■一の酒:勝沼醸造「アルガブランカ・ブリリャンテ」(山梨県)
まず最初に「鮎の一夜干し」に合わせてみたのは、山梨県勝沼町にあるワイナリー・勝沼醸造から届いた「アルガブランカ・ブリリャンテ」というスパークリングワインです。
使用されている葡萄は、日本の固有品種である白葡萄の甲州種100%。もちろん、勝沼町で栽培されたものです。
現在、山梨県には約80社ものワイナリーがあります。そのうち32社が勝沼町に集まっているのですが、多くは昔から日本の固有品種とされる葡萄「甲州」を主体にしたワインづくりを行なっています。
そんな勝沼の地に、1937年に誕生したのが「勝沼醸造」。創業から今年で80年を迎えるワイナリーを率いるのは、3代目の有賀雄二(あるが・ゆうじ)さん。いち早く世界を視野に入れたワイン造りに取り組んできた人で、日本のワインが広がりを見せる今の時代を招来した立役者のひとりです。
現在、ワイナリーの醸造責任者をつとめるのは、有賀社長の長男の裕剛(ひろたか)さん。東京農大で醸造学を修めるうち、ワイン業界とは違う、アパレルの世界に忽然と興味を引かれて飛び込んだ、という経歴の持ち主です。
結果的には、外の世界を見たことで、自身が育った勝沼醸造の存在価値にあらためて気づかされた、といいます。
かくして、裕剛さんは、志を新たに、ワインの世界へ戻ってきます。そして、4年間ほど、フランスのブルゴーニュへ渡り、銘醸ドメーヌ・シモン・ビーズで、本場のワイン造りを学びます。
故郷に帰国後、この若き醸造家は、勝沼醸造のワインづくりの伝統を守りながらも、なおセンスあふれる革新的な取り組みを続けています。
今回挙げた『アルガブランカ・ブリリャンテ』は、シャンパーニュと同じ瓶内2次発酵。それも、約2年もの瓶熟成を経て出荷される逸品です。
グラスからは活きの良いキメ細かい泡が立ち昇ります。甲州種を使った日本のスパークリングワインもここまできたかと思える、その上質感はさすがです。
余談ながら、このワインは、昨年の伊勢志摩サミットでも提供されました。
今宵の「鮎の一夜干し」との相性はどんなものでしょうか。
「うるか」を塗ってはいますが、風味はひかえめで、天然鮎に特有の爽やかな香りを残しています。派手さのない甲州種のワインの香りと穏やかな味わいは、鮎の上品さを壊すこともなく、うるかの生臭みを引き出さずに違和感なく飲めますし、甲州の持つ青々しさがアスパラと見事にマッチしています。
ベストな組み合わせとまでは言いませんが、“泡モノ”の懐の深さというものをあらためて実感した、ひとときでした。
次は日本酒。奈良県の蔵元「大倉本家」が醸す『大倉 山廃特別純米・備前雄町』を合わせてみましょう。