春の到来を告げる花々が咲き始めると、各地の駅弁にも春色の食材が揃う。車窓に万朶の桜を望みながらご飯と惣菜をほおばれば、口の中まで桜の香りに満たされるようだ。
津軽鉄道さくら弁当
青森県の津軽地方では、弘前公園の桜に続いて芦野公園(金木町)で開花し、春の絶頂を迎える。津軽鉄道の沿線にある芦野公園では「金木桜まつり」が開かれ、期間限定の「さくら弁当」が販売される。
津軽鉄道の名物といえば、海外の観光客からも人気の高い冬の風物詩「ストーブ列車」。それを見込み「ストーブ弁当」を売り出すと、1か月で300個を売り上げた。
「好評なので、第2弾を作ってほしいと津軽鉄道から注文がありました」と回想するのは、五所川原市内で和食レストラン『神家(じんや)』を営む神ゆり子さん(76歳)。平成20年(2008)の春から「さくら弁当」を作り続けている。
津軽の食材が詰まった滋味深い手作り弁当
弁当を開けると、塩漬けした桜の蕾の香りが鼻をくすぐる。ご飯のかたわらには、細かく刻んで炒めたフキノトウを味噌と合わせた「ばっけ味噌」。津軽ではフキノトウを「ばっけ」と呼ぶ。まだ根雪が残るうちから地上に現れる津軽を代表する山菜だ。味噌の風味に独特のほろ苦さが溶け合う。
ご飯は糯米(もちごめ)などからなる五穀米。惣菜に、津軽で親しまれている山菜にニシン漬けを加えた和え物、地元野菜の煮物、塩だれに漬け込んだ鶏肉のあみ焼き、焼き魚などが収まる。控えめな味付けから素材本来の味が伝わってくる。
評判を聞きつけた大手百貨店から催事への出品要請があったが、「ひとつひとつが手作りだから、数を用意できない」と辞退した。まさに、津軽に出向かなければ味わえない駅弁だ。それでも、芦野公園の花見に合わせて団体から大口の注文が入ることもしばしばという。「その時はもう大変。でも家族総出でどうにか対応しています」と、神さんは意に介さない。
津軽鉄道では、期間限定で四季折々の駅弁が楽しめる。春の「さくら弁当」と入れ替わりで夏の「だざい弁当」が始まり、秋には津軽平野の田園をイメージした「いなほ弁当」へと続く。いずれも『神家』が調製を手がける。
津軽でも桜の開花が年々早まっているという。今年も春を待ち侘びる津軽に「さくら弁当」の季節が訪れる。
津軽鉄道
青森県五所川原市字大町39
電話:0173・34・2148
販売期間:4月〜5月
販売:2個からの予約販売。注文は3日前まで。津軽五所川原駅、金木駅、津軽中里駅で受け取る。
1500本の桜が津軽に春を伝える芦野公園の桜まつり
芦野公園(芦野池沼群県立自然公園)は弘前公園と並ぶ津軽を代表する桜の名所。園内ではソメイヨシノを中心に約1500本が開花する。毎年4月下旬から5月上旬にかけて「金木桜まつり」が開かれ、延べ30万人を超える人出で賑わう。津軽鉄道芦野公園駅下車すぐ。
問い合わせ:五所川原市観光協会 電話:0173・38・1515
取材協力/津軽鉄道
取材・文/遠藤則男 撮影/杉崎行恭(津軽鉄道さくら弁当)(※杉崎の崎はただしくは「たつさき」)
※この記事は『サライ』2023年4月号より転載しました。