日本人シェフの「takashi」もその1軒。フランス料理のベースの上に、和食材を積極的にメニューに組み込み、フュージョンを進化させた〈シェフのきょうの料理〉になっている。「Tofu」「Soba」「Washugyu」といった和食材ばかりか蛸と帆立のサラダ仕立てに「TobanjanVinegrette」、「SummerRoll」と名付けられた生春巻きには「Prosciutto」「Coconut‐Kaffir」「Lime‐GingerSauce」を使うなど多彩な食材を駆使してひと皿にまとめ上げている。〈フュージョン〉という名はすっかり定着してしまい、「takashi」のようなフュージョンの進化系の料理には、まったく新しい料理のネーミングを考案する必要がありそうだ。
「SEPIA」もそうした1軒ではなかろうか。店名からすると、イタリア料理店と思いこんで昼に出かけたのだが、パスタはスターターの一品としてオンリストされているにすぎなかった。昼時なので、近所のビジネスマンが次々と店を訪れ、予約をせずにやってきた人は断られるほどの盛況ぶり。
スープをとれば、なみなみと皿に溢れんばかりのスープを運んでくるのではなく、皿にすでに敷かれたにんじんの上に、テーブル上で緑鮮やかな豆のスープをサービスが注いでくれる。メインのサーモンの火の通しは極く軽めで、香りが生きている調理。すべての食材の鮮度と質が申し分ないからこその料理といえ、かつての量のみを誇るような皿はすっかり姿を消している。昼だからだろう、バーガーもメニューにある。鴨の脂で揚げたポテトが添えてあるとの表記に興味を覚え、そのバーガーを注文してみると、バーガーは過分な調味料の味はせず、フライドポテトは、フランスはボルドーのレストランで食べたと同じポン・フリット(フレンチポテト)を彷彿とさせるノスタルジックな味わいだった。アメリカで食べられる最高のフライドポテトと言ってよい。
今回は、店が夏休みということで訪れることができなかったが「L20」という話題のシーフードレストランまでシカゴにはある。もちろん、アメリカには欠かせないステーキハウスもどこも盛況のようで、そのなかの1軒「MORTON’S」へ出かけてみたが、伝統のステーキは健在だった。
シカゴはいまやアメリカのビジネスの最前線の一都市で、シカゴの空港はアメリカの各都市をつなぐ重要な拠点になっている。大都市は才能が集まる場所であることもひとつの魅力である。いま、シカゴはニューヨーク、サンフランシスコと並んで、「美食の新天地」と呼ぶにふさわしい街になっている。
*ユナイテッド航空機内誌9月号より転載