急ぎ足の観光客だけでなく、地元の「みやこ人」たちからもこよなく愛される京都の「おうどん」。出汁や麺、具材など個性豊かなメニューの数々と、その美味しさの秘訣を紹介する。
ふわふわの卵と濃厚な餡に生姜の風味が混ざり合う
権兵衛(けいらんうどん)
昭和2年創業の麺処『権兵衛』は、祇園という場所柄、歌舞伎役者や花街の芸舞妓も通う。近くの「南座」で歌舞伎公演がある日は、幕が下りた後、観客はもちろん関係者も訪れ賑わう。
こちらで名物との呼び声が高いのが「けいらんうどん」だ。地鶏の卵をたっぷりと使い、ふわふわトロトロに仕上げている。
一説では、かつて卵(鶏卵)は、高価な食材だったことから、それがうどんに入っているだけでもありがたいと、そのまま商品名になったと伝わる。
店主の味舌(ました)輝明さん(47歳)は「花街に通うお客様は、けいらんのことを、“江戸っ子の居座り”と呼ばれていました。けいらんを“けえらん”(帰らん)ともじったそうです」と話す。
時間をかけてとった出汁を小鍋に移し、水溶き片栗粉でとろみをつけてから、溶き卵を何回かに分けて流し入れる。「花が咲くように開かせると、ふんわりやわらかに仕上がります」と味舌さん。熱々の餡に生姜を溶かし込んで味わうと、身体も温まり、ほっと寛がせてくれる。
京都市東山区祇園町北側254
電話:075・561・3350
営業時間:11時30分~20時
定休日:木曜
交通:京阪本線祇園四条駅より徒歩約5分
取材・文/中井シノブ 撮影/高嶋克郎、竹中稔彦
※この記事は『サライ』2022年3月号別冊付録より転載しました。