北陸の蕎麦を食べる機会が急に増えた。理由は、はっきりしている。北陸新幹線が金沢まで開業したからである。以来、私は、ほぼ毎月のように北陸新幹線に乗っている。北陸への取材依頼が多くなったことと、個人的に北陸の蕎麦を食べに行きたくて、じっとしていられないからだ。
北陸新幹線の開業は、蕎麦好きの人々にとっては願ってもない出来事だ。関東の人から見れば、今まで日本列島の脊梁山脈の向こう側に隠れて、手を伸ばしにくい存在だった北陸地方の美味しい蕎麦に、わずか2時間半ほどで会いに行くことができるのだから。
越中・越前の蕎麦の美味しさは、蕎麦好きの方なら熟知している。これから折をみて、北陸の蕎麦の魅力をお伝えしていきたい。
まずは、先日、北陸新幹線で訪ねた金沢の蕎麦店『石臼挽き純手打ちそば 村田屋』の「辛味おろしそば」の写真をご覧いただこう。北陸の蕎麦の持ち味を見事に引き出した一枚である。
材料の玄蕎麦は、能登産の小粒の在来種を使っている。能登の生産者が『石臼挽き純手打ちそば 村田屋』のために栽培した玄蕎麦で、それを店の石臼で自家製粉している。
手打ちの達人である主人の村田隆仁さんが打った細切りの蕎麦は、色は白めで張りがあり、香気に富む。
能登産の在来種は本来、野性味が強い。村田さんは金沢の食文化に合わせて在来種特有の主張をあえて抑え、上品な味に仕上げている。
北陸を旅したときには、ぜひお試しあれ。
【石臼挽き純手打ちそば 村田屋】
石川県金沢市諸江町上丁307-15
TEL:076-231-6900
定休日:火曜
文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』(http://sobaweb.com/)編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)、『蕎麦屋の常識・非常識』(朝日新聞出版)などがある。