画期的な機能と構造で優れた炊飯ジャーを世に送り出してきた象印マホービン。とりわけ高い評価を得ている製品が、日本の伝統的工芸品としても知られる南部鉄器で作った広くて浅い羽釜「南部鉄器 極め羽釜」を内釜に採用した圧力IH炊飯ジャーの高級機です。

今年6月には、内ぶたを改良して沸騰時の火力を従来機の約1.3倍に高めたことで、お米のアルファ化(米に含まれる澱粉の成分を変えて粘化させること)を促進し、より大粒でふっくらと炊き上がる新製品『南部鉄器 極め羽釜』(NP-WU10)を発売。続く8月21日には、夫婦ふたり暮らしのご家庭が待ち望んでいた、同じ炊き上がりの小容量タイプ(3.5合炊き)の『南部鉄器 極め羽釜』(NP-QS06)を発売しました。

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『南部鉄器 極め羽釜(NP-QS06)』(3.5合炊き)
https://www.zojirushi.co.jp/syohin/ricecooker/npqs/

南部鉄器は岩手県の盛岡と水沢で作られた鋳物の鉄製品で、その歴史は平安時代末期にまで遡ると言われています。昭和50年には、通商産業大臣(現・経済産業大臣)による日本の「伝統的工業品」第一号のひとつに登録されました。
この南部鉄器で作られた内釜「南部鉄器 極め羽釜」の特徴は、蓄熱性が高く、最も火力が必要とされる炊き始めの沸騰時に素早く熱を伝えることができ、火力を釜内に溜め込んで激しい熱対流を起こすことで、釜全体に効率よく熱を伝えることができる点にあります。 結果、広く浅い羽釜形状と相まって、沸騰前から炊きムラを抑え、お米のアルファ化を促進し、炊きあがりがふっくらと大粒化するなど、理想的なごはんが炊けるのです。

こうした南部鉄器の利点は知られながらも、じつは炊飯ジャーの内釜に鋳込んだ鉄を使った製品は、象印マホービンの『南部鉄器 極め羽釜』シリーズしかありません(平成27年7月時点)。
その理由は、家電製品の基準に沿った仕様で作る技術と、その量産化の壁が立ちはだかっているため。中でも南部鉄器は、お湯を沸かす鉄瓶、茶道具の茶釜、すき焼きなどの料理に使う鉄鍋などで知られた伝統工芸品のひとつ。本来は鋳物師などの職人が手作業で作り込んでいくものですが、大手炊飯器メーカーの製品の中核部品として仕上げ、一定量を供給することが不可能とされてきたからです。

南部鉄器の歴史においても例を見ない、家電製品としての炊飯ジャーの内釜製造と伝統工芸の職人がなせる技の交わりは、毎日の生活に身近な「ごはんを炊く」という行為を通して結晶化される協奏曲のようなものかもしれません。
その内釜の製造現場である、岩手県奥州市水沢区の水沢鋳工所(みずさわちゅうこうしょ)を見学することができたので、ご紹介します。

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↑東北新幹線の水沢江刺駅を降りると、ここが南部鉄器の生産地であることを象徴するジャンボ鉄瓶がある。高さ4.65m、重量1.8t、容量は約6500L(湯呑茶碗にすると約7万5000杯分)で、このジャンボ鉄瓶に水を入れてお茶が飲める温度にするには、木炭が108俵(1俵15kgで1.62t)が必要なのだそうです。

水沢鋳工所は戦後間もない昭和21年1月に創業を開始しました。現在は従業員58名(2015年6月現在)の、岩手県では大手の鋳物製品製造会社です。ちなみに鋳物とは、あらかじめ作った木型(実際は砂や鉄製の型を用いるが、伝統的に木型と呼称)に約1400℃にまで熱した「湯」(溶融した鉄)を流し込んで目的の形に成形し、仕上げを行なう器物製品のこと。鉄の塊をたたいて目的の形状にする鍛造と並ぶ金属加工の代表的手法で、鉄スクラップや戻り材(製品化されない部位の鉄)などを効率よく再利用するため、循環型社会にふさわしい製法として注目されています。

