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【夕刊サライ/コウケンテツ】「世代へ受け継ぐ味」郷土色溢れるお雑煮は、伝えていきたい究極の和食(コウケンテツの料理コラム 最終回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。金曜日は「美味・料理」をテーマに、コウケンテツさんが執筆します。

文・写真/コウケンテツ(料理家)

伝えるには、やはり一緒の時間を共有するのが大事。週に一度、いや月に一度でも!

この連載もついに最終回となってしまいましたが、「世代へ受け継ぐ味」というテーマの締めくくりとして今回、僕が伝えたいのは「お節料理とお雑煮」について。ちょっと季節外れかもしれませんが、「食の伝統文化を伝えていく」ということを考えるにあたって、いちばんわかりやすい話題なのではないかと思います。

なんといっても、「お節問題」です。若い人たちの多くはもうつくりませんし、実を言うと僕もつくりません。上の世代の方々も、デパートなどで購入することが多くなっているのではないでしょうか。重箱に詰めたお節料理は、もう時代が必要としなくなってしまいました。もともと長期保存させる目的でつくられていたものなので、調理法も味つけも、現代の食生活にマッチしなくなってしまったことで、お節をつくる文化が必然的に廃れていきつつあるのかなと思います。だから、今こそお正月の食卓を考え直さなくちゃいけない。

お節の中身が、ローストビーフだったりグラタンだったり、なんだが不思議なものになっていっていることにも違和感があります。それよりもむしろ、代々その家庭でつくられてきたものを一品だけでも伝えていくほうがいい。僕自身はお節をつくらないと言いましたが、大阪に帰省したときに、近所のおばあちゃんが煮てくれる黒豆を食べるのは楽しみでした。黒豆、旨いんですよね。だったらもう、それだけで充分。

お節の場合、全国どこの地域でも、多少の違いこそあれ、中身はそこまで大きく変わりませんよね。それに対して、お雑煮は地域性がはっきりしていて、実に面白い。醤油ベースなのか、味噌なのか、塩なのか。餅も、四角いのか、丸いのか。焼くのか、焼かないのか。さらに出汁や具材も千差万別、郷土の特色が凝縮されています。だから、お雑煮の話になると、みんな熱いバトルを繰り広げますし、結局は自分の故郷の味がいちばん。でも、お節については、そこまでみんな語りませんよね。お雑煮って、日本で最もしっかり受け継がれている伝統的な和食なんじゃないでしょうか。だからこそ僕は常々、「お雑煮は、絶対に伝えていきましょう!」と言っているんです。

これまで僕は、九州で取材をさせていただく機会が多くて、とても思い入れがある地域です。九州各地のお雑煮は本当に面白くて、土地ごとに出汁も具材もまったく違うということに驚かされました。たとえば、福岡でも博多の人は「かつお菜がないとお雑煮じゃない」って言うんです。かつお菜は高菜の仲間の葉野菜で、地元ではお正月が近づくと出回ります。具材はほかにブリを入れるのですが、これがもうおいしくて、すっかり僕は気に入ってしまいました。熊本や鹿児島の不知火海沿岸では、干した海老で出汁をとります。根菜類を加えて仕立てたお雑煮は深みのある味わいなんです。

ちなみに、僕の妻は三重県出身で、彼女の実家は赤味噌を使ったお雑煮です。しかも大根と餅しか入っていないというシンプルさ。どうやら三重というよりは、妻のおばあちゃんの味のようです。最初は度肝を抜かれましたが、しみじみとした味わいで、毎年帰省するたびに舌がなじんでいきました。これは、我が家に受け継いでいきたい味です。

奥さんと旦那さんの出身地を掛け合わせて、その家庭のオリジナルのお雑煮になることも多いようです。でも、そのお雑煮には、しっかりルーツが詰まってる。いろいろな食文化が伝わって、混ざり合ってその土地の味になるというのも、とてもアジアらしくていいですよね。

ところで、僕が母から伝授してもらったのは、韓国のお雑煮。トックという韓国のお餅を入れて、上にはナムルをのせます。これがもう、最高においしい! 僕は韓国人であり、関西人ですが、仕事で九州の食文化に精通するようになったら、九州人の要素も加わってきました。だからお雑煮も毎年、各地に伝わるお雑煮を代わる代わるつくっています。

お節料理は買うことができますが、お雑煮はなかなか外食では食べられない料理です。伝えていかないと廃れてしまう、究極の和食と言っていいかもしれません。だから、お正月のお雑煮は、是非つくっていただきたいと思います。できればそこに、家庭で受け継いだお節料理を一品、添えられるといいですよね。

生き方も価値観も多様になっている現代で、食の大切さは誰もが分かっているし、伝統だって文化だって、遺さなければならないと思っているはずです。それならば、正しいことだけでなく、実現可能なこと、続けていけることを考えていきたい。理想と現実のギャップに悩みながらも、僕は強くそう思っています。

文・写真/コウケンテツ(料理家)
1974年、大阪生まれ。母は料理家の李映林。旬の素材を生かした簡単で健康的な料理を提案する。テレビや雑誌、講演会など多方面で活躍中。3人の子どもを持つ父親でもあり、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通じたコミュニケーションを広げる活動にも力を入れている。『李映林、コウ静子、コウケンテツ いつものかぞくごはん』(小学館)、『コウケンテツのおやつめし』シリーズ(クレヨンハウス)など著書多数。

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