文・石川真禧照(自動車生活探険家)

4輪5リンク式サスペンションとAMGダイナミックセレクトを組み合わせた走りは、街中から高速道路、ワインディングまで豪快に走り抜けることができる。
グリル中央にスリーポインテッドスター。タテのメッキバーの入ったグリルは最初のレース仕様で、数々のレースで活躍した300SLのオマージュ。
全長4.7m、ホイールベース2.7mのちょうど中間に運転席がある。これがスポーツカーの理想形と言われている。

右テールランプ下に、給電用のプラグが配されている。
筋肉質なプロポーションはSLがスポーツカーとしての原点に回帰したことを裏付けている。
ボディ後半のなだらかに下りる曲面も初代SLをイメージしている。
ソフトトップは構造材にスチール/アルミを用い、軽量化している。幌の色はブラックが標準色でグレーとレッドが有償オプション。

車の歴史を語るときに、メルセデス・ベンツの名は外せない。メルセデス自身も自社の車づくりの歴史には自信があるようで、紹介文の冒頭に「私たちメルセデスには自動車を発明した責任があります」と堂々と記されている。

確かに1885年、ゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツが別々にガソリンエンジンの自動車を発明し、のちに2人が自動車会社を設立したという歴史を考えれば、メルセデスの主張は間違っていないし、世界中のどの自動車メーカーも文句は言えない。

それはスポーツカーの世界でも同じ。1945年以前、第2次世界大戦前までのメルセデス・ベンツのモータースポーツ界での活躍は目を見張るものがあった。スポーツカーがメルセデス・ベンツの名声づくりに果たしていた功績は大きかった。だからこそ、第2次世界大戦で壊滅的な被害を負った同社を再建させるときに、過去の名声を利用した。

それが「SL」という車だった。SL(Super Leicht=超軽量)は、公道を走行できるレーシングスポーツカーとして、戦後のモータースポーツ用車両から生まれた。1952年、最初のクーペが登場した。これはレース競技のために造られた車だったが、各地で優秀な成績を収めると、世界中の富豪や貴族から市販を求める声が、同社に寄せられた。1954年に造られたSLは300SL。そのドアは横開きではなく、上にハネ上がるガルウイング式だった。しかし、主市場の北米からは、屋根のないオープンカーの希望が強く、ロードスターが誕生した。以来、21世紀の現在まで、メルセデス・ベンツSLは、同社を代表するスポーツカーとして存在している。

300SL(プロトタイプ)

1952年に制作されたと思われる300SL。ドアはボディ上半身のガラス部分のみがハネ上げられ、ここから乗り降りしたようだ。

300SLクーペ

1954年にデビューしたクーペ。銅管フレームの構造上、普通のドアができなかったので、上下に開閉するドアを設けた。その姿を見て、輸出先のアメリカでガルウイングの名が付けられた。1954年から59年までに1400台がつくられ、日本にも新車が輸入されている。

300SL ロードスター

アメリカからの要望で、新たに構造を設計し直して、普通のドアのオープンモデルがつくられた。1957年に発表され、61年までに1858台が生産された、と言われている。

3代目 SLロードスター

SLは1954年に初代がデビューしてから、2026年まで72年間に7世代が登場している。一世代の生産期間が長いことでも知られており、3代目のR107型は、1971年から1989年の18年間も同じ型で生産、販売された。


初代誕生から実に70年以上も車名を継続している乗用車は、世界中でおそらく、この車ぐらいだろう。しかも、その性格も基本的に2人乗りのスポーツカーという姿勢を貫いてきた。

しかし、70年以上の歴史のなかで、ここ数年のSLは劇的な変化を遂げた。まず、車名がメルセデス・ベンツSLからメルセデスAMG SLに変わった。AMGというのは1960年代からメルセデス車をベースにレースなどに参戦していた会社で、その技術力の高さを認めたメルセデスが1988 年に提携を持ち掛け高性能車を造ってきた。そのAMGが、最新のSLの開発をメルセデス本体から任された。AMGはエンジンからSL専用に開発し、発売した。しかもフォーミュラ1レースに出場しているメルセデスエンジンのノウハウから、電気+モーターを使ったプラグインハイブリッド車をSLに仕立てた。