これまで水沢鋳工所では、おもに鉄道用部品や船舶部品といった一般産業機械部品などを製造してきましたが、家電製品を手がけるのは初めてのことでした。
「最初に象印マホービンさんの開発担当者に声をかけてもらったのは、平成22年の年末でした」と、水沢鋳工所社長の及川勝比古さんは振り返ります。また、品質管理課長の田村直人さんは、「家電製品で求められる仕様は、コンマ数ミリといった単位。これは普通の鋳物では考えられない精度です。そのために5.5合炊き(NP-WU10)の内釜では約16kgの鋳鉄を1.8kgに、3.5合炊き(NP-QS06)では約13.5kgの鋳鉄を1.0kgまで削っていきます。その誤差はわずか±20g以内。鋳物製品では、1~1.5%の不良率が一般的ですが、4年前の1号機(NP-SS10)の初めの頃は5~6割が納品できない不良品でした」と、すさまじい努力を伺わせる数字を明かしくれました。

↑ダクタイル鋳鉄とねずみ鋳鉄の説明をする水沢鋳工所品質管理課長・田村直人さん。手前に座っているのが同社社長の及川勝比古さん。

↑ダクタイル鋳鉄とねずみ鋳鉄の説明をする水沢鋳工所品質管理課長・田村直人さん。手前に座っているのが同社社長の及川勝比古さん。

少し専門的な話になりますが、鋳物に使われる鉄(炭素を多く含んだ銑鉄)には、「ねずみ鋳鉄」(FC)と「ダクタイル鋳鉄」(FCD)に大別されます。前者は鉄を冷却するときにできる黒鉛が線状に固まるため、脆いのが欠点でした。鉄に含まれる黒鉛には強度がなく、それが線状に広く分布するため、そこに応力がかかると弱いのです。

これを改良するため誕生したのがダクタイル鋳鉄で、鋳込み(鋳型に溶融した金属を流し込むこと)を行なう直前の「湯」にマグネシウムなどの黒鉛球状化剤を添加し、黒鉛を球状化させることで作られます。ちなみにダクタイル(英語)とは、延性のある、強靭なという意味の形容詞で、ダクタイル鋳鉄は鋼鉄のように粘り強く強靭なことから、この世界では20世紀最大の発明ともいわれています。第二次大戦中の米国で誕生したダクタイル鋳鉄は、水道管の水漏れが防げるようになるなど、私たちの生活を支える重要な役割を果たしています。

ただし、このダクタイル鋳鉄は黒鉛の生成過程、つまり鉄が冷えていく過程で空洞ができやすいのが難点です。薄型設計の『南部鉄器 極め羽釜』の内釜のようにコンマミリ単位の精度が求められるような製品を作るのに不向きといわれるのは、この空洞が歩留まりを下げてしまうため。前述の田村さんの説明の説明にあった初期のころに5~6割も不良率があったというのは、そうした理由によるのです。

そこで、田村さんたちは黒鉛球状化剤の改良や製造工程の徹底した見直しなどを行ない、不良率の驚異的な低減に成功しました。南部鉄器の可能性を家電製品のような分野に広げたことが高く評価され、2013年には国が実施する「ものづくり日本大賞」の伝統技術の応用部門で経済産業省特別賞を受賞しています。
また、不良率の低減を目指した試行錯誤は、東日本大震災で被災しながらの道程だったこともあり、地元を始めとしたモノ作りの現場に関わる人たちに、「何でも生き残り、再び羽ばたく勇気」を与えたそうです。

こうした説明を受けた後、実際に工場内の見学をさせていただきました。まずは、材料ととなる銑鉄をこしき(鉄を溶かす炉)で「湯」(溶けた状態の鉄を、こう呼ぶ)にしているところからスタートです。

できた「湯」に黒鉛球状化剤であるマグネシウムなどを添加し、それを桶に移すと、工場内には西瓜くらいの大きさの火花が飛び散ります。これが終わった後、高さ1mくらいの桶に「湯」を移し、その桶から内釜の鋳型に湯を流し込んでいきます。

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↑手前が銑鉄で、中央奥に見えている丸いところが、こしき(鉄を溶かす炉)。

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↑田村さんの手のひらにあるのがマグネシウムなどの黒鉛球状化剤。この黒鉛球状化剤の配合によってダクタイル鋳鉄の出来上がりが大きく変わるのだとか。これも水沢鋳工所のノウハウのひとつ。

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↑液状になった鉄に黒鉛球状化剤を入れると、バチバチと音を立てながら火花が飛び散る。写真では伝わりにくいが、このときの工場は、もの凄い暑さになる。

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↑出来上がった湯を桶に移している様子。

↑湯が入った桶。この周囲ももの凄い暑さ。

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↑内釜の型に湯を流し込んでいく作業。

「湯」が冷えて、固まった状態の内釜は、前述のとおり5.5合炊きが約16.5kg、3.5合炊きが約13.5kgです。これを研磨剤の入った機械に入れて木型に付いた砂などを落とし、グラインダーでバリを削った後、工作機械で磨いていきます。
この過程で空洞やキズがあるものは不良品として弾かれます。なお不良品は銑鉄として溶かされて再利用されます。

