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ビル・エヴァンスが3人いる!? 「自己との対話」という挑戦【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道48】

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夕刊サライ

2000年も受け継がれてきた、フィリピンの棚田(後編)(コウケンテツの料理コラム 第9回)

夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。金曜日は「美味・料理」をテーマに、コウケンテツさんが執筆します。

文・写真/コウケンテツ(料理家)

棚田の端に立って棚田を紹介しております。足を滑らせると崖下に真っ逆さまに落ちてしまうので、顔が引きつっています……

「フィリピンで教わってきた、とっておきの最高に旨い料理をつくったる!」

ロケから帰国して、友人たちとキャンプに行ったときのこと。僕ははりきって、白菜とキャベツのラード炒めをみんなに食べてもらおうと、腕をまくりました。

イフガオ族の家族がやっていたように、野菜を切るときはまな板を使わず、手に持ってちょっとずつ端から削ぐようにして細切りに。大量の白菜とキャベツを切り終わったら鍋に投入して、ラードでじっくり炒めていきます。薪の遠火でじわーっと30分くらいかけて、じっくりじっくり。そうすると、水分が上がってくるので、それを汁ごとかけて食べるのがたまらないんです。

「最高に旨いから食べてみてよ!」と、できあがった料理を自信満々でテーブルに並べました。ところが、友人たちの反応はイマイチ。「ただの野菜炒めじゃないの?」「なんか、シナシナだね……」って。言われてみたら、あれ、たいして旨くない? 仮に野菜炒めだったとしても、シャキシャキを期待してしまうよなぁ。でも、僕が心から感動した料理であることに間違いはないはず。

何が違うんかな。あんなに毎日、3食同じものを食べても飽きなかったのに……。

改めてよく考えてみて、気づいたんです。僕は家族とご飯を食べていたということに。イフガオ族のみなさんに温かく迎え入れられて、家族の一員としてご飯を食べていたから、あんなに旨かったんだ……。僕は、家族と一緒に朝から晩まで棚田で働き、毎日台所に立って料理をつくり、子どもたちから将来の夢も聞かせてもらいました。

15歳の女の子の本音は「大学に行ってみたい。マニラの冷房のきいた場所でオフィスレディをしたい」。当然ながら彼女は、経済的に難しいということを知っています。お父さんも、娘がそう話すのを聞いていました。でも、「田んぼを売れば大学に行かせてやれるかもしれないけれど、先祖代々受け継いできたものを、絶やすわけにはいかない」と。しかも、棚田のお米は生計をたてるためにつくっているわけではなく、家族で食べる分をまかなうためのもの。それも、たったの3か月分しか収穫できません。だから、お父さんは収穫を終えると、都心へ出稼ぎに行くのだそうです。

言葉は通じないから通訳さんにも入ってもらったけれど、できる限り気持ちを伝えようと、身振り手振りを交えてたくさん話しました。だから、あのおいしいご飯は、あそこまで行かないと、味わえない味だったのだと思います。

そして、まさに究極の地産地消がそこにありました。そのときは、今ほど地産地消という言葉が浸透していませんでしたが、のちにその言葉を聞いたときに浮かんだのが、バナウエの棚田の風景でした。僕があの場所で食べたご飯は、まさにそうだった。自分が世界のどこにいて、どの季節なのか、食べてわかるもの。キャベツと白菜は、自分たちの畑でいちばんおいしい旬にとれたものだし、それを家族で育てた豚のラードで炒める。そして、苦労して収穫したお米を炊く水も、棚田と同じ山の湧水です。

土地の味がするご飯。しかもそれを、家族と一緒に食べる。それが最高の料理だ――そんなことを、初めて実感として思い知りました。

ちょうどその頃、僕は料理の仕事に携わる人間として、何ができるだろうと考えていたところでした。料理番組にたくさん出させていただく中で、自分がやっていることや、やるべきことについて、少しずつ違和感のようなものを感じるようになっていました。家庭料理っていったい、なんだろう? そんな問いに、フィリピンの家族が答えをくれたのです。

文・写真/コウケンテツ(料理家)
1974年、大阪生まれ。母は料理家の李映林。旬の素材を生かした簡単で健康的な料理を提案する。テレビや雑誌、講演会など多方面で活躍中。3人の子どもを持つ父親でもあり、親子の食育、男性の家事・育児参加、食を通じたコミュニケーションを広げる活動にも力を入れている。『李映林、コウ静子、コウケンテツ いつものかぞくごはん』(小学館)、『コウケンテツのおやつめし』シリーズ(クレヨンハウス)など著書多数。

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