文・石川真禧照(自動車生活探険家)




右テールランプ下に、給電用のプラグが配されている。



車の歴史を語るときに、メルセデス・ベンツの名は外せない。メルセデス自身も自社の車づくりの歴史には自信があるようで、紹介文の冒頭に「私たちメルセデスには自動車を発明した責任があります」と堂々と記されている。
確かに1885年、ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツが別々にガソリンエンジンの自動車を発明し、のちに2人が自動車会社を設立したという歴史を考えれば、メルセデスの主張は間違っていないし、世界中のどの自動車メーカーも文句は言えない。
それはスポーツカーの世界でも同じ。1945年以前、第2次世界大戦前までのメルセデス・ベンツのモータースポーツ界での活躍は目を見張るものがあった。スポーツカーがメルセデス・ベンツの名声づくりに果たしていた功績は大きかった。だからこそ、第2次世界大戦で壊滅的な被害を負った同社を再建させるときに、過去の名声を利用した。
それが「SL」という車だった。SL(Super Leicht=超軽量)は、公道を走行できるレーシングスポーツカーとして、戦後のモータースポーツ用車両から生まれた。1952年、最初のクーペが登場した。これはレース競技のために造られた車だったが、各地で優秀な成績を収めると、世界中の富豪や貴族から市販を求める声が、同社に寄せられた。1954年に造られたSLは300SL。そのドアは横開きではなく、上にハネ上がるガルウイング式だった。しかし、主市場の北米からは、屋根のないオープンカーの希望が強く、ロードスターが誕生した。以来、21世紀の現在まで、メルセデス・ベンツSLは、同社を代表するスポーツカーとして存在している。
300SL(プロトタイプ)

1952年に制作されたと思われる300SL。ドアはボディ上半身のガラス部分のみがハネ上げられ、ここから乗り降りしたようだ。
300SLクーペ

1954年にデビューしたクーペ。銅管フレームの構造上、普通のドアができなかったので、上下に開閉するドアを設けた。その姿を見て、輸出先のアメリカでガルウイングの名が付けられた。1954年から59年までに1400台がつくられ、日本にも新車が輸入されている。
300SL ロードスター



アメリカからの要望で、新たに構造を設計し直して、普通のドアのオープンモデルがつくられた。1957年に発表され、61年までに1858台が生産された、と言われている。
3代目 SLロードスター



SLは1954年に初代がデビューしてから、2026年まで72年間に7世代が登場している。一世代の生産期間が長いことでも知られており、3代目のR107型は、1971年から1989年の18年間も同じ型で生産、販売された。
初代誕生から実に70年以上も車名を継続している乗用車は、世界中でおそらく、この車ぐらいだろう。しかも、その性格も基本的に2人乗りのスポーツカーという姿勢を貫いてきた。
しかし、70年以上の歴史のなかで、ここ数年のSLは劇的な変化を遂げた。まず、車名がメルセデス・ベンツSLからメルセデスAMG SLに変わった。AMGというのは1960年代からメルセデス車をベースにレースなどに参戦していた会社で、その技術力の高さを認めたメルセデスが1988 年に提携を持ち掛け高性能車を造ってきた。そのAMGが、最新のSLの開発をメルセデス本体から任された。AMGはエンジンからSL専用に開発し、発売した。しかもフォーミュラ1レースに出場しているメルセデスエンジンのノウハウから、電気+モーターを使ったプラグインハイブリッド車をSLに仕立てた。




エンジンはV型8気筒のガソリンツインターボで、排気量は4L。これを車体前部に搭載し、車体後部には電池とモーターを載せている。電池は外部充電もできるプラグイン方式を採用。モーター+電池は後輪を主に駆動するが、モーターだけでも約15kmは走行できる。排気音もたてずにガレージから、周囲の人に気づかれずに早朝ドライブにも出掛けられるというわけだ。
ところが実際に走り出してしまうと、街中でのV8エンジンは音も振動も小さく、目の前のエンジン回転計を見ないとエンジンで走っているか、モーターで走っているのかはコンフォートモードではわからない。電池への充電は200Vのほか、走行中の回生ブレーキでも行われる。ちなみに、200Vでのガレージでの充電では電池残量18%から100%の満充電まで1時間半ほどだった。



SLの楽しさはEV走行ではない。フォーミュラ1をはじめモータースポーツで培った技術は、スポーツモードを選択すれば十二分にスーパースポーツカーらしい走りを楽しませてくれる。V8エンジンも4000回転を超えると、それまでの紳士的な佇まいは一変し、排気音も野太く、音量も大きく周囲を圧倒させる。
エンジン+モーター+4輪駆動+電子制御を搭載したSLの走行性能の高さは当然だがスポーツカーのなかでもトップクラス。9速ATでの加速は手持ちの時計での計測でも停止から時速100キロまで、3秒台だった。加速力を誇るスポーツEVと肩を並べるスピードをV8、4Lエンジンは可能にしている。





SL本来のスポーツカーの味わいと最新技術も楽しめるこの車は現時点では世界最高のスーパースポーツカーの1台といえる。
「私たちメルセデスには自動車を発明した責任があります。」というメルセデスの誇りは最新スポーツカーにも受け継がれていた。
メルセデス・ベンツ/メルセデスAMG SL 63 S E パフォーマンス
| 全長×全幅×全高 | 4705×1915×1365mm |
| ホイールベース | 2700mm |
| 車両重量 | 2170kg |
| エンジン/モーター | V型8気筒3982cc/交流同期 |
| 最高出力 | 612ps/5750~6500rpm/209ps |
| 最大トルク | 850Nm/2500~4500rpm/320Nm |
| 駆動形式 | 4輪駆動 |
| 燃料消費率 | 8.4km/L(WLTC) |
| 使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/70L |
| ミッション形式 | 電子制御9速AT |
| サスペンション形式 | 前:5リンク式 後:5リンク式 |
| ブレーキ形式 | 前:ベンチレーテッドディスク 後:ベンチレーテッドディスク |
| 乗員定員 | 4名 |
| 車両価格(税込) | 3350万円 |
| 問い合わせ先 | 0120-190-610 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





