にわかに「京のおうどん」のブームが到来している。実はうどんこそが、京料理への入口だと食べ手が気づき始めたからだろうか。やわらかそうに見えるが中に芯が一本通り、コシはなくても、のど越しがいいうどん。
コシのあるうどんが持て囃された時も、みやこ人たちは好んでやわらかいうどんを食べ続けた。その理由は、出汁を存分に含むうどんを食すことが、この“郷土料理”の醍醐味だからである。
「時間をかけてひく出汁と、ふんわりしたうどんに、双方を引き立てるさまざまな具材。すべての調和が取れて初めて、“京のおうどん”らしい至極の一杯になります」と、老舗の麺処の店主たちは口を揃える。まさに“三位一体”の伝統料理である。
急ぎ足の観光客だけでなく、地元の「みやこ人」たちからもこよなく愛される京都の「おうどん」。出汁や麺、具材など個性豊かなメニューの数々と、その美味しさの秘訣を紹介する。
はんなりとした具材の彩り 趣ある佇まいで花街御用達
上七軒 ふた葉(しっぽくうどん)
しっぽくの由来は、京都府宇治市にある黄檗山萬福寺の卓袱(しっぽく)料理とも、椎茸の別名ともいわれている。香川県の郷土料理という説もあるが、京都風は、たっぷりの根菜とともに煮込む香川風とは見た目も味も違うもの。
京都最古の花街・上七軒の『ふた葉』では、甘辛く炊いた椎茸のほか、ほうれん草や蒲鉾、玉子焼き、焼き海苔、板麩などを具材にする。京都風の定番ともいえる形式だろう。
「昭和4年に祖父が開業して以来、出汁も具材も変えていません」と話すのは3代目の中島秀行さん(52歳)。当時から近くの北野天満宮の参拝者や上七軒を訪れる旦那衆らで賑わった。
「とにかく美味しくて安いものをと祖父からも言われてきました。そのためには出汁も具材も手作りするに限ります」と話す。
自店で混ぜ合わせる鰹節や雑節と昆布で、丁寧に出汁をひく。芸舞妓など花街の客も度々訪れるから、彩りも考え見た目も美しく整える。
噛むと旨味が染み出す椎茸や優しい味の玉子焼きや麩が滋味をもたらす。やわらか過ぎないつるっとした麺を味わい、柚子が香る出汁をすっと吸う。
石畳の街並みや店の風情も相まって、昭和の花街に舞い戻ったような気分になる。
京都市上京区今出川通七本松西入真盛町719
電話:075・461・4573 営業時間:11時~17時
定休日:水曜
交通:京都市営バス北野天満宮前バス停より徒歩約5分
取材・文/中井シノブ 撮影/高嶋克郎、竹中稔彦
※この記事は『サライ』2022年3月号別冊付録より転載しました。