AMGが独自に設計し、製作するV型8気筒ガソリンエンジン。
エンジンルーム内には、このエンジンを組み上げた技術者の名前の入ったプレートが貼られている。
バンパーの一部を開けて、給電する。
電池の残量もグラフと数字で表示される。

エンジンはV型8気筒のガソリンツインターボで、排気量は4L。これを車体前部に搭載し、車体後部には電池とモーターを載せている。電池は外部充電もできるプラグイン方式を採用。モーター+電池は後輪を主に駆動するが、モーターだけでも約15kmは走行できる。排気音もたてずにガレージから、周囲の人に気づかれずに早朝ドライブにも出掛けられるというわけだ。

ところが実際に走り出してしまうと、街中でのV8エンジンは音も振動も小さく、目の前のエンジン回転計を見ないとエンジンで走っているか、モーターで走っているのかはコンフォートモードではわからない。電池への充電は200Vのほか、走行中の回生ブレーキでも行われる。ちなみに、200Vでのガレージでの充電では電池残量18%から100%の満充電まで1時間半ほどだった。

4つの丸型をした空気吹き出し口が特徴のインパネ。インテリアは有償オプション(132万6000円)のAMGカーボンパッケージを装着している。
メーターは360km/hまでのスピードメーターと、8000回転までのエンジン回転計が中心。
前席中央のデジタルディスプレイは11.9インチの縦型画面。ドライブモードは、8つのモードがあり、変速機、ハンドル特性、サスペンション減衰力、エンジン、電気モーターなどの設定が変わる。

SLの楽しさはEV走行ではない。フォーミュラ1をはじめモータースポーツで培った技術は、スポーツモードを選択すれば十二分にスーパースポーツカーらしい走りを楽しませてくれる。V8エンジンも4000回転を超えると、それまでの紳士的な佇まいは一変し、排気音も野太く、音量も大きく周囲を圧倒させる。

エンジン+モーター+4輪駆動+電子制御を搭載したSLの走行性能の高さは当然だがスポーツカーのなかでもトップクラス。9速ATでの加速は手持ちの時計での計測でも停止から時速100キロまで、3秒台だった。加速力を誇るスポーツEVと肩を並べるスピードをV8、4Lエンジンは可能にしている。

前席は幌を閉じると、若干の圧迫感はある。着座位置はやや高めで、ボンネットの位置は確認できる。シートカラーはオプションを含め、8色が用意されている。
簡素だがリアシートも備わる。着座できる乗員の身長は150cmまで。チャイルドシート装着時は135cmまでがメーカー推奨。
開口部は高く、奥行も限られているが、幌の開閉によるトランクスペースの変化はない。
ボディ外板と面一のドアハンドルは、軽く触れると、このように飛び出す。
車体後部のウイングは一定の車速に達すると立ち上がる。スイッチで立ち上げることもできる。

SL本来のスポーツカーの味わいと最新技術も楽しめるこの車は現時点では世界最高のスーパースポーツカーの1台といえる。

「私たちメルセデスには自動車を発明した責任があります。」というメルセデスの誇りは最新スポーツカーにも受け継がれていた。

メルセデス・ベンツ/メルセデスAMG SL 63 S E パフォーマンス

全長×全幅×全高4705×1915×1365mm
ホイールベース2700mm
車両重量2170kg
エンジン/モーターV型8気筒3982cc/交流同期
最高出力612ps/5750~6500rpm/209ps
最大トルク850Nm/2500~4500rpm/320Nm
駆動形式4輪駆動
燃料消費率8.4km/L(WLTC)
使用燃料/容量無鉛プレミアムガソリン/70L
ミッション形式電子制御9速AT
サスペンション形式前:5リンク式 後:5リンク式
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク 後:ベンチレーテッドディスク
乗員定員4名
車両価格(税込)3350万円
問い合わせ先0120-190-610

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
3月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店

SNS

公式SNSで最新情報を配信中!