伝は、しゃべるつもりは、ない。
しかし、ここまで書いたら読者の方々は、「いったい、その秘伝とは、どういうものなのだろう」と、知りたくてウズウズしてくることだろう。もったいぶっているわけではないが、このままでは話が収まらないので、国外だが、秘伝のひとつを、ご紹介しよう。