ホテルの味を町場へ。京の素材を楽しむ中華割烹

私房菜すみよし(東山区)

長年、主に関西圏のホテルの厨房で腕を磨き続けた住吉直人さん(52歳)が念願の自店を構えたのは平成30年。店の構想を練り続けた結果、見出したのは「中華割烹」だという。

「イメージしたのは、京都のおばんざいを出す粋な店です。ホテルで提供するような質の高い中華料理を、町場で気軽に味わっていただきたいと考えました」
 
そう語る住吉さんは、カウンター越しの厨房で、ホテル勤務時代に培った技術を生かし、良心的な価格で多様な料理を提供している。

店で人気の甕出し紹興酒は10年もの。落ち着いた味わいで、幅広い味の料理に向く。1杯600円。ビール、ワイン、日本酒も常備。

和の要素を取り入れた美味

手がけるのは広東、四川の料理。広東のフカヒレ煮込みや、四川を代表する麻婆豆腐などの定番メニューも品書きに上る。一方で力を入れているのは、旬の食材を取り入れて中華に仕立てた独創性ある料理だ。近隣の日本料理店で出会った味に影響を受け、鱧や雲子(真鱈の白子)など、中華料理店ではあまり目にしない、和の食材も積極的に取り入れる。

「今の季節にぜひ召し上がっていただきたいのは、若狭湾の名物である甘鯛。通年出回る魚ですが、海水温の低い早春の頃の身は脂がのっていて美味しいものです」

と住吉さんは話す。うろこ揚げにし、ほんのり辛いエビチリ餡を合わせて熱々の土鍋で供する一品に体が芯から温まる。

甘鯛のうろこ揚げチリソース餡

京都では「ぐじ」の名で通っている甘鯛。店では主に若狭湾や駿河産を用いる。
皮目に熱い油をかけ続けてうろこを立たせ、チリソース餡と合わせた一品。はらはらと崩れるうろこ、しっとりした繊細な身に、海老油や自家製ラー油入りの餡が絡む複雑な味わい。1500円

「やり烏賊もいいですね。ちょうどこの時季は産卵前で身が肥えてくるので、弾力のある噛み応えが楽しめます。相性のいい青紫蘇を合わせて炒め物にすると最高です」

絶妙な火の通し具合もさることながら、ソースの隠し味に甘酒を加えて味に奥行きを出すという工夫にも感心させられる。

やり烏賊の青紫蘇炒め

肉厚のやり烏賊を丸一杯使った、弾けるような食感。爽やかな青紫蘇、甘酒入りのソースが烏賊の旨味を底上げする。2000円。

昼はコースが中心。創作性に富んだメニューは夜に酒とともに堪能できる。ひとりで訪れる客も多く、一品料理は半量で提供することも可能だというから、ひとり旅でも安心。店名に冠された“私房菜”とは、“プライベートキッチン”にあたる中国語。住吉さんの家に招かれたような肩肘張らない空間で、早春の味覚を堪能するのも一興だ。

シェフの住吉直人さん。昭和45年、兵庫県生まれ。京都「ウェスティン都ホテル」などで修業を積み、若い頃からの夢だった自店を開業。

私房菜すみよし


京都市東山区妙法院前側町420メゾン・ナイアーデ1階
電話:075・585・5707 
営業時間:11時30分~14時、17時30分~21時(ともに最終注文)
定休日:火曜
交通:京阪本線清水五条駅より徒歩約10分

取材・文/安井洋子 撮影/森本真哉

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※この記事は『サライ』2022年3月号より転載しました。

 

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