この後、仕上げ工程でコンマ数ミリの精度の厚み、±20gの誤差で仕上げられ、塗装などの最終工程を経て、店頭に並ぶ製品の内釜として完成します。

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↑型から外した状態の内釜。

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↑研磨剤で大まかに磨いた内釜。

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↑グラインダーでバリを削っていく作業。

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↑キズが見つかった内釜について説明する田村さん。

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↑マジックの横線の下に薄いキズがある。

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↑工作機械で仕上げた後、ひとつひとつ重さを確かめて塗装の工程に移る。

工場見学が終了した後、『南部鉄器 極め羽釜』で炊いたごはんを試食させていただきました。象印マホービン広報部長・西野尚至さんから、「8月に発売する3.5合炊きの『南部鉄器 極め羽釜(NP-QS06)』は、内釜の厚みが1.7mmで、重量は約1.1kgです。少人数世帯、とくに美味しいごはんを毎日食べたいとの声が多い熟年世代の方々の期待に応えるため、水沢鋳工所さんを始めとした協力会社さんなどとしっかり手を携えて開発を進めてきました。工場を見学しておわかりいただいたとおり、小型化というのはもの凄い努力の固まりで、私たち広報担当者もこうした製品作りの舞台裏をしっかり伝えていきたいと強く感じました。今日ご試食いただくお米は、佐賀県の「さがびより」という一般的なもので、特別なお米でなくても『極め炊き』なら、とても美味しく炊きあがることを実感していただけると思います」 という説明があった後、ごはんを試食しました。

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写真のとおり、『南部鉄器 極め羽釜』で炊いたごはんは、粒がひとつひとつ大きく、ふっくらとしています。そして、ほどよい柔らかさがありながらも、ひと噛みごとに米の旨みがはじけていく、そんな食感を楽しむことができました。また、口に含んだ時のごはんの香りが豊かだったことも印象的でした。

現在発売されている『南部鉄器 極め羽釜』の5.5合炊き(NP-WU10)と3.5合炊き(NP-QS06)は、今回紹介しているように、内釜の製造などに手間ひまがかかっているため限られた数しか市場に出回りません。昔ながらの伝統的製法を最新の家電製品に巧みに応用するには高度な技術を要するのです。

最後に水沢鋳工所の田村さんは、「象印マホービンさんとの取り組みで、貴重な体験をさせていただいています。こうした機会をうまく活用しながら自社製品を作ることも目指していきたいですね」と、日本のモノ作りの希望になりそうな抱負を語ってくれました。

なお、南部鉄器の町・水沢には、「キューポラの館(奥州市伝統産業会館)」と呼ばれる施設があり、ここで南部鉄器の歴史や、先人たちの足跡、さまざまな南部鉄器を見学することができます。

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↑奥州市伝統産業会館 キューポラの館。奥州市水沢区羽田町駅前1-109 ☎0197-23-3333 http://www.ginga.or.jp/imono/kyupora/kyupora.htm

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↑南部鉄器の歴史や、南部鉄器の製造工程などを解説してくれた水沢鋳物工業協同組合の専務理事・後藤安彦さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水沢鋳物工業協同組合の専務理事・後藤安彦さんは、「10月4日と5日には、奥州市南部鉄器まつりがあります。ここで行なわれる即売会では、南部鉄器がお求めやすい価格になるほか、長火鉢など普段はお店に並ばない南部鉄器製品も数多く出品されますので、ぜひ足を運んでください」とのこと(詳しくはこちら)。昨今、外国人観光客が南部鉄器を多大量に購入していくことで、鉄瓶などは品薄になりつつあるそうです。

夫婦ふたり暮らしのサライ世代にもうれしい少量炊きが加わった、内釜に南部鉄器の羽釜を採用する象印マホービンの圧力IH炊飯ジャー『南部鉄器 極め羽釜』。毎日食べるお米のごはんを美味しく炊いてくれる本製品を店頭などで見かけた際は、そのひとつひとつに奥州・水沢の職人たちの高度な技術と絶え間ない努力が注ぎ込まれていることを想像し、日本の優れた工芸品にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

※象印マホービンのウェブサイトには、2011年10月に発売された『南部鉄器 極め羽釜』の開発秘話が掲載されています。
http://www.zojirushi.co.jp/corp/hiwa/14.html

 

 

 